麻美の希望
「貴女、東京から来たの?」
かすみより先に麻美のが質問する。
「あの、えっと。」
「どちらなの?」
「はい。」
かすみは頷く。
「やっぱりそうだと思った。洋装するのは東京の人だもの。」
かすみは居間の姿見に写る青いワンピースに白い半袖カーディガンを着た自分を見る。
「東京って百貨店とかあるのでしょ?女学校ってどんなところ?」
麻美は少女雑誌をかすみに見せる。
「麻美お姉ちゃん、東京に行きたいの?」
夏美が尋ねる。
「東京に行きたいからお祭りの巫女さんをやりたくないの?だったら巫女さんやれば東京に行けるかもしれないよ。去年の葵ちゃんみたいに。」
この島は富裕層の避暑地にもなっておりこの時期は東京から華族やお金持ちがやってくる。お祭りを楽しんでいく者もいる。去年麻美の2つ年上の葵という娘がお祭りの巫女を演じ休暇で来ていた伯爵家の御曹司に見初められ結婚し噂では今では東京で暮らしてるという。
「違うの、私は別に結婚がしたい訳じゃないの。」
麻美は少女雑誌の頁を開く。そこには都会で働く職業夫人の姿があった。バスガールにカフェガールそして百貨店の化粧品販売員。
「私は東京に行って百貨店で働きたいの。洋装の制服を着て。だから協力してほしいの。」
「でも麻美お姉ちゃん、東京までどうやって行くの?島の人は皆お姉ちゃんが巫女さんをやるのを知ってるんだよね?」
「それでかすみちゃんにお願いがあるの。」
お祭りの日の夕方着付け師の女性が到着する。
「失礼致します。着付けに参りました。」
襖を開けると既に巫女の衣装に着替えた麻美が座っていた。頭には白い絹の布を被っていて顔はよく見えない。傍らには夏美もいる。
「もうお着替えはお済みでしたか?!」
着付師は驚いたように尋ねるが麻美は問いかけに黙っている。
「うん、先に着付けちゃったたの。私も手伝ったんだよ。」
代わりに夏美が答える。
「麻美、着替えは済んだか?」
今度は神主である父がやって来る。しかし麻美は俯いたままで無言のままだ。
「麻美お姉ちゃん緊張してるんだよ、だからお父さんも着付師さんも出てって。」
夏美が2人を追い出すと部屋には姉妹2人が残る。麻美は紙を手にして書かれた文を読んでいる。正確には歌っているが。
その頃船着き場にはお祭りを見に来た観光客で賑わっていた。待合室には1人の少女が待っていた。青いワンピースに白いカーディガン、白い帽子を深く被った少女だ。
本島に行く船の搭乗を待っている。アナウンスが搭乗の開始を告げると船に乗り込む。
船は数分で出港した。島が遠くになると少女は帽子をとる。
「良かった。かすみちゃんが身代わりになってくれて。」
彼女は麻美だった。麻美は古い本を鞄から取り出す。
「だって葵ちゃんの二の舞になるなんて御免だもの。私はもっと生きたいもの。」




