90.協力者
翌日の朝、学園長の発表があった。
「コゴメ・ハーヴェル王女の特別近衛騎士として、本日より卒業生のセン・ヴァルトが着任する。皆、協力して欲しい」
それだけだった。
昼前に、セン・ヴァルトは学園に現れた。
年齢は十八を迎えたが細身であることは変わらない。相変わらず眠そうな目をしている。
ただ、茶色の髪が以前は短かったのに対して今では後ろで結ばれる程度には長くなっていた。
学園の制服ではなく、軽鎧に似た外出着を纏っている。胸元に、少し古くなった近衛騎士の紋章が光っていた。
印象は——穏やかだった。
目が優しい。声が柔らかい。しかし、それが外側だけでないことは少し話せば分かる。
レインは昼の食堂でダリア、ミレイユが並んで、入ってきたセンを目にした。
「……あれがセンさん。近衛騎士としての箔がついてますね。レインとはまるで違う」
「なんで俺と比べるんだよ!」
「うるさい、耳元で叫ばないで。それに、レインが近衛騎士になりたいのなら見習うです」
「……んー、そういうもんか」
「そういうものです」
納得した所でレインは改めてセンの姿を見た。
「なんか、思ってたより普通な感じがする」
「普通に見える方が、実力者に多い。それにセンさんの場合は余裕があると言う方が正しい」
センは食堂を見回して、コゴメの席を探した。見つけると、まっすぐ歩いていった。
コゴメが顔を上げた。
その表情が少し変わった。懐かしさを感じているようだった。
「セン先輩」
「久しぶりですね、コゴメ様」
センが穏やかに言った。
「しかし、また厄介な状況になってしまいましたね」
「……ごめんなさい」
「謝らなくていいですよ。こういう時のために、俺たちがいるんです。あの時の少年の事は聞きました。離れるのはコゴメ様にとっても辛いでしょう」
センがコゴメの向かいに座った。
レインはその会話を少し離れた場所から見ていた。
(……コゴメ王女が、少し安心した顔をした)
「ダリア、センさんとはどう関わる」
「俺の役割はあくまでミレイユの護衛。そしてセン先輩の役割は姉様の公式な護衛。それに干渉しすぎない方がいい。ただ状況の共有は必要だ。後で話しかけてみる」
「そうか」
◆◇◆◇
その夕方、演習棟の外でダリアはゼンに話しかけた。
「セン先輩」
「ダリアくんか。話は聞いてる。炎の加護を得たらしいじゃないか。立派だね」
「ありがとうございます。……単刀直入に聞きます。先輩は今の状況を、どの程度把握していますか」
「学園側からの説明と、コゴメ様からの話は聞いた。アダムという組織が動いていること。教員が術式で干渉されていること。生徒の一部が取り込まれていること、ルベルド•クレインのことも」
ダリアは動かなかった。
「……先輩は、あの子についてどう思いますか」
「学年別大会の時も、選抜試験の話を聞いた時にも、話通りの面白い子だと思った。コゴメ様を心から思っている。本当に変わった子だと思ったよ」
「魔族であることを踏まえての先輩の判断を聞いています」
「俺の判断は——シンプルです」
ゼンが少し笑った。柔らかい笑い方だった。
「コゴメ様が信頼している人間を、俺は否定しない。魔族かどうかは、関係ない。あの子がコゴメ様を守ろうとしていたことは事実で、コゴメ様もそれを知っている」
「……単純な判断ですね」
「単純な方が正確だったりするよ」
ダリアは少し黙った。
「ルベルドが戻ってくることを、先輩は信じますか」
「コゴメ様が待っている限り、俺はその可能性を否定しないよ」
「……分かりました」
ダリアが一歩下がった。
「俺は学園の内部の監視を担当します。先輩はコゴメ姉様の直接の護衛を。情報共有は毎日、朝の演習時間に」
「本当に君はしっかりしているね。よろしく、ダリアくん」
センが手を差し出した。
ダリアはそれを握り返した。




