80.頼れ(レイン、ダリア視点)
演習棟の裏手に現れた黒外套の男たちは、三人いた。
先頭の男が魔力を滲み出した。刻印を使っているのが分かる——ただし、ガルム島で見たズームよりは弱い。
それに刻印も改良版ではない古いタイプだ。
「ミレイユ令嬢。抵抗しなければ傷はつけない」
「……断ると言いました」
ミレイユが前に出ようとした。ダリアがその前に立った。
「下がれ」
「どいてください」
「言うことを聞け。お前を守るためにここにいる」
「私は守ってもらう必要がない!!」
「今はそういう言い合いをする場面じゃない」
ダリアが言い切った。炎を両手に纏った。加護の炎が、演習棟の壁を赤く染めた。
レインもダリアの隣に立った。
「……まぁ、こんなヤツらに負けるとかありえないよな!!」
「そうだな」
レインとダリアの言葉を聞いて刺客三人が動いた。
先頭の男が刻印の出力を上げた。魔力の塊が三発、立て続けに来る。
ダリアが炎の壁を展開した。一発、二発どちらも火の中に呑み込まれた。
三発目はレインの土の障壁が受け止めた。
「後ろに下がれ!!」
レインがミレイユに叫んだ。
「自分で戦えます!」
「今は下がってくれ!!お前をこういう奴らから守るのが俺が近衛騎士になる理由なんだ!!」
「……っ」
ミレイユが少し止まった。その隙に、側面から別の刺客が来た。
「ミレイユ!!」
レインが土の壁を横から出した。刺客の攻撃が壁に当たった。壁が崩れる。レインが次の壁を生成しながら後退した。
攻防が続いた。
三人の刺客は連携が取れていた。一人が攻め、二人が援護する。変則的な位置取りをしてくる。
ダリアが中心の刺客に炎の糸を五本放った。刻印強化の男が防御したが、一本が当たった。肩口から煙が出た。
「……なかなかやるな」
「そんな安易な感想を出している余裕があるのか」
ダリアが踏み込んだ。炎の輪の展開に入る——その瞬間、左側から別の刺客が奇襲してきた。
「ダリア!!」
レインが水の刃を横から走らせた。刺客の腕に当たって攻撃がそれた。ダリアが体勢を立て直す。
「助かった」
「とりあえず一人倒そう!!そしたら連携が崩れるはずだ!」
刺客の一人がミレイユの方に向かおうとした。それをレインが見た。
「ミレイユ!!その場を動くな、今すぐ——」
「動きます!!私も戦えます!!」
ミレイユが動いた。
手から魔法を放った。水属性——いや、違う。透明な力の刃だった。
(え……あれは何の属性だ)
レインが驚くが刺客も驚いた顔をした。
「あれは、令嬢の祝福か───」
刃が刺客に当たった。防御があっても通った。祝福の力は魔法とは性質が違う。押し返せない。
刺客が吹き飛んだ。
残りの二人が、ミレイユを見た目が変わった。
「令嬢の力がそこまで——」
「確保するより俺たちこのままじゃ勝てない。状況を変えろ」
レインが吹き飛んだ刺客を土魔法で動けないように固めた所で水魔法でより強固に離れられないようにした。
焦りからな連携が乱れているがダリアとレインの攻撃を交わし隙を見て攻撃をしようと動いてきた。
「ミレイユ!!俺の後ろに来い!!」
「来ません!!私は——」
「頼むから来てくれ!!」
「……」
「お前が強いのは分かってる!!でも今は俺たちを信じてくれ!こいつらに勝ってもお前が攫われたら終わりだ!!俺とダリアで二人を引きつけるから、お前はタイミングを考えて攻撃するんだ!……なぁら俺をもっと頼れよ!!」
叫んだ。
ミレイユが止まった。
(……レインが怒っている)
初めて見る顔だった。いつも笑っている男が、今は全然笑っていない。ただ真剣に——ミレイユを見ていた。
「……なんで」
「なんでって、なにが」
「なんで怒っているんですか。私が勝手に動いたから迷惑をかけたとか、そういう話なら」
「違う!!お前のことが心配なんだよ!!!」
ミレイユが——少し、固まった。
レインが続けた。周囲の刺客への警戒を一切緩めないまま、ミレイユの方を見て言った。
「お前が強いのは分かってる。姉さんに憧れて、守ってもらわなくていい力をつけようとしてきたのも分かる。それは全部本物だと思う。でも——強い人だって助けを借りていいんだ。頼っていい。頼ることと弱いことは別だ。お前の姉さんだって、一人で全部やってきたわけじゃないと思う」
「……姉は——」
「俺の兄貴もそうだ。大地神の加護を持ってて、俺が一番尊敬してる人間だ。でも兄貴だって、俺を頼る。隣で話を聞いてくれって言う時はある。強くても、頼れる奴がいた方が強くなれると思う」
一瞬、静けさが来た。
「……だから俺をもっと頼れよ。それだけでいいんだ」
ミレイユの目が、揺れた。
揺れた。確かに揺れた。
それからミレイユが——レインの後ろに来た。
「……分かりました。今だけ、頼ります」
「それで十分だ!!」
レインがダリアを見た。ダリアが小さく頷いた。
残りの二人を、二人で相手にする。
ダリアが炎を全開にした。加護の炎が演習棟の裏を染めた。それと同時にレインが地面に水を流して足元を不安定にさせた。刺客の二人が体勢を崩した。
ダリアの炎の輪が展開された。
逃げ場がない。
「——退くぞ」
刺客の一人が言った。もう抵抗できないと判断した声だった。
「連絡を入れる。今日はここまでだ」
「……だから逃がさないって!」
レインが土を伸ばした瞬間──三人はどこかへと急に消えた。
は、と三人が揃って声を出した。
◆◇◆◇
静けさが戻った。
三人が演習棟の壁に寄りかかって息を整えた。敵が急に消えた事に関しては理解が追いつかないので一旦考えない事にした。
ダリアが先に言った。
「全員無事か」
「俺は問題ない」
「私も」
ミレイユが短く言った。いつもと同じ声だったが——少し、違った。柔らかい何かが混じっていた。
「……さっきの話」
ミレイユがレインを見た。
「どこまで本気で言いましたか」
「全部本気だよ」
「……姉は、一人でやってきた人じゃないかもしれない、という話」
「分からないけど。俺が思ったことを言っただけだ。でも——お前のことは、間違いなく本気で心配している」
「なぜ。私はあなたに心を開いていない。最初から素っ気なくしてきた」
「それでも心配したくなったんだから、しょうがないだろ」
ミレイユが少し沈黙した。
「……姉は」
静かに言った。
「……姉は、近衛騎士を断ったのは、近衛騎士が自分の限界を決めてしまうような気がしたからだと、手紙に書いていました。もっと自由に、もっと遠くに行きたかったって。私は姉の背中を見て、同じようにしたいと思いました。でも……」
ミレイユが少し目を逸らした。
「正直に言えば——入学した時、少し心細かった。全然知らない場所で、誰も知らなくて。でも姉がそうしたから、私もそうすると決めていたので」
「それを今俺に言ってくれるのか」
「……なぜか話したくなりました。なぜかは分からないけど」
レインが笑った。
「俺は分かるよ。お前がもう少し心を開いてくれたってことだろ」
「……開いてなどいない!勘違いするなこの馬鹿者!」
「開いてる。絶対開いてる!!」
「開いていません!!もううるさい!!」
ミレイユが顔を赤くした。それをレインが全力で笑った。
ダリアが小さく息をついた。
(……まあ。これはこれで、悪くない)




