78.認めない
「……あ?」
全てを破壊すると思われた一撃は魔力すら籠らない腕1本で止められた。その事にズームは声を漏らした。
「おい、ルベルド何をした!?どういうことだ……お前、何者だく」
ズームが錯乱している。初めてみた姿だ。
ただルベルドは答えない。ルベルドもまた起きた現状を理解出来なかった。
(……ズームの攻撃の瞬間、腕が自然と伸びた。両腕に溜まった力が放たれる時に、それを俺は)
観察が好きなルベルドには魔力の流れを読む特技があった。──ただ、読めるだけのはずだった。ただこの瞬間は魔力の流れを変えた。それは小さな変化。生物は行動をする時に脳が指令を出した通りに動く。ズームの攻撃も当然脳に基づく動きだ。
動く事を決めてから、実行に移すまでを100とした時ズームは限りなく100に近い99の段階にいた。ルベルドがしたのは99までの数字をどこか1つずらす事だった。動くまでに決められた流れが1つズレた、その小さくも重要なズレが起きたことで、ズームの攻撃は「元から無かったもの」としてリセットされたのだ。
「……ヴァッ!グッ」
ズームが血を吐いて膝を着いた。
ルベルドがズームの方を見る。
「この勝負、俺の勝ちだな」
「っ、待て!認めねぇ。こんなの認めない。おかしい。おかしいだろ」
手を血走らせたズームが擦れた声で叫んだ。
「事実は事実だ。……前回は見逃した。だが今回は見逃せない。この騒ぎだ、直ぐにお前は捕えられる」
「黙……れ!ルベルド!」
(……遅れてだが痛みを感じている。逃げる事は出来ない)
「そうだコゴメ。コゴメ、大丈夫か!」
本棚の奥へと入っていった。コゴメは座っているようだ。
「コゴメ……コゴメ?」
名前を呼んでも返事が無い。
ルベルドは急いで駆け寄った。意識を失っているようだ。
(あれ程の衝撃だ。意識を失っても……)
そう考えた時だった。コゴメの左腕に小さな傷跡を見つける。針が刺さった程度の小さな痕だ。
「……まさか」
嫌な予感がした。今回ズームの目的は、祝福を受けた人間。その人間の何を欲したか。
ルベルドはコゴメを担いで急いでズームのいた方へ戻った。
その先には、思いも寄らぬ光景が待っていた。
「お前、何者だ……!」
ズームの隣には1人の男が立っていた。
歳は30近くだろうか。黒い髪を背中まで長く伸ばした男。服は聖堂で働く修道士のような黒と白が混ざったもの。肩から赤い布のようなものをかけている。
顔は不機嫌そうに少しだけ顔を歪めている。
それだけなのにルベルドが気圧されていた。
「貴方がズームを倒したと、見ていましたよ。見事でした。流石は魔王の息子……と言うべきでしょうか」
「───なぜそれをっ!」
男は少し顔に笑みを浮かべた。
「面白いことを聞く。貴方はよく磨かれた宝石とそこらの石の違いが分からないのですか」
煽りではない。純粋な疑問のように男は答えた。ルベルドは何も言えない。
「本当は、ルベルド──貴方をここで消して神に魅入られた娘も欲しい。ただ、それをすると恐ろしい獣の尻尾を踏んでしまう」
「何を言っている」
「こちらの話です。……それより、私は機嫌が悪い。力に胡座をかいて目的を誤った。しかし、彼をよく理解せず命じた私にも非がある。それが腹立たしい」
表情は依然として大きく変化はしない。
それなのに溢れる力は増していく。このような奇怪な人間は初めてだ。
(……この男は、人間なのか?)
ルベルドは思った。刻印のような歪みも、神のような力も感じない。それなのに、スルクに近い力を感じている。
「サンプルは手に入れました。目的は仮だけれど済んだと言うことになります。私たちは去ります。……私たちを追うのなら、また会うことになるでしょう」
「……待て、お前は一体」
「教えないと言ったでしょう」
男はズームと共に姿を消した。その場に残ったのは倒れた本棚の中で立ちすくむルベルドと、抱えられたコゴメだけだった。




