76.走り出せ
ルベルドが演習棟から図書棟へ向かう廊下を歩いていた時、空気の変化を感じた。
厚みのない変化だった。しかし——確かにある。魔力の乱れが、学園の敷地の外周から内側に向かって入ってきている。
(……刺客か)
ルベルドは足を止めた。
校内に複数の魔力の流れが混入している。一つではない。三つ、いや四つ以上。それぞれが分散して、別々の方向から入ってきている。
目的は何か。
(スルクが言っていた。令嬢格の祝福を受けた人物は、実験対象として狙われる可能性がある。コゴメ、エヴァ——そしてミレイユも)
その瞬間、遠くで何かが爆ぜる音がした。
学園の東棟の方向だ。
ルベルドは走った。
走りながら魔力を感じ取る。近い方の二つは東棟。遠い方の二つは北の中庭。そして——
もう一つ。
学園の中心、図書棟の方向から、圧倒的な魔力の塊が来ていた。
(……ズームだ)
重さが違う。他の刺客と桁が違う。あの圧力は——ガルム島で戦った時と同じだ。
(コゴメは図書棟にいる。間に合わなければ——)
ルベルドは走った。
廊下を曲がる。階段を飛び降りる。
もう一つの魔力の流れを感じた。コゴメの魔力だ。回復属性の柔らかい感触。まだ動いていない。無事だ。
しかしズームの圧力が近づいている。
「コゴメを守れるのは俺だけだ」
ルベルドは呟いて、図書棟の扉を開いた。
同じ頃、北の中庭では——
ユーリが走っていた。
エヴァがいる方向へ。エヴァは今日の午後、中庭の東屋で一人でいるはずだった。
二人の刺客が東屋に向かっているのを、ユーリは魔力の感知で掴んでいた。光の加護の副産物として、周囲の魔力の流れを敏感に感じ取れるようになっていた。
(間に合う)
ユーリは確信を持って走った。
そして西側の演習棟の裏手では——
ダリアとレインが、ミレイユとともにいた。
三人は授業の後に残って演習棟の外で話していた——いや、正確には、レインがミレイユに話しかけていて、ミレイユが少し困った顔でそれを聞いていた。ダリアは少し離れた場所で腕を組んでいただけだ。
その時、演習棟の裏の壁を破って、三人の黒外套の男が現れた。
「令嬢の確保を優先せよ」
男の一人が言った。目が、ミレイユの方に向いていた。
ミレイユが一瞬で構えた。
「何者」
「大人しくしてもらえれば傷つけない」
「……断ります」
ミレイユの手に魔力が集まった。
ダリアが前に出た。レインも並んだ。
「令嬢から離れろ」
ダリアが言った。声に熱があった。




