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魔王リライト  作者: ゆずリンゴ


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74.新しい令嬢

 九月の末、進級式が行われた。


 二年生が三年生へ、三年生が四年生へと進む。それと同時に、新しい一年生が学園に迎えられる。


 学園の大ホールには、新入生の列が並んでいた。


 ルベルドはレインと並んで観覧席に座り、式が進むのを静かに見ていた。三年生になった今年、近衛騎士の職務も正式に始まる。式の間はコゴメの少し後ろに控えた。


「今年はどんな一年生が来るんだろうな」


 レインが小声で言った。


「見ていれば分かる」


「そうだけど、ちょっとワクワクするじゃないか。俺たちが一年生の時みたいに」


 ルベルドは答えなかった。


 新入生の一団が入ってくる。どれも緊張した顔をしている。整列した一年生の中に、少し違う雰囲気の入場があった。


 別の扉から、一人の少女が入ってきた。


 年は十二、三だろう。少し茶色がかった赤みの強い短めの髪。背筋が伸びていて、歩き方に無駄がない。顔の作りは整っているが、その目が——どこか頑なな光を持っていた。自分を通す、と決めている目だった。


 引率の教員が小声で「こちらに来なさい」と言っているのが見えた。少女は少し間を置いてから、言われた通りに動いた。しかし表情は変わらなかった。


「あの子、なんか雰囲気あるな」


 レインが言った。


「……祝福を受けた令嬢だな。普通の入学とは別の扱いになる」


「そういうことか。でもなんかあの目、変わってる。全然怯えてない」


「怯えていないのは良いことだろう」


「そうだな!!でもすごいな、あの歳で」


 進級式が終わった後、学園の代表教員から令嬢の紹介が行われた。


「今年度、新たな祝福受領者として本学園に入学されました。ミレイユ・アルヴ令嬢です」


 ミレイユ・アルヴ。


 その名前を聞いたコゴメが少し目を細めた。何かを知っているような反応だった。


 紹介の言葉が続く中、ミレイユは前を向いたまま黙っていた。


 そして最後に教員が言った。


「ミレイユ令嬢の近衛騎士の選定については、今年の選抜試験で優秀な成績を残した者の中から、近日中に——」


「必要ありません」


 会場が静まった。


 ミレイユが言った。澄んだ、しかし確固とした声だった。


「私に近衛騎士は要りません。護衛が必要なほど弱くないので」


 教員が少し顔を引きつらせた。


「し、しかし規則として——」


「規則なら読みました。令嬢は近衛騎士を選ぶことができると書いてある。選ぶことができる、であって必ずしも持たなければならないとは書いていない」


「……それは解釈の問題であって」


「解釈の余地があるということは、私の解釈も通るということです」


 会場が一瞬、静まり返った。


 ルベルドは小声でレインに言った。


「……見どころがある」


「そうか!?俺には少し怖い感じがするけど!!」


◆◇◆◇


 話はその日のうちに広まった。


 ミレイユ・アルヴという新入生令嬢が、近衛騎士の受け入れを拒否した。令嬢が近衛騎士を拒否することは、学園の歴史上ほぼ例がないことだった。


 ダリアに話を聞いたのは翌日の朝だった。


「アルヴという名前か」


「知っているのか」


「その姉を知っている」


 ダリアが少し間を置いた。


「ルイーズ・アルヴ。四年前の卒業生だ。この学園の令嬢として入学したが、近衛騎士を最終的に辞退して騎士として働いた。今は北方の騎士団に所属している。祝福を受けた令嬢の中でも屈指の実力を持ち、近衛騎士よりも己の力だけで道を切り開いた人物だ」


「……そういう令嬢がいるのか」


「コゴメ姉様も名前を知っていた。令嬢の間では有名な話らしい。強くて、自由で、誰にも頼らずに戦う令嬢——それがルイーズの評判だ。妹はおそらく、その姉に憧れている」


(……だから近衛騎士を要らないと言う。姉と同じように、己の力だけで立つつもりだ)


「それは……分からなくはないな」


 ダリアが前を向いた。


「ただ問題は、学園側が困っているということだ。令嬢の安全には近衛騎士が不可欠という規則があり、それを蔑ろにはできない。かといってミレイユ本人がこれほど強く拒否していては、強制するわけにもいかない」


「解決策は」


「ミレイユが自ら認めるか、何か事情が変わるかだろう。今のところ、どちらも見えない」


 ルベルドは少し考えた。


(……本人が認めるまで待つしかない。ただ、それがいつになるかは分からない)


「……選抜試験で優秀な成績を残した者の中から選ぶ予定だったとしたら、候補はレインとダリアを含む何名かだな」


「そうだ。ただ、選ばれる側が困っているというより、学園の方が困っている。候補者たちはむしろ——どうなるのかと様子を見ている状態だ」


 ダリアが少し間を置いた。


「レインが興味を持ったらしい。あのミレイユという子に」


「そうか」


「止めないのか」


「止める理由がない。レインが自分で動くなら、それはレインの判断だ」


「……お前らしい」


 ダリアが演習棟の方へ歩き始めた。


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