73.辿り着いた
模擬戦が終わり、面接が始まった。
一人ずつ審査員の前に立つ。ルベルドの番が来た。
审査員席の前に立った。四人の審査員と——コゴメとエヴァが横から見ている。
「受験者番号七番、ルベルド。二年生」
教員の一人が言った。
「今年の模擬戦で見せた加護について、内容を開示できますか」
「できません。神の事情によるものです。内容を公言すると加護が剥奪される可能性があると神から言われています」
「……珍しい事例ですが、そのような条件が課されることは記録上存在します。加護を取得したことだけを証明してもらえますか」
ルベルドは魔力を手のひらに集めた。加護を持つ者とそうでない者の魔力の高さは大きい。ダリアやレインと他の二年生では魔力の質がまるで違う。
審査員席の端に計測装置が置いてあった。
この振り幅が加護持ちに相当すればそれが一番の証明になる。
ルベルドが手をかざすと、装置が反応した。
「十分な力が確認されました。加護取得は認定します」
「ありがとうございます」
「では面接を始めます。ルベルド受験生、あなたが近衛騎士になろうとする動機を教えてください」
ルベルドは少し間を置いた。
「コゴメ王女の傍にいるためです」
「傍にいる、とは——守護するためですか」
「守護することも含みます。しかし正確にはコゴメ王女の傍にいることが、今の俺の目的の中心にあります。近衛騎士という立場は、その目的を正式に果たせる場所だと考えています」
「今まで受験者の中でそう答えた者は少ない。なぜ、コゴメ王女の傍にいたいのですか」
「コゴメ王女は、俺が初めて傍にいたいと思った人間です。それ以上の説明をするには、今の俺には彼女と共にいる時間が足りません」
沈黙が落ちた。
その間、ルベルドの正直に答える姿を見てレオニードは笑みを浮かべた。そしてコゴメは顔を少し赤くする。
「ルベルド受験生。仮に近衛騎士として職務に就いた場合、学業との両立をどのように考えていますか」
「両立します。近衛騎士の職務が優先される場面では職務を、そうでない時間は学業と自己研鑽に充てます。どちらかを犠牲にするつもりはありません」
「根拠は」
「今まで、それをやってきました。一年生の頃から通常の学業と自主的な訓練の両方を続けてきました。それは結果として学園でも認知されているはずです。今年はレオニード先輩の稽古も加わりました。それで大会優勝と今日の結果を出しています。両立できる根拠は、既にあります」
教員たちが少し視線を交わした。
最後にレオニードが言った。
「ルベルド。最後に一個聞く。近衛騎士になってから、どんな騎士になりたいと思っていますか」
「……ずっと傍にいられる騎士です。派手な強さよりも——どんな状況でも隣にいられる。それが俺の目指す騎士です」
レオニードが短く頷いた。
面接が終わった。
◆◇◆◇
全員の面接が終わり、審査員が評議に入った。
受験者たちは演習場の外の広場で待機した。
「どうだった?」
レインが隣に来た。
「普通だった」
「ルベルドが普通って言うなら大丈夫だな!!……俺は途中で言葉に詰まった」
「何を聞かれた」
「なぜ近衛騎士になりたいのかを聞かれた時、『友達のそばで戦いたいから』って言ったら、『令嬢のためでは?』って突っ込まれた」
「それで?」
「友達のそばで戦える力を、令嬢の守護に活かしたい、って答えた。合ってた?」
「……合っていると思う」
「よかった!!」
しばらく待った。審査員席に人が戻ってきた。教員の一人が立ち上がった。
「今年の選抜試験の結果を発表します」
広場が静かになった。
「今年の合格者は——二名です」
二名。
「受験番号七番、ルベルド。受験番号十六番、ユーリ・ファルコ」
——静寂が、一瞬あった。
それから、声が沸いた。
ルベルドは前を向いていた。
視線が、動いた。
令嬢の席を、無意識に見た。
コゴメがいて。
目が、合った。
コゴメの目が、潤んでいた。笑っていた。言葉はなかった。しかし確かに——その目が、ルベルドを見て笑っていた。
ルベルドはその目から目を離せなかった。そのまま一秒か、二秒か——
「おいルベルド!!通ったぞ!!!」
レインが肩を叩いた。視線が切れた。
「分かっている」
「ルベルドが!!……なんで俺が泣きそうになってるんだ!!」
「……泣きたいのなら泣けばいい」
「泣くぞ!!!」
レインが天を仰いだ。目が赤くなっていた。
ダリアが遠くから来た。表情は変わらないが、歩み寄ってきたということが全てを語っていた。
「通ったか」
「通った」
「そうか」
ダリアが少し止まった。それから言った。
「……良かったな」
今日二回目の「良かった」だった。
◆◇◆◇
合格発表から数時間後。
令嬢による近衛騎士選定の場が設けられた。
場所は学園の小会議室だった。コゴメとエヴァが並んで座っている。ルベルドとユーリが向かい合って立っていた。学園側の立会人が一人いる。
「では——令嬢の側から、近衛騎士の選定を行っていただきます。ご希望の方はご発言を」
少し間があった。
エヴァが先に言った。
「私はユーリ・ファルコさんを希望します」
ユーリが少し目を丸くした。
「……エヴァ令嬢が私を?」
「そうです。あなたの速度と精度はもちろん。何より令嬢の護衛としても実績があります。既にコゴメ様の近衛騎士として実績を積んでいる。私の護衛には——実績のある方の方が安心できると判断しました」
ユーリが少し考えた。
「分かりました。受けます」
「ありがとうございます」
エヴァが短く頷いた。
コゴメが少し前に出た。
「では——私は」
コゴメがルベルドを見た。
「ルベルドさんを希望します」
ルベルドはコゴメの目を見た。
「……分かりました」
ルベルドが一歩、コゴメの方へ近づいた。
「待たせた。ようやくここまで来た」
コゴメが目を細めた。潤んでいた。
「来てくれて嬉しいです。本当に」
「お前に言うつもりだった言葉が、ようやく言えた」
「私もそれだけもらえれば十分です」
「……これからは、傍にいる」
「知っています」
「ずっといる」
コゴメが小さく笑った。目から何かが一粒、頬を伝った。すぐに手で拭った。
「……私、泣かないつもりでいたんですけど」
「泣いても構わない」
「恥ずかしいです」
「誰も見ていない」
「エヴァさんがいます」
ルベルドが視線を横にやった。
エヴァが——少し離れた場所で、窓の外を見ていた。
こちらを向いていなかった。
しかしその横顔が少し強張っているように見えた。
(……エヴァ)
ルベルドは何も言わなかった。エヴァも何も言わなかった。
立会人が書類を取り出した。
「選定を記録します。エヴァ・クレール令嬢の近衛騎士にユーリ・ファルコ。コゴメ王女の近衛騎士にルベルド——」
この日、正式に記録された。
部屋を出た後の廊下で、エヴァがルベルドの隣に並んだ。
「……ルベルド」
「なんだ」
「おめでとうございます」
淡々とした声だった。感情が見えない、いつも通りの声。しかし——少しだけ、かすれていた気がした。
「……ありがとう。お前のおかげでもある」
「私は何もしていません」
「議論の時間が俺の力になっていた。それは事実だ」
エヴァが少し間を置いた。
「……そうですか」
「そうだ」
エヴァが前を向いて歩き始めた。その背中を、ルベルドはしばらく見送った。
(……エヴァ)
何を思っているかを全ては分からなかった。しかし——その「おめでとう」の言葉が本物だったことは分かった。
あれは、本物だ。
ルベルドは前を向いた。




