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魔王リライト  作者: ゆずリンゴ


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71.選抜試験2(前編)

 選抜試験の当日が来た。


 空は薄曇りだった。演習場の前に受験者たちが集まっている。三年生以下が対象だが、中心は三年生と二年生だ。今年も一年の参加者は見られるが数は相当少ない。

 参加した者は去年のルベルド達がそうであったように一年生は近衛騎士を目指すために必要な壁をより着実に知ることになるだろう。


 ルベルドはレインと並んで立っていた。


「来たな」


「来た。緊張してる?」


「していない」


「俺は少し」


「それでいい」


「……相変わらずだな!!でも安心した」


 レインが前を向いた。ルベルドも前を向いた。


 審査員席に、四人が座っていた。学園の上位教員が三人。そして特別枠の審査員として——レオニードが一人、端の席についていた。昨日卒業した直後だが、特別近衛騎士の資格で今日の試験に参加している。


 令嬢代理の席には——コゴメとエヴァが並んで座っていた。


 令嬢代理という選択が無くなった訳じゃない。今年は二人の令嬢本人が来た。そういうことだ。


 ルベルドはその席を一瞬見た。コゴメが前を向いていた。真剣な目だった。エヴァが視線をルベルドに向けて、小さく頷いた。


 ルベルドも前を向いた。


「試験を始めます」


 教員の声が響いた。


 ◆◇◆◇


 第一段階、基礎測定。


 魔力の総量と出力の計測、属性の安定性の確認だ。これは結果が分かりきっている。


 ルベルドは淡々とこなした。加護を得た後の力を全開にすれば数値が跳ね上がりすぎる。今日は選抜試験の範囲内で通れればいい。それを念頭に、見せていい範囲で制御した。測定値は上位だったが加護持ちであることを踏まえた異常な数値ではない。それでいい。


 レインの測定では、土属性の数値に加えて水属性の数値が出していた。計測機が揺れた。担当の教員が少し驚いた顔をした。


「レイン受験生、二属性ですか」


「はい!夏の間に水の加護を受けました!!」


「……記録します」


 受験者の中でざわめきが広がった。この測定で多属性をわざわざ扱う者は少ない。自分の1番得意な魔法と他の魔法とでは振れ幅があまりに大きく、わざわざ見せる必要性がないからだ。その点で言うとレインのように二属性を高水準で扱った事は唯一性が高かった。

 試験管や周りの反応を見てレインが少し照れくさそうにした。


 ユーリは基礎測定で光属性の数値が他を圧倒した。加護の馴染みから時間が経ち、より完全に定着していたことが分かる。


 それから第二段階の告知が来た。


「本日の模擬戦は二つのグループに分かれたトーナメントで行います。勝ち上がった上位四名が最終候補として面接に進みます」


 今年の試験の流れは少し違うようだった。前回は一度でも模擬戦を突破すれば面接のチャンスを与えらた。今年は数を絞りより明確な試験をしようとしているのだろう。今年のトーナメントはグループが数字の偶数と奇数で分けられている。互いのグループで優勝者二人、そして準優勝者二人を出して計4人の面接者を決めるためだ。



 くじが配られた。ルベルドは七番を引いた。


「俺は十二番」とレインが言った。ルベルドがトーナメント表を確認する。


「レイン、お前の最初の相手は」


「二番の三年生だ。土属性の男。去年の選抜で落ちてから今日に至るまでずっと頑張ってたって聞いた」


「それは皆同じことだ。その男に限った話ではない。それにお前なら大丈夫だ」


「加護があるからな!!でも油断はしない」


「そうしろ」


 ダリアの姿は、観覧席にあった。コゴメの後ろで腕を組んで前を向いていた。今年は受験しないと言っていた通りだ——と、ルベルドは確認した。


 トーナメントが始まった。


 最初の数試合は受験者の実力を測るのに丁度いい内容だった。ルベルドは出番まで参加者を観察した。


 レインの試合が来た。


「十二番レイン対二番ゼーン!試合開始!」


 相手の三年生ゼーンが先手を取った。土属性の魔力が地面から隆起して槍の形になった。速い。三年生の土属性は連動技術が上がっている。


 レインが横に跳んで回避した。同時に足元に水の薄膜を流した。ゼーンが次の槍を生成しようとして——足元が滑った。


「!」


 体勢が崩れた。レインが土の拘束を足元に走らせた。泥の拘束が足首を掴んだ。


「なんだこれ、土と水が——」


「見ろ!俺の新しい得意魔法だ!!」


 レインは隙を見逃さずに水の刃を三本、連続で放った。ゼーンが防壁を張ったが、土と水の連動した圧力に対応が遅れた。二本が当たった。体勢が崩れる。


 しかし相手は経験を積んだ三年生。咄嗟に自分の倒れた土を隆起させ安全な所で体制を立て直した。

 この三年生の男は加護を持っていない。それでも「経験」という差を武器に戦う。


「負けるか。俺だって頑張って来たんだ」


 ゼーンが叫んだのと同時地面が揺れ始める。


「う、なんだ!?」


 会場全体がうねっている。レインの踏んでいた場所が勢い良くその体を上えへと放り投げた。

 ゼーンはこのリングをまるごと武器として扱っているのだ。


「なら……!」


 レインも簡単には終わらない。うねる土流を上から水魔法で圧する。そうしたことで──


「な、なんだ……上手く地面が動かせない!?」


 全体に流れる水魔法がゼーンの流す魔力回路を阻害した。そこへレインは追い打ちをかけた。水の流れた土は重い泥となる。

 巨大な泥の波を後方から押し出してゼーンを場外へ押し流した。


「判定、十二番レイン!」


 観覧席から声が上がった。


(……土だけならまだ実践の少ないレインが押されていたかもしれない。ただ水属性が加わった事でその差を飲み込む程の対応力を手に入れた)


 レインが戻ってきた。


「どうだった!?」


「泥の波は出力が少し不安定だったが、それ以外は問題なかった」


「あー、泥の波はまだ練習が必要なんだよな。さっきのだって追い込まれなきゃ使う予定はなかったし」


「慌てるな。試合の中で安定してきている。あと二、三試合こなせば馴染むだろう」


「ルベルドがそういうなら心強い!!」


 トーナメントは進んだ。レインが二回戦を勝った。ルベルドも一回戦、二回戦と確実に勝ち上がった。レインは新しく得た力を使いこなし、ルベルドもまた加護を得た学生の範囲で決めた。


 そして三回戦の組み合わせが出た時、ルベルドは少し止まった。


 表に、ダリアの名前があった。


「待て」


「え、どうした」


「ダリアが受験している」


「え!?今年は受けないって言ってなかったか!?」


「俺もそう聞いていた」


 観覧席を見た。ダリアの席が空になっていた。


 後で分かったことだが、ダリアは最後の最後に「一度確かめたい」という気持ちから、今年の選抜試験に飛び込み参加していた。合格するつもりがあったかどうかは、ダリア自身の口からは明かされなかった。


 途中参加は認められたようだがグレーに近い行為だ。それに今年は面接に至るまでの条件が変わっていなければ認められなかっただろう。

 それに、これが許されるのなら大半が消耗する後に参加した方が有利だ。これで直ぐに負ければ恥をかき、優秀な成績を残してもよく思わない者はいる。ダリアはそれを理解した上でこの場へと踏み出す覚悟をした。



 そして試合が進み、順調に勝ち上がった決勝でレイン対ダリアの組み合わせが実現した。


「……来た」


 レインが言った。声に緊張が混じっていた。


「ダリアとやるのか。今の俺で、どこまでやれるかな」


「それを試す場面が今だ」


「そうだな!!」


「ただ——結果だけ先に言う」


「なに」


「今の実力ではダリアには勝てない。それは分かっている。勝てないことと全力を出すことは別だ。勝てないと分かった上で全部出すことに、意味がある。ダリアはそれを受け止めてくれる相手だ」


 レインがルベルドを見た。少しの間、黙っていた。


「……分かった。全部出す」


「そうしろ」


 試合が始まった。


 レインが先手を取った。最初から土と水を連動させた攻撃を展開した。泥の壁で防御を固めながら、水の刃で圧力をかける。


 ダリアは動じなかった。炎の糸が三本、弧を描いた。曲がりながら泥の壁の側面に当たる。この対戦、率直に言ってしまえばレインにとってはかなり部の悪い勝負だった。

 加護を得て間もないレインと既に加護が身体に馴染み始めたダリアとでは出力がまるで違う事は戦闘を見れば一目で分かる。


 泥の壁がが熱で乾燥し、脆くなる。水分を奪われた土の壁は、次の一撃でひびが入った。


(水と土の連動の弱点を、一試合で見抜いた。炎で水分を蒸発させれば普通の土の壁になる。ダリアは即座にその理屈を読んで実行した)


 レインが後退した。壁を再生させながら水の圧力で押し返そうとする。しかしダリアの攻撃は一拍先を行っていた。


 炎の輪が展開された。


 あの技だ。ルベルドとの大会決勝で使った範囲型の炎。輪が回転しながら外へ広がっていく。


 二年生大会での試合を思い出し上を見た。一瞬の判断で、逃げ場を探した。隙間は確かにある。足元に力を溜める。土の反発を使って跳んだ。


 しかし上手く逃げ場を通り抜けるためのタイミングがズレた。炎の輪の端が足首をかすった。


「つっ——!」


 レインが体勢を崩しながら着地した。ダリアが踏み込んできた。炎の糸を五本、扇状に——


「参りました!!」


 レインが手を上げた。


「判定、ダリア!」


 観覧席が沸いた。非受験者が準決勝で勝ったことへの驚きと試合の質への歓声が混ざっていた。


 レインが演習場の端に座り込んだ。足首が少し赤くなっていた。


 ダリアが近づいてきた。


「……水属性の加護を取得したのは、夏だったか」


「そうだ。ガルム島ってところで」


「一ヶ月でこれだけ動けるなら、来年はかなり手強そうだな」


「ありがとう。でも負けた……悔しい」


「その悔しさを持ち続けろ。来年に繋がる」


 ダリアが短く言った。それから審査員席を見た。コゴメが少し心配そうな顔をしていた。


「……コゴメ姉様にあとで治療してもらえ。その足首」


「心配をしてくれるのか!?」


「当然だろう」


 ダリアが先に去った。


 レインがルベルドを見た。


「……負けた!」


「そうだな」


「全部出したのに、負けた!」


「分かっていただろう」


「分かってたけど、悔しいのは本当だよ」


「悔しさは貯めておけ。来年に使え」


「……お前がダリアに当たったら、俺の分も倍返ししてくれ」


「それは無関係だ」


「意地悪!!」


 レインが笑った。痛そうな顔をしながら笑っていた。


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