65.覚醒をへて
二人が集落に戻ると、ガウルたちがすでに広場に集まっていた。
全員の顔が揃っているのを確認して、ガウルが深く息をついた。
「無事か」
「全員無事です」
「そうか」
それだけだった。しかし老人の目は安堵に満ちていた。
「……よくやってくれたな」
「けど、島の方々に怖い思いをさせてしまいました」
レインは申し訳なさそうに顔を俯かせた。
「それはお前たちのせいじゃない。あいつらが来たのはお前たちより前だ。村を救ってくれてありがとう」
その晩、ガウルが二人を自分の家に連れ込んだ。
夕食の量が多かった。昨日の夜と比べて、明らかに多かった。
「食え。疲れているだろう」
「……ありがとうございます」
「礼はいい。食え」
ガウルが短く言った。
三人で食べた。レインが干し魚を口に入れながら「うまい!!」と叫んだ。ガウルが少し笑った。ルベルドは黙って食べた。
「お前たち、加護をもらったのか」
食事の途中でガウルが言った。
「はい」
レインが頷いた。
「俺は水の加護をもらいました。土属性が元からあるんですが、水の加護が来ました」
「水か……」
ガウルが遠い目をした。
「嵐の神は水を司る面もある。島の周りに嵐が来るのを『水を押し戻す』ことで守っているという言い伝えがある。水の加護、この島で目覚めたのなら嵐の神と縁があるのかもしれない」
「縁があるってことは……俺、この神様に少し選ばれたのか?」
「まあ、そういうことになる」
レインが目を輝かせた。
「嵐の神に選ばれた!!すごいぞ俺!!ガウルさん、嵐の神ってどんな神様なんですか」
「怖い神様だよ。嵐は人を殺す。ただ、守る時には誰よりも強く守る。そういう性質だ」
「守る時には誰よりも強く……俺に似てる」
「似てるかどうかは神様が決めることだが、そうなのかもしれないな」
ガウルが少し笑った。
◆◇◆◇
翌朝。
外で二人は練習を始めた。
ガウルの家の近くの砂浜だ。朝の光が海に反射して、まぶしい。
「よし!水属性、確認するぞ!」
レインが手のひらを開いた。
昨日の覚醒の直後は体が興奮していた。今朝は落ち着いて感じられる。体の奥底に土に力ある。その中に水分が含まれている——それを引き出す感触が、今ははっきり分かった。
「……出た!!」
水が集まってきた。薄い膜が手を包んだ。
「それが安定した状態か」
ルベルドが近くの岩に腰を下ろして観察していた。
「水の属性を単独で使うだけでも中々に強いが、土属性と組み合わせた方が自然に出力が上がっているな」
「そうなんだよ!!一人で水だけ出そうとすると難しくて、土に混ぜると自然に出てくる感じがする」
「二属性の場合、相性のある属性の組み合わせは同時制御が難しくなる。しかしお前の土と水は相性がいい。土は水を保持し、水は土に染み込む——自然に連動する関係だ」
「ルベルドって本当に何でも知ってるな……」
「本に書いてあった」
「本ばっかりだな!!でもありがたい!!」
レインが試しに土の障壁を作りながら、その中に水を流した。重い泥の壁が生まれる。昨日の戦いで使ったやり方だ。
「これを安定させたい」
「障壁の中に水を均一に分散させることを意識しろ。水が偏ると壁の強度にムラが出る。特に上部は乾燥しやすいから、上部の水分を意識的に増やせ」
「……こうか?」
「もう少し上だ」
「……こう?」
「そうだ。それだ」
壁の表面に光沢が出た。密度が上がった。
「なんか変わった!!」
「昨日より出力の安定が上がっている。加護を受けて一日でここまで使いこなせるのは速い成長だ」
「それは俺が頑張ったのかお前の教え方がいいのか」
「両方だろう」
「そっちの方が嬉しい回答だな!!」
ルベルドは少し間を置いてから、言った。
「水は攻撃にも優秀だ。水属性を使った攻撃魔法はできそうか?」
「えーと、水の刃をシュッシュッ!って出せる。あれは咄嗟にやったら出た奴だけど練習したらもっとうまくできるか」
「水の刃か。土で拘束した相手に水の刃を当てるのが基本的な戦法になるか。何にせよお前が昨日やっていたことを理論として理解しておくと、応用が広がるはずだ」
相変わらず頼りになるルベルドにレインは感心したように見ている。それから指から小さく水の刃を作ったのを回した。
「……なんか、俺の戦い方に名前がつきそうだ」
「何でもいい。使えれば」
「俺は名前があった方が燃えるタイプだ!!」
「では好きな名前をつければいい」
「……思いつかない!!」
レインが笑いながら、もう一度土の障壁を展開した。
水を流す。安定してきた。昨日より速く、均一になっている。
ルベルドはそれを見ながら思った。
(……良い成長だ)
レインの土属性は元々、実用的な守りの使い方が得意だった。大きな壁よりも、足場の確保や小回りの利く防御が上手い。そこに水が加わった事で戦法に柔軟性が増した。
魔力量も大きく増えた。それは一度に作れる土壁の数や大きさが増えるだけでなく、固さ柔らかさの防御を状況に応じて使い分けやすくなったということだ。
加護が、その人間の素質を増幅させる。それを改めて見た気がした。




