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魔王リライト  作者: ゆずリンゴ


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64.嘘

 北の岩場に向かって走った。


 走りながら、手のひらの感触を確かめた。水属性の感触は土属性と全然違う。土はどっしりしていて固い。水は柔らかい。どこにでも行けるような感じがした。


(どうやって戦えばいい?)


 自問した。


 土と水を同時に使うことは、さっきの戦闘で感覚として分かった。土が水を支えて、水が土の隙間を埋める——連動する。しかし安定して使いこなせるかどうかは、まだ分からない。


(まあ、ルベルドが教えてくれるだろう)


 そう思ったら少し肩の力が抜けた。


 岩場に着いた。


「ルベルド!!」


 声を上げた。


 岩場に、ルベルドが一人立っていた。


 外套の肩口が焦げている。右腕に土がついている。ズームとの戦闘の跡が、岩場にも残っていた。押し潰されたような岩の変形。闇属性の焦げ跡。大きな戦闘があったのは明らかだった。


 しかし立っている。倒れていない。


「……無事か、レイン」


 ルベルドの声は、いつも通りだった。落ち着いた、淡々とした声。


「無事だ!!……ルベルドこそ、怪我は!?」


「問題ない」


「本当か!?」


「外套が焦げただけだ」


「……あのヤバいやつは」


「退いた」


 レインがルベルドの周囲を見回した。岩場の傷跡——地面が変形した跡、岩が押し潰された跡。それだけの激しい戦闘があったのに、ルベルドは一人でいる。


「……お前一人で、退かせたのか」


「退かせた」


「……すごいにも程があるだろ。あの人、めちゃくちゃ強かっただろ。俺でも気配を感じてわかったぞ」


「強かった。ただ俺の方が上だった」


「それを言えるお前もすごいな!!」


 ルベルドが少し間を置いた。


 それから——珍しいことを言った。


「……それが出来たのは、加護をもらったおかげだ」


 レインが固まった。


「え?」


「ズームと戦っている最中に、神が現れた。試練を受けた。その後で加護を受け取った。それで力が上がった。だから退かせることができた」


 レインがしばらく、何も言わなかった。


 ルベルドの目をじっと見ていた。


「……本当か」


「そうだ」


「じゃあ、俺と同じだな。俺も加護をもらった」


「知っている。ズームから聞いた。仲間から連絡が来たと言っていた。集落で加護覚醒が起きた、と」


「あいつ知ってたのか!!……水の加護だ。俺、水の加護をもらったぞ!!」


 レインが声を上げた。今日一番の大きな声だった。


「すごいよな!?土と水だぞ!?二属性!!」


「……本当だな」


「お前は何の加護だ。さっき言ったけど、ちゃんと聞けてなかった」


 ルベルドが少し間を置いた。


「……言えない」


「秘密か?」


「そうだ。俺の加護の神は大層な恥ずかしがり屋なようでな。内容を告げられない」


 レインが少し考えた。


「……そういうのもあるのか。まぁ神様だって色んな奴がいるか!」


「……それよりレイン、よくやった」


「珍しいな、褒めてくれた」


「言うべき場面では言う」


「じゃあ、今がそういう場面か」


「そうだ」


 レインが少し笑った。


 それから、手を差し出した。


「二人とも無事だった。加護も二人とももらえた。今日はそれだけで十分だな」


 ルベルドはその手を、短く握った。


「そうだな」


(……嘘だ)


 ルベルドの心の中で、静かにそれを思った。


 加護はもらっていない。神の姿は見てもルベルドに加護を与えようと近づいて来ることは無い。それはヴェルダでも確認した。神の光はルベルドの前に来なかった。


 あの戦いで退かせられたのは、ルベルドが本気の力を出したからだ。魔王の息子の、人間の前では絶対に出さなかった力を、初めて解き放ったからだ。


 しかしその事実を——レインに言えなかった。


「俺は魔族だからこそあれだけの力がある」とは、まだ言えない。いつか言う日が来る。しかし今ではない。


 だから嘘をついた。


(……いつか、全部話す。その日に謝ろう)


「ルベルドの加護の神、コゴメ王女に話すか?」


 レインが言った。


「ま、いいや。どんな神様でも——ルベルドに選ばれた神様は、絶対に立派なんだろうな、と思う」


 ルベルドは答えなかった。


 岩場に風が来た。北の海からの風で、少し冷たかった。


(……立派、か)


 その言葉が、胸の中でしばらく残った。


 レインが空を見上げた。


「……なあ、ルベルド。加護って、どんな感じがするんだ。使った感触とか」


「……使った感じは今まで出さなかった力が出せるようになった感じだ」


「俺の水は、包まれる感じがする。ガウルさんが言ってたのと同じで——柔らかくて、でも確かな感触で」


「それがお前の加護の性質なのだろう」


「ルベルドのは?」


 ルベルドは少し考えた。


「……深い、という感じだ。底が見えない。掘れば掘るほど出てくる」


「かっこいいな!!なんかルベルドらしい」


「そうか」


「うん、そうだと思う。お前ってそういう感じがする。何があっても尽きないような、そういう感じ」


 ルベルドは答えなかった。


 その言葉を受け取りながら、ただ海を見た。

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