幕間.約束
七月の最終週、ルベルドは図書棟に向かった。学期の最後の日だった。
コゴメは先に来ていた。テーブルの上に本が一冊と、小さな巾着袋が置いてあった。
「来てくれましたね」
「来ると言った」
「そうでした」
コゴメが笑った。ルベルドは席に着いた。
「今年の夏、何か予定はあるか」
「会食と静養の予定がいくつか。でも、去年より少し自由な時間があると思います。ルベルドさんは?」
「レインと、行く場所がある」
「どこへ?」
ルベルドは少し考えた。
「……神が眠る場所だ。行く理由は、今年の試験のためだ」
コゴメが少し目を細めた。何かを察したように。しかし深くは聞かなかった。
「……そうですか」
「ああ」
コゴメが巾着袋を手に取った。
「これ、持っていってください」
「何だ」
「開けてみてください」
ルベルドが受け取ると、小さな刻まれた石が一粒入っていた。
「旅のお守りに使われる石です。北の工人の手仕事だと聞きました。会食で行った先で、今年の夏に渡す人がいると思って買っていたんです」
ルベルドは石を見た。小さく、手に馴染む形だった。表面に細い文様が刻んである。'),
「……今年の夏に渡す人というのは、俺のことか」
「最初から、そのつもりでした」
コゴメが静かに言った。
「ルベルドさんが今年、どこかへ行くだろうと思っていたんです。去年の夏もそうでしたし」
ルベルドは石を手の中に握った。温くなかった。しかし確かに、重みがあった。
「……ありがとう」
「気をつけて行ってきてください」
コゴメが少し前のめりになった。いつもより少し真剣な顔だった。
「怪我をしないで、ルベルドさん。それだけでいいです。帰ってきてくれれば、それだけで」
「……帰る」
「約束ですから」
ルベルドはコゴメを見た。真剣な目が、こちらを見ていた。
「約束する」
コゴメが息を吐いた。それから少し笑った。
「それと——帰ってきたら、また話してください。今年の夏の話を」
「ああ。話せることは、全部話す」
「全部、楽しみにしています」
二人は最後の時間を、いつも通り過ごした。本を読んで、少し話して、また黙った。'
図書棟の外では、夏の午後の光が長く伸びていた。
帰り際、廊下でルベルドは石をもう一度見た。小さく、刻まれた文様が指先に触れた。
(……帰る場所がある)
それが今まで、こんなに重い言葉だとは思わなかった。




