54.レインへの頼み
季節は五月。帰る時間にルベルドはレインを待った。
レインは演習棟から出てきたところで、ルベルドを見て少し驚いた顔をした。
「珍しいな、お前が外で待ってるなんて。何かあった?」
「頼みたいことがある」
「え、俺に?」
「お前に」
ルベルドの声は真剣だった。それに呼応してレインが落ち着いた。
「言って。何でも聞く」
「夏の長期休暇、俺は神域に行こうと思っている。それにお前もついて来て欲しい」
ルベルドは周囲に人がいないことを確認してから、静かに話した。
レインは顔を明るくした。
「神域に!?マジか!!行く!絶対行く!なんだ、そんな真剣な顔するからもっと違う内容だと思ってたよ」
「簡単な内容でもない」
「まぁ、だよな。あの時みたいに神から加護がもらえるとも限らないし……」
「それはそうだが、そうでは無い」
ルベルドは話し方を少し考えた。
「神域実習で襲ってきた組織が密かに活動を始めたと聞いた」
「え、それって俺とお前とダリアが三人でも勝てなかった連中だよな」
「そうだ。危険がともうなうかもしれない。それでもお前はついてきてくれるか?」
しばらく沈黙が流れる。
「……もし襲われたら、勝てない。けど!だからって加護を諦めたくない。それに断ったら一人で行くって言うんだろ?俺、行くよ!!」
レインの言葉は固かった。
「それにさ、そういうのをコゴメ王女でもダリアでもなくて俺に言ってくれた事も嬉しいし!去年に続いて夏の冒険だな」
「……お前は、頼りになるな。信頼できる」
「信頼」
レインが止まった。
「お前は一年と夏、ずっと一緒にいた。昨年海を初めて見たのもお前がいたからだ」
レインが少し下を向いた。鼻の頭が少し赤くなっていた。
「……俺、泣きそうになってる」
「泣くな」
「分かってるけど!ルベルドが「信頼」って言葉を俺に使うとは思わなかったから!!」
「思っていることを言っただけだ」
レインが顔を上げた。目が少し赤かった。しかし笑っていた。
「行く。絶対行く。夏休みは空けとく。ルベルドと神域に行けるなら、むしろ嬉しいくらいだ!」
レインが笑いながら袖で目を拭った。ルベルドはそれを見て、少し口の端を動かした。
「……神域へは七月末に行く。それまでに体を仕上げておいてくれ」
「任せろ!!絶対に仕上げていく!!」
レインが力強く頷いた。
その後、二人は演習棟の隣の小広場に腰を下ろして、神域への行き方を話した。どの方角か、何日かかるか、何を持っていくべきか。
レインは遠足の計画を立てるような顔でずっと話していた。
(……こういうやつだ、レインは)
楽しそうだった。本気で楽しみにしている。それが、ルベルドには少し、助かった。




