幕間.花が咲く
四月の中頃、木が白い花をつけた。
その下に図書棟の窓からコゴメの姿が見えた。珍しく外にいた姿を見てルベルドはその方へ向かった。
後ろまで近づいた時にコゴメはルベルドに気づいた。
コゴメは少し驚いてから申し訳なさそうにした。
「ルベルドさん。すみません……図書棟へ向かう途中だったんですけどつい花に見とれてしまって」
「たまには外で花を見るのもいい」
しばらく二人の間に沈黙が流れた。
「春になりましたね」
コゴメが言った。
「昨年も今頃、お前は体調が回復していたな」
「そうです。春は体が軽くなる気がします。きっと春には人を元気にする不思議な力があるんだと思います」
「そうか」
ルベルドはそれを否定しなかった。
ルベルドが人間界に来て春を見たのは2度目だがこの時期に咲く花は特別綺麗だと思っていた。
「……何の花だ」
「名前は分からないんです。でも、毎年同じ時期に同じ場所に咲いていて。季節を確かめるみたいに」
ルベルドはその花を見た。小さく、質素だった。しかし確かに、春の気持ちいい風を表すような良さがあった。
しばらく2人で花を見た後、コゴメがルベルドを見て言った。
「ルベルドさん、来年のことを聞いてもいいですか」
「何だ」
「選抜試験に通ったとして——何が変わりますか?」
ルベルドは少し考えた。
「公式に、特別近衛騎士の候補になる。名前が通る。役割に就ける」
「……それ以外は」
「それ以外は」
ルベルドが少し止まった。
「……変わらないと思う」
「変わらない?」
「お前と図書棟で会うのも。話すのも。来年も、変わらないと思う。近衛騎士の職務が増えるだけで、俺はまだ俺だ」
コゴメが少し目を丸くした。
「……そうですよね。そっか」
「そっか、とは」
「近衛騎士になったら、ルベルドさんがもう少し近くに来てくれるのかなって思って」
コゴメが少し笑った。少し照れくさそうな顔だった。
「今だって、他の人よりもたくさん会って十分なはずなのに。変なことを言いました」
「変ではない」
ルベルドは少し声を落とした。
「……俺がお前の近衛騎士になるのは、傍にいるためだ。お前が俺ともっと一緒にいたいのなら―――それに答えたい」
コゴメがゆっくり顔を上げた。目が、少し潤んでいた。
「……そういうことを自然に言える。やっぱりルベルドさんはずるいです」
「事実を言っただけだ」
コゴメが小さく笑った。それから二人で図書棟に入って本を開いた。
春の光が、窓から穏やかに差し込んでいた。




