52.掴んだ
二月も終わりに近づくにつれ、稽古の密度が上がった。
レオニードは一段階、負荷を上げた。速度を増した雷の攻撃を複数方向から同時に展開し、その中でルベルドが防壁を張りながら攻撃に転じる練習だ。
「同時に動かす」課題の実戦化だった。
「防壁を張りながら攻撃する」というのは言葉にすると単純に聞こえる。しかし実際には、意識の分配が極めて難しい。防壁の維持に意識が傾けば攻撃が甘くなる。攻撃に集中すれば防壁が薄れる。
ルベルドは毎晩、それだけに取り組んだ。'
三月の初め、朝の稽古中に、それが起きた。
攻撃が四方から来た。防壁を張った瞬間、右前方から踏み込みが来る気配があった。ルベルドは防壁の密度を落とさないまま、左手で闇の球体を生成した。
二つが、同時に発生した。
(……!)
防壁が崩れなかった。球体の精度も落ちなかった。二つが、一瞬だけ完全に並立した。'
「止め」
レオニードが静かに言った。
演習棟に、沈黙があった。
その間、ルベルドは一瞬の感覚に静かに息をのんでいた。
「……できた」
先に喋ったのはルベルドだった。
自然と声を出していた。
「一瞬だった。でも、確かに両方が動いた。これが『同時』の感覚。ようやくできたね」
「……一瞬しか続かなかった」
「最初はそれでいい。感覚を掴んだ後は繰り返すだけだ。二週間、毎日やれば形になってくるよ」
ルベルドは無言で頷いた。
(……掴んだ)
感覚は確かにあった。二つが並立する瞬間の、奇妙な静けさ。意識が広がったような感触。それが何かは言葉にできないが、体は覚えていた。
「一つ、言っておくね」
「なんだ」
「今の状態で、来年の選抜試験は―――」
レオニードが少し間を置いた。
「今の君が今すぐ試験を受けたとして、正直に言う。おそらく通らない。まだ足りない」
「……そうか」
「でも、秋の試験までにやるべきことは全部見えている。同時展開を安定させる。判断速度をあと一段上げる。それができれば、見せられる強さの水準が変わる。通るかどうかは審査員次第だけどきっと本気の君なら大丈夫」
ルベルドは少し考えた。
「……来年、確実に受かるには今の3年を全員超えないければならない」
ルベルドの言う通り。近衛騎士の数は今だと4人だがコゴメ及び他の令嬢の数によって変動する。そして内2人が今年で卒業する。
来年に新しく祝福を受けた令嬢が来る可能性もある次の選抜試験の時に近衛騎士になれるのは二人と考えるべきだった。
「越えられるかが不安?」
「それは無い」
「だろうね」
レオニードが笑った。
「今年の夏に神域に行く話、覚えている?」
「覚えている」
「連れていく人間の目星はついている?」
「ついている」
「なら、その人にはできるだけ早く話しておくといい。神域へ行く時期は夏の休暇中、遅くとも七月の末には動けるよう準備しておいて」
「分かった」
「今日はここまで。よくやった、ルベルド」
珍しい言葉だった。レオニードはあまり「よくやった」とは言わない。
ルベルドは短く頷いて、演習棟を出た。
外の空気は、まだ冷たかったが、以前より少し柔らかかった。既に季節は3月。春の手前にいた。




