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魔王リライト  作者: ゆずリンゴ


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50.骨格

 十二月が終わり、一月になった。


 冬の学園は静かだった。短期の年末休暇が明けて生徒が戻り始める頃、演習棟には早朝から灯りがついていた。


 レオニードとの稽古は週に三度。近衛騎士の職務で昼間の時間が埋まるレオニードの都合に合わせ、早朝か夜の遅い時間に詰める形になっていた。今朝も夜明け前から始まっていた。


 blank(),


「防壁を張りながら、読む」


 レオニードが言った。


「先月から取り組んでいる課題だけど、今日は実戦形式でやってみよう」


「……分かった」


 模擬戦が始まった。レオニードが右手を上げると、雷の球体が三つ空中に浮いた。速度は抑えてある。それでも通常の三年生が出す出力よりも明らかに上だ。


(……防壁を「存在させる」。維持しようとしない。当たり前にさせる)


 ルベルドは意識を分散させた。防壁を「そこにあるもの」として扱い、注意の中心には置かない。


 球体が一つ来た。ルベルドは半歩右にずれた。防壁が自然に反応した。削れたが、意識は前のままだった。


(……いい)


 去年の自分なら、防壁に意識を引っ張られていた。今は違う。防壁が薄れることなく、同時にレオニードの次の動きを読めている。


 二つ目が来た。ルベルドは動かず防壁で受けた。三つ目の直前、レオニードの足が動いた。


(……踏み込む)


 ルベルドは後退せず、横に一歩。レオニードへ踏み込む。それから放った攻撃を空を切った。


「止め」


 レオニードが手を下ろした。


「……三ヶ月で、ここまで来たなら中々だね」


「まだ速度を落としてもらっている状態だ」


「そうね。でも防壁の骨格ができてきた。以前は防壁を使うたびに読みが一拍遅れていた。今日は一度もなかった」


 ルベルドは少し考えた。


「『骨格』か」


「防壁が「形」ではなく「体の一部」になってきた段階を、私の師匠はそう呼んでいた。君はちょうど今、その入口に立っている」


「……以前、半年かかると言っていたが」


「私の基準での話だから。まあ、結果が出るのが早い分にははいい事だよ」'


 レオニードが少し口の端を上げた。'


「何でここまで速く馴染めたか、自分では分かる?」


「……制御の切り分けに慣れていた。力の加減を長く続けてきたから、『意識の切り替え』の感覚に抵抗が少なかった」


(……それは、ずっと力を抑えてきたからだ。人間として動く習慣が、逆に役立った)


 心の中で思うが、当然その部分は言わなかった。


「理由は何であれ、結果が出ている。次の課題に入ろう」


 レオニードが前に出た。


「防壁の骨格ができたなら、今度は攻撃に転じるタイミングを縮める。防壁と攻撃を「切り替える」ではなく、「同時に動かす」感覚を掴むこと。これが今月の目標だ」'


「分かった」


「難しくはないけど、単純に繰り返しが必要。毎日やること」


「元々やっている」


「本当、君は偉いね。近衛騎士に向いているよ」


 レオニードが再び構えた。今度は球体を五つ。


「もう一回やろう」


 演習棟に、雷と闇のぶつかり合う音が静かに響いた。


◆◇◆◇


一月の末、図書棟に向かったルベルドは、いつもの席にコゴメがいないことに気づいた。


 珍しい。コゴメはいつも先に来ている事が多いが今日はそうじゃなかった。

 しかし、それから三十分経っても来なかった。


(……昨日、顔色が良くなかったな)


 思い返せば、ここ数日のコゴメは少し違った。声の勢いがいつもより弱く、本を読む時間が短かった。ルベルドは気になっていたが、直接は聞かなかった。


 翌日も、その次の日も、コゴメは図書棟に来なかった。体調が優れない日が続いているらしい。


 四日目の朝、ルベルドはダリアにコゴメのことを聞くことにした。


 帰ってきた返事はあらかた予想通りのものだった。


「姉様は風邪をひいてしまった。医者からしばらくの間は安静にするように言われている」


「そうか」


「姉様に会えないのが残念か」


 ルベルドは少し黙った。気づいていなかったが表情にそう出ていたらしい。


「そうだな。コゴメと話せないのは少し退屈だ。それに……心配でもある。本当は傍にいたい」


「そう思うのなら、より鍛錬を積むことだな」


 ダリアの言葉は意外だった。

 出会った頃は近衛騎士を舐めるなと言っていたが、今はそうじゃない。ルベルドのことを認めているのか、そうでなくても声にはどこか余裕があった。


 それから時間が経った日。

 コゴメがいつもの席に座っていた。顔色は戻っていた。手元に本がある。


 ルベルドは向かいに座った。


「……戻ったか」


「戻りました」


 コゴメが少し笑った。


「きっと、あなたが待っているとダリアから聞いたからです。元気をもらえました。ありがとうございます」


「……俺は関係ない。気のせいだ」


「いいえ。ルベルドさんのおかげです。聞いた時、嬉しかったのでそれで元気が戻りました」


「それなら良かった」


 コゴメが鞄から何かを取り出した。小さな箱だった。


「安静中に作ったんです。手を動かしていないと落ち着かなくて」


 箱を開けると、中に小さな刺繍が一枚あった。青い花の形。丁寧な手仕事だった。'),


「リジェットの花です。あなたに渡した乾燥花と同じものを見て作りました」


 ルベルドはそれを手に取った。小さく、軽い。刺繍の糸が、花びらの輪郭を細かく縫い取っていた。


(……安静中に、これを作っていたのか)


「……もらっていいか」


「もちろんです。もらってもらうために作りました」


 ルベルドは刺繍をしばらく見た。それから、ていねいに仕舞った。


「……ルベルドさんが持つ乾燥花の方はどうですか?」


「しっかり飾ってある」


 コゴメが少し顔を上げた。


「大事にしてくれているんですね」



「大事にすると言った」


 コゴメがゆっくりと笑った。それから少し談笑すると二人は静かに本を読み始めた。



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