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魔王リライト  作者: ゆずリンゴ


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47.弟子入り

 大会が終わり、夜になった。


 ルベルドは演習棟の一角で、一人で練習をしていた。


 日課の演習だ。しかし今日は違う何かが混ざっていた。


 レオニードの戦い方が、頭の中に残っていた。雷の膜の展開方法。踏み込みのタイミング。最後の三合での読みの精度。それらを繰り返し反芻して、自分の闇魔法に当てはめて考えていた。


(……闇の防壁を常時展開するのは今でも可能だが、あの密度を維持しながら攻撃に転じるには、まだ消耗が大きい)


 闇の球体を一発、的に当てた。跡がついた。


(密度の上げ方は分かる。問題は「戦闘中にそれを維持しながら読みに集中できるか」だ。今の俺では、防壁に意識を割くと読みが一拍遅れる)


「その球体、去年より密度が上がっているね」


 声がした。


 ルベルドが振り返った。


 演習棟の入口に、レオニードが立っていた。大会のマントを外して、シンプルな制服姿だった。右手にタオルを持っている。


「……レオニード先輩」


「今日の試合、見ていたかな」


「見ていた」


「何か分かった?」


 ルベルドは少し考えた。


「雷の膜の展開が去年より格段に厚くなっていた。常時展開している。加護三年目で、魔力の消費効率が上がった結果だと思う。それと、最後の三合で読みの精度が高かった。相手が三手先を打った直後に、そちらが動いていた。先読みではなく、相手の思考パターンを読んでいた」


 レオニードが少し目を細めた。


「……一年生のころから言ってるけど、君は観察が鋭い!」


「観察が武器の一つだ」


「それで二年生大会を制した。たいしたものだよ」


 レオニードが演習棟に入ってきた。自然な足取りで、ルベルドの隣の区画に立った。


「今日の練習は何を目的にしているの」


「防壁の展開密度を上げながら、攻撃に転じるタイミングを縮める練習だ」


「今日そこに取り組んでいる理由は」


「先輩の戦い方を見て、今の俺の課題が明確になった。防壁に意識を割くと読みが遅れる。それを解消したい」


 レオニードがしばらく黙った。


「……一つ聞いていいかな」


「なんだ」


「魔法は、独学?」


「基礎は学園の授業でよく学んだ。応用は自分で考えた」


「師匠はいないの?」


「いない。入学前も含めて、そう言える存在はいない」


 正確にいえば教えてくれる存在はいた。ルベルドを魔王の息子として物を教えようとしていた。けれど魔族に決まった強くなり方は無い。強くなるための道がそれぞれ全く異なるから参考にならない場合が多い。


 レオニードが少し考えるような顔をした。


「……今夜少し見ていていいかな」


「どうぞ」


 レオニードが壁に寄りかかって、ルベルドの練習を見始めた。


 ルベルドは再び防壁の展開に取り組んだ。防壁を展開しながら、同時に的へ向けて球体を生成する。二つを同時に動かす。


(……ここで読みに集中しようとすると、防壁の厚さが落ちる)


「重さを変えて」


 レオニードが言った。


「防壁の厚さを均一に保とうとしているから、常に意識を引っ張られる。防壁に『常時維持する最低の重さ』を設定して、そこ以上は無意識に乗せるように感覚を切り替えるんだ」


「……最低の重さ、か」


「私が最初に膜を展開し始めたころ、同じ問題があった。膜を維持しながら攻撃に転じると、膜が薄くなる。師匠に言われたのは『膜を維持することを忘れろ』という言葉だった。忘れるために、最低の水準だけ決めて、後は体に覚えさせる。半年かかった」


「半年」


「君なら三ヶ月でできる気がするけど、どうだろう」


 ルベルドは少し試した。防壁の感覚を「維持する」から「存在させる」に切り替える。表現が難しいが、意識の中での位置付けを変える。


「……少し分かった気がする」


「あとはひたすら繰り返すだけだよ」


 レオニードが壁から離れた。


「今夜はそこまでにしておいた方がいい。大会を観て頭を使ったし、訓練も限界までやるタイプだろう?これ以上やると、明日の精度が落ちる。……あと、明日はエヴァ様とのお話もある」


 魔族だから回復力は高い。だから問題無い)――とは言えなかった。



「……先輩は今夜来た理由がまだある。話があるんだろう」


 レオニードが少し笑った。


「察しが良いね。まあ、そうだね」


 レオニードがルベルドの正面に立った。


「弟子入りをしてみない?」


 ルベルドが静止した。


「……弟子入り」


「私の師匠はもうここにはいない。だから私が一人で続けてきた。けど君の成長の速さを見ていると、正しい方向に引っ張ってあげれば、近衛騎士になれるくらいに強くしてあげられるかもしれない」


「……なぜ俺なのか。加護もない俺にそこまで教える意味があるか」


「……まぁ、君に近衛騎士になって欲しい人が私の知る中で2人もいるから」


 レオニードは短く言い切った。


「どうする?」


 ルベルドは少しの間、考えた。


(レオニード・クレインを師とする。今の学園の頂点を。加護なしの自分が、加護持ちの先輩を師に持つ)


 一年前の自分なら、断っていたかもしれない。


 しかし今は、目的が明確だった。


(特別近衛騎士になる。コゴメの傍に立つ。そのためには、今の俺では足りない。足りない部分を埋める最善の選択は何か)


 答えは一つだった。


「……受ける」


「そう」


 レオニードが頷いた。


「明日の午後、お話が終わったらエヴァ様も含めて訓練をしよう」


「分かった」


「一つだけ言っておく。私は甘くないよ」


「分かっている」


「その意欲、いいね」


 レオニードが演習棟を出た。


 ルベルドは一人になった。


(……悪くない)


 ルベルドは闇の球体を一発、的に当てた。


 今夜教わったことを試した。「維持する」ではなく「存在させる」。防壁を手放すのではなく、体の一部にする。


(……面白い課題だ)


 演習棟に、静かな闇の音が響いた。


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