46.四年生大会2
四年生大会は、三年生大会の翌日に行われた。
朝から空気が違った。
観覧席に向かう生徒たちの顔が、昨日より少し緊張していた。四年生の大会は特別だ。今年の四年生の中には、学園に在籍する全生徒の中で最高位の近衛騎士がいる。
レオニード・クレイン。
現在の特別近衛騎士筆頭。雷属性、加護持ち。去年の四年生大会で前の優勝者を圧倒した。今年で加護取得から三年目になる。
他に二人近衛騎士とはいるがレベルが違う―――と思った。去年の三人とは違う。
ルベルドは観覧席の前列に座り、演習場を見た。
(……去年の四年生大会は、見ていた)
去年のレオニードは確かに強かった。対戦相手を一合で終わらせた試合もあった。しかし当時のルベルドは「今の自分では届かない」という距離を感じながら、それでも「いつかは」という感触も持っていた。
(……今年のレオニードは、どう変わっているか)
レインが隣に来た。
「四年生大会、来た!レオニードさん、今年はどれだけ強いんだろうな」
「去年より確実に強い。加護が三年目に入った」
「三年目に入ると、何が変わるんだ?」
「未知だな」
「でも、加護を受けた時よりずっと強くなる―――だろ?」
「そうだ。ユーリが今年一年かけて習熟を終えた状態が加護取得一年目の完成形だとすれば、レオニードはそこからさらに一段上に入っているだろう」
レインがごくりと喉を鳴らした。
「……見るのが怖くなってきた」
「怖くて見られないなら、お前は近衛騎士にはなれない」
「見る!!だから近衛騎士になれる!!!」
コゴメが後ろから来た。ダリアも一緒だった。
「レオニード先輩の試合、楽しみにしてました」
「コゴメ姉様は去年も同じことを言っていた」
「去年も楽しみにしていたもの。今年はもっと楽しみ」
ダリアが前を向いた。その目が、真剣だった。
「……俺は今日、加護の先を見るために来た。去年のレオニード先輩の戦い方は分かっている。今年、何が変わったか。それを見る」
ルベルドはダリアを少し見た。
(……加護を取得してから一ヶ月。ダリアはすでに「次の段階」を見ている)
この向上心は、本物だと思った。
四年生大会が始まった。
最初の数試合は、確かに水準が高かった。しかし演習場の空気が変わったのは、やはりレオニードが舞台に上がったときだった。
観覧席が、静かになった。
ざわめきが消えたのではない。生徒たちの視線が、全部そこに集まったのだ。
レオニードは背が昨年よりも高くなっており、体格もいい。制服の上から青いマントを羽織っている。近衛騎士の証の金のバッジが、胸元で光っている。表情は穏やかだが、眼光は鋭い。
その全身から、魔力が滲んでいた。
意図して溢れさせているわけではないと分かる。ただ「存在しているだけで」その量が出てきてしまう。魔力の器が、学園の生徒の水準を超えている。
(……去年と、別物だ)
ルベルドは感じた。去年のレオニードも圧があった。今年のそれは、種類が違う。一段上の何かになっている。
「七番レオニード・クレイン対十三番マスク・ラン。試合開始」
対戦相手は水属性の四年生だった。技術のある生徒だとすぐに分かった。
試合が始まった瞬間、マスクが高圧の水流を五本放った。去年の二年生大会優勝者と同程度の速度と密度がある。四年生の試合水準は、そこから始まる。
レオニードは動かなかった。
水流五本が、レオニードに届く前に、全部止まった。
「……え」
レインが声を上げた。
止まった、とは正確ではない。水流が、レオニードの周囲に広がっている雷の膜に触れた瞬間、電気分解されて霧になったのだ。
「……雷の膜?」
「去年もあった。しかし今年のそれは厚さが違う。去年は薄い層だった。今年のは、常時展開している雷の防御場だ」
「常時!?魔力を常時消費しながら展開しているのか」
「そうだ。加護三年目で、それが維持できるようになった」
ダリアが息を飲む気配があった。
マスクが攻撃を切り替えた。水の氷結で足元を固め、近接に持ち込もうとした。レオニードの足元の地面が凍り始めた。
レオニードが一歩踏み出した。
その一歩で、凍った地面が砕けた。踏み込みの重さが、氷の強度を超えていた。
「身体強化も加護で上がっているのか……」
レオニードが右手を前に出した。
雷が走った。
去年と同じ動きだ。しかし去年と全く違う速度だった。視線で追えなかった。雷の光が走ったと思った次の瞬間、マスクが演習場の端まで弾き飛ばされていた。
「判定、七番レオニード!」
場内が一瞬静まり返った後、大きな歓声が上がった。
レインが立ち上がった。
「今の速さ……俺の目には見えなかった。あれが加護三年目の速度か!」
「速度だけではない。雷の密度が去年より格段に上がっている。去年のレオニードの雷は、確かに速くて強かったが『一点集中』の力だった。今年のそれは、広がる力になっている。一撃で場の全体を制圧できる」
「……ルベルドは見えたのか、今の動き」
「見えた」
「さすがだな」
「見えることと、対応できることは別だ」
ルベルドは静かに言った。
(見えた。避けることはできない。仮に避け続けても、雷の膜がある。触れれば終わる)
計算を出した。
(……正直に、戦えない水準だ)
昨年見た時と比べてその差が、加護の三年目の違いを明確に感じた。
レオニードの試合は、決勝まで無傷で終わった。
最後の決勝戦の相手は、炎属性の加護持ちだった。レオニードと同じ近衛騎士対戦だった。
長い時間だった。
去年の決勝にも劣らない濃密はだった。
炎の加護と雷の加護のぶつかり合いは、観覧席の温度を上げた。炎の輪郭が雷に削られ、雷の膜が炎に押される。加護を使いこなした者同士の戦いは、魔法の質が根本から違う。
最後はレオニードが踏み込んだ。
炎の壁を雷の拳で砕いて、そのまま相手の胸に一発当てた。レオニードの自力の高さが最終的な決着を決めた。
「判定、七番レオニード!優勝!」
観覧席が割れた。
ルベルドは拍手をしながら、静かに考えていた。
(……あれが、今の学園の頂点)
ユーリが三年生の頂点なら、レオニードはその一段上の頂点だ。
(近衛騎士筆頭、か)
そこに至るまでの道のりを、ルベルドはぼんやりと思い描いた。
来年の選抜試験が通ったとして。来年、三年生になって今度はユーリと同じ水準を目指す。しかし、加護が無い自分がそのすいじゅへ行けるのかが分からない。しかし、兄上の強さは今のレオニード達より上だ。
魔王の才というのはそれ程に恐ろしいものだ。
(……今の隠した力の範囲内で、本当にそこまで行けるのか)
表彰でレオニードが壇上に立った。
拍手の中で、レオニードは観覧席をゆっくりと見た。
その視線がルベルドのところで、一瞬止まった気がした。




