幕間――コゴメ視点
二年生大会の翌日の昼。
コゴメは図書棟のいつもの席に、少し早く来ていた。
いつも通り本を開いたが、今日はなかなかページが進まなかった。
(……昨日の試合を、まだ考えている)
ダリアとルベルドの決勝。
ダリアが加護の力を手に入れた日以来、その力を改めて振るうのを見るのは初めてだった。炎の輪は、あの場面のダリアの覚悟の全部が詰まっているような技だと思った。コゴメには分かった。あの技はダリアが「どんな手を使っても勝つ」と決めたから思いついたのだ。弟の考えることを、コゴメは知っていた。
それでも、ルベルドはその上を取った。
炎の輪が広がる中で、ルベルドが跳んだ瞬間、コゴメはその場面を今も鮮明に思い出せた。誰もが息を呑んでいた。コゴメも呑んでいた。
(……すごかった)
すごかった、という言葉しか出てこない自分が少し情けなかった。でも本当にそう思った。それと同時に初めて会った日のことも思い出した。迷子の自分のために珍しい飛行魔法をルベルドは使った。1度きりで他に見る機会はないけれど、コゴメにとってルベルドは最初からすごい人だった。
「来た」
ルベルドの声がした。
コゴメが顔を上げると、ルベルドが向かいの席に座った。
「早かったな」
「今日は少し早く来てしまいました」
「何か考えていたか」
「……昨日の試合のことを」
ルベルドが少し間を置いた。
「俺とダリアの、か」
「そうです。まだ頭の中に映像がある感じで」
「コゴメには、どう見えた」
コゴメは少し考えた。
「……二人とも、本気だったと思います。ダリアはコゴメを守るためという目標に向かって、練習してきた全部を出した。ルベルドさんは――――」
「俺は」
「ルベルドさんは、ダリアの成長を全部受け止めながら、一番確かな方法を選んだと思います。格好よかったとか、そういうことだけじゃなくて」
コゴメは言葉を選んだ。
「ルベルドさんの戦い方って、いつも「相手のことをちゃんと見ている」んですよね。攻撃だけじゃなくて、相手の変化も、場の変化も。……それが、傍にいてくれる人に向いたとき、すごく安心できる気がして」
「……安心」
「そうです。ルベルドさんが傍にいたら、きっとちゃんと守ってもらえると思える、という意味で」
ルベルドが少し黙った。
「……大会の試合から、そこまで読むのか」
「なんとなく、ですよ。でも、見ていたら分かります」
コゴメが少し笑った。
「ルベルドさん、右腕はもう大丈夫ですか」
「治った」
「よかった。……あの場面、怖くなかったですか。ダリアの炎を受けるとき」
「怖い、という感情はなかった。次の一手だを考えるのでいっぱいだった」
「それがルベルドさんらしいです」
「ダリアが回復魔法をかけてほしいとお前に言っていたが、俺もコゴメに頼んだ方がよかったか」
コゴメが少し目を丸くした。
「……ルベルドさんが怪我をしたら、絶対私に言ってください。それが私の得意なことだから」
「分かった」
「約束ですよ」
「約束する」
コゴメはそれを聞いて、本を閉じた。
「ルベルドさん、来年の選抜試験は――――頑張ってください」
「ああ」
「去年より、ずっと頑張れると思います。ルベルドさんはたくさん変わった。私には分かります」
ルベルドは答えるまでに少し間があった。
「……お前に分かるなら、そうなのだろう」
「そうですよ」
コゴメが笑った。
昼の光が窓から差し込んでいた。本棚の間の静かな場所で、二人はしばらく黙っていた。
ルベルドが手元の本を取り出して開いた。
その右腕が、昨日ダリアの炎を受けた側だった。
コゴメはそれをそっと見てから、自分の本を開いた。
(……あれ、傷がもう治っている。自分で回復魔法をかけたのかな?それとも)
安心した。
それと同時に、ほんの少しだけ、胸がチクリとした。
(私じゃない人がやったなら……ううん)
静かな思いを胸に持ちながら、コゴメはページをめくった。




