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魔王リライト  作者: ゆずリンゴ


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45.三年生大会2

 翌日、三年生大会が行われた。


 演習場の客席には今年も多くの生徒が集まっていた。三年生の大会は、コゴメの近衛騎士ことユーリ・ファルコが出場するため、二年生と比べて観覧者が拡大的に広がった。


 ユーリ・ファルコ。


 光属性、二年時に加護を取得した三年生唯一の近衛騎士。昨年の二年生大会で優勝し、そのまま今年の選抜試験でコゴメ付きの特別近衛騎士に就任した。


 ルベルドはレインと並んで観覧席に座った。


 今年のユーリの試合を一度も見ていない。春の授業でその動きを廊下越しに見かけたことが一度あったが、正面から観察するのは今日が初めてだった。


「ユーリさん、去年より強くなったって噂だよ」


 レインが言った。


「光の加護が馴染んできたらしくて、速度がまた上がったって」


「二年生大会で全試合十秒以内だったものが、さらに速くなったとか言われてるらしいな」


「流石ルベルド!情報が揃ってる」


「ただ数値として把握していない。これから勉強する」


「……お前って情報を自分で組み立てるよな」


 三年生の試合が始まった。


 最初の数試合は、確かに水準が高かった。二年生の大会と明確に違うのは、「連携の精度」だ。攻防の切り替えが速い。魔法の組み合わせが洗練されている。三年間で積み上げた技術の厚みが、動きの一つ一つに出ていた。


 ユーリの試合が始まった。


「七番、ユーリ・ファルコ対十一番、カラン・ルク。試合開始!」


 ユーリが立った。


 短い銀髪が揺れた。表情は変わらない。今年は昨年と違い笑顔は無い。凪いだ水面のような顔だった。余裕が無い訳ではない。

 ただ研ぎ澄まされだのだ。


 相手のカランが先手を取った。炎の矢を五本、連続で放つ。速い。これだけで一回戦の壁は超えている。


 ユーリはそれを全て避けた。―――いや、通った。


「え……」


 レインが呟いた。


 正確には「避けた」のでは無い。ユーリの掌から広がった光が、出ると同時にその身体があやふやなまるで実態がないように変化してそのまま五本の炎の矢がすり抜けた。


(……光の加護の特性か。見たことの無いタイプだ)


 ルベルドは去年のレオニードが水の攻撃を体の周囲の雷の膜で消したのを思い出した。加護を得た者は、属性の変換や無効化が可能になる。


 その点、ユーリの光の加護は異質だった。

 自らの存在をどんな光にする事で一筋でも隙間があればそこを通り抜けることができる。

 ダリアがやった炎で身を包むやり方を進化させ、全身に纏えばどうにかはなる。

 完璧な熟練度で0.001ミリの隙間もなくすれば通れない。だが、そのような状況では自分もた攻撃が出来ない。防御だけの人間ではユーリには敵わないだろう。


「あんな使い方が……」


「加護の恩恵だ。昨年の選抜試験の時点ではまだここまで制御できていなかった。一年で完全に馴染んだ」


「馴染んだってどういうこと?」


「加護は最初、力として存在するだけで、術者がそれを引き出す方法を学ぶ必要がある。ダリアが今まさにその過程にいる。ユーリは一年かけてその習熟を終えた」


 ユーリが踏み込んだ。


 光の束が走った。去年と同じ技だ。しかしその速度が別次元だった。


「速い……!」


 レインが声を上げた。


 速い、では足りない。動いたと脳が判断したとき、すでに相手の横に来ていた。光の加護は、速度も底上げする。魔法の放出だけでなく、術者の身体能力そのものが上がる。


 相手が横に跳んだが、光はすでにそこにいた。


「判定、七番ユーリ!」


 ルベルドは静かに手を組んだ。


(……速い。どの程度の力を出した状態か分からないが、今の俺には追いつけない)


 加護なしでは、速度で競うことができない。闇魔法の読みと精度で対応することはできるが―――あの速度に対応するには、どうすればいいだろうか。


(……手加減をやめた状態で、対処しなければいけない水準か)


 ルベルドはそれを冷静に認識した。


 ユーリの試合は一回戦から決勝まで全試合、いずれも短時間で終わった。


 しかし注目すべきは短さだけではなかった。


 試合の中で、ユーリは相手の攻撃パターンを三手先まで読んでいた。速度だけではない。読んだ上で、最短の動きで終わらせている。


(……これが加護と実力の組み合わせ、か)


 三年生の大会が終わり、表彰でユーリが壇上に立った。


「ありがとうございます!」


 戦いが終わった後の声が明るい。にっこりと笑って手を振る。観客席が盛り上がる。


(……その笑顔の下で、試合中ずっとこちらを見ていた)


 ユーリはコゴメの近衛騎士だ。守るべき存在がいるから、常に「護衛対象」を考えている。


(……近衛騎士とはそういうものか。今日のユーリを見て、少し分かった気がした)


 ルベルドはメモに書き留めるように記憶した。自分が目指している場所の、今の水準を。


 観覧席の端で、コゴメがユーリの表彰を見ていた。


 その顔には誇らしさがあった。自分の傍に立つ者が、あれほど強くなっている。それをただ嬉しいと思っている顔だった。


(……コゴメは、ユーリを誇りに思っているみたいだ)


 ルベルドはそれを見て、胸の奥に何かを感じた。コゴメのあの顔を見たいと思った。


 近衛騎士として、ではなく。


(……それは今考えることではない)


 ルベルドは前を向いた。


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