44.二年生大会2――ダリアとの決勝
トーナメントは順当に進んだ。
レインは準決勝まで進んだ。兄のロスタ・ハルトと同じ、土属性の加護を持つ四年生の生徒が見ていた。準決勝でレインは惜しくも敗れたが、その試合の土属性の使い方は一年前とは別物だった。審査員席にいたユーリが珍しくメモを書いていた。
「……俺、準決勝まで行けた!!」
試合を終えたレインが興奮して戻ってきた。
「兄貴が来てたから、見てくれてたと思う!」
「良かったな」
「悔しいけど、やれることは全部やった!!後は来年の選抜試験。その時までに加護も手に入れてやる!!……ルベルドはもうすぐ準決勝だな」
「ああ」
「ダリアとの決勝、来るぞ」
「分かっている」
準決勝を終えて、決勝の相手が決まった。
予想通り、ダリアだった。
舞台の向こうに立ったダリアは落ち着いた顔をしていた。感情を表に出さないのはいつも通りだ。しかし構えたとき、足元に微かな陽炎が揺れた。魔力が、常時漏れている。
(……緊張しているのか、制御が難しくなっているのか。どちらかか、両方か)
「二年生大会決勝。三番ルベルド対二十番ダリア。試合開始!」
ダリアが動いた。
先制は炎の糸ではなく、圧縮した炎の塊だった。三発、直線的に速い。
ルベルドは右に一歩、闇の盾で一発受け、三発目は後退して間合いを外した。
(……直線攻撃から入るとは。挑発か)
ルベルドが攻撃に転じた。闇の魔力弾を五発、連続で放つ。速度は上げず、精度だけを上げた。
ダリアが炎の壁を展開した。五発全部が炎に呑まれた。
(―――加護の壁は、通常の闇魔法では突破できないか)
ルベルドは一瞬止まった。一年前の決勝では、ダリアの炎は「速度と精度」が武器だった。今は攻守共に隙が見えない。
ダリアが踏み込んだ。炎の糸を五本、今度は左右から包むように展開した。
(……五本か。どう避ける)
ルベルドは後退しながら判断した。正面の二本は圧縮した盾でどうにかなる。
側面の三本は―――タイミングが合えば、一本だけ受けて残りを追撃で対処できる。
右足を後ろに下げた。その動作に合わせて、ダリアが糸の曲げを始めた。
(そこだ)
後退の動作を途中で止めて、逆に踏み込んだ。
ダリアが驚いた気配があった。曲げた糸は追いかけるが、急な方向転換には追従が遅れる。ルベルドはその一瞬の遅れの中で、ダリアの懐に入った。
至近距離。炎の糸を使えば自爆に繋がる可能性がある。それならダリアは使わない選択をするはずだ。
しかしダリアはすぐに両腕に炎を纏わせた。近接戦でも、炎を装備として使う。
ルベルドが右腕に闇の防壁を薄く張って、ダリアの炎の腕を受けた。熱い。防壁が削られる。
その代わりに、左手の闇の球体をダリアの肩に押しつけた。
「―――っ」
ダリアが後退した。肩への衝撃が体勢を崩した。
ルベルドは即座に距離を取った。右腕の防壁が一部消えている。炎の熱が皮膚に残った。
(……近接でも、あのような事ができるのなら不利か。加護を得た炎は普通ではない。次は当たれない)
「……本当に読んでいるな」
ダリアが少し呼吸を整えながら言った。
「糸の曲げを、あの一瞬で読んだか」
「一ヶ月観察してきた」
「……なるほど。ならこれは」
ダリアが両手を広げた。炎が、輪の形に展開された。
「初めて見せる技だ」
輪が、回転しながら四方に広がり始めた。
(……範囲型の炎。逃げ場を塞ぐ展開だ)
回転する炎の輪は、外へ向かって広がる。舞台の端まで広がれば、逃げ場がない。
ルベルドは一瞬で計算した。
(広がる速度と、輪の密度。防壁で突破できるか―――できない。今の出力では貫通できない)
唯一の選択は、上だ。
ルベルドは足元に闇の圧縮を叩き込んで、跳んだ。
浮遊魔法ではない。足元への魔法による反発で、短時間の跳躍だ。人間には難しい技術だが、ルベルドにはできた。
炎の輪が下を通り過ぎた。
その瞬間、空中でルベルドは上から三発の魔力弾を放った。ダリアが防壁を展開するが、上方からの攻撃への対応が一拍遅れた。三発のうち一発が防壁を抜けて、ダリアの足元に当たった。
ダリアが横に弾かれた。体勢を崩した。
その隙を見逃さずルベルドは足場に闇魔法をの罠を展開して捕らえた。それからは一瞬だった。スピードに特化した闇魔法を放ち場外へとダリアを押し出した。少しでも遅れていれば再度炎の城壁展開され持ち直されていた。
「判定―――三番ルベルド!!」
場内が沸騰した。
ルベルドは着地した。右腕にまだ炎の熱が残っている。それほど深くはないが、確かに当たった。
ダリアが舞台を出て、ルベルドの前に立った。
「……負けたか」
「ああ」
「炎の輪を跳んで躱すとは思わなかった」
「逃げ場を全部塞ぐ範囲技だ。残った選択は上しかなかった。……上があるだけまだ救いだった」
「……足元への圧縮反発か。あれは闇魔法の応用か?」
「そうだ」
ダリアが少し間を置いた。
「だが、弱点が見えた。次はもう負けない」
「楽しみにしている」
短い言葉の交換。しかし去年の決勝後と違うのは、ダリアの目の中に「くやしさ」が無かった事だ。それよりも光があった。ダリアは今自分の成長をとことん楽しんでいる。
ルベルドはそれを見て、少しだけ口の端を動かした。
(……いい競争相手だな)
表彰が終わり、ルベルドが席に戻ると、レインが待ち構えていた。
「すごかったぞ!!炎の輪を跳んで躱すって、流石にあれは駄目だと思った!!」
「選択肢がそれしかなかった」
「普通そんな選択できないよ!!」
コゴメが少し後ろから来た。目が少し赤かった。泣いていたのか、と思った。
「……コゴメ?」
「あっ、えっと」
コゴメが目を擦った。
「なんでもないです。二人の試合が……すごくて」
「大丈夫か」
「はい。ただ、ダリアが一生懸命戦っているのを見たら少し泣けてきてしまって。それに」
コゴメが少し笑った。目がまだ少し潤んでいる。
「ルベルドさんが、勝ったのもダリアが楽しそうなのも……全部、全部嬉しいんです」
「……そういうことを、面と向かって言うな」
「前にも言われた気がします。でも、本当のことだから」
右腕に炎の熱がまだ残っていた。それがいつの間にか気にならなくなっていた。




