41.終幕
迎えの教員が来たとき、ロウはルベルドの顔を見て眉を寄せた。
「何かあったか」
「報告します。ただ結果は全員無事です」
「それは良かった。詳しく聞かせろ」
報告の中で、ルベルドは組織の件、男の刻印の件を伝えた。第三者が助けに入ったことは、「別の実習生が偶然通りかかった」という形にぼやした。
ロウは黙って聞いた。それから言った。
「その組織については、学園側でも情報を集める。お前たちの判断は間違っていなかった。よくやった」
それだけだった。ロウらしかった。
馬車に乗り込んで、帰路についた。
夕暮れの光の中を走る馬車の中で、四人は黙っていた。疲れていた。体より頭が疲れていた。
「……なあ、ルベルド」
レインが言った。
「お前のお兄さんのこと、少し教えてくれないか。今じゃなくていいけど、いつか」
「……いつか、話す」
「うん。急がないから」
ダリアがコゴメの隣で、少し目を閉じていた。珍しく眠そうだった。昨日と今日の消耗が出ているのだろう。
コゴメが窓の外を見ていた。夕暮れの山林が、後ろに流れていく。
「ルベルドさん」
「なんだ」
「あの古木のところで―――神様の気配がありましたよね」
「あった」
「……私、あそこで何かが見えた気がしました。形のない何か。でも暖かくて……自分がちょっとだけ特別なんだなって感じました」
「俺は何を話していたか分からない。多分、聞くものでもない。ただお前が特別なのは確かだ」
コゴメが恥ずかしそうに笑った。それから少し考えるような顔をした。
「もしあの人達が邪魔をしなければルベルドさんも加護を貰えたのかもしれませんね」
「……あの組織が邪魔をしなければか」
「そうですね」
「次があるか分からないが―――いつかまた、神域に来ることがあれば。そのとき」
コゴメが笑った。小さく、静かに。
「そうですね。いつか」
ダリアの呼吸がゆっくりになった。眠ったらしかった。慣れない力を使って疲れたのだろう。レインが「珍しいな」と小声で言った。
ルベルドは窓の外を見た。
(……兄上)
六年ぶりに会った兄は、変わっていなかった。笑顔が、声が、立ち方が。
しかし―――消えていた六年間は確かにある。どこで何をしていたのか。なぜ魔界を出たのか。なぜあの場所に現れたのか。
知らないことが多すぎた。
(……いつか聞ける)
そう思った。今は、それで十分だった。
ルベルドは手のひらを見た。今日、本来の力を出しかけた。ギリギリのところで出さずに済んだ。
(……出していれば、何かが変わっていた)
それが良かったのか悪かったのかは、まだ分からない。ただ──今日の自分は、力を出さずに踏みとどまった。
そしてその結果、兄上が来た。
(……兄上は「退屈でないこと」を求めていた。だから人間の世界にいた。同じなのかもしれない)
スルクはいつも言っていた。「なあルベルド、お前は本当に面白い」と。
六年ぶりに再会した兄が、最初の一言は「随分と賑やかなことになってるじゃないか」だった。
(……まぁ、変わっていないな)
ルベルドは少しだけ口の端が動くのを感じた。
馬車がハートヴェルに近づいた。街の明かりが見え始めた。
コゴメが伸びをした。
「帰ったら、ゆっくりお風呂に入りたいです」
「俺はお腹減った!!」
「レイン、声が大きいぞ」
「ダリアが起きてる!!」
「……少し眠っていた」
「可愛いところあるじゃないか!!」
「うるさい」
いつも通りの声が戻った。
ルベルドはそれを聞きながら、静かに目を閉じた。
(……良い班だ)




