38.神殺し
反応したのはルベルドとダリアがほぼ同時だった。
ダリアが炎の盾を展開した。ルベルドが闇の防壁を前に出した。
影から飛んできたのは、小さな魔力弾の連射だった。数は五発、速度はそれほど高くないが密度が異様に高い。命中すれば一発でも気絶させられる程度のものだ。
防壁に当たり、弾かれた。
「姉様、危ない!」
ダリアの声と同時に、コゴメが後退した。レインが土の障壁を足元から隆起させる。
「誰だ!」
レインが叫んだ。
木々の間から、三つの人影が現れた。
黒い外套を纏い、顔の下半分を布で覆っている。年齢は判然としない。三人とも体格はそれほど大きくないが、魔力の質が──普通ではなかった。
(……これは学園の生徒ではない。訓練された者だ)
ルベルドは即座に判断した。
「誰の命令だ」
問いかけても、三人は答えなかった。
代わりに、中央の一人が口を開いた。
「そこにいるのは祝福を受けているな。―――そしてここは、神が目覚める場所だ。ちょうどいい」
声は低く、感情が薄かった。
「邪魔をするな。俺たちはここに来た理由がある」
「どんな理由だ」
ルベルドが前に出た。
「神が姿を現すのを待っている。それを殺す」
静けさが、一瞬だけ深まった。
「……神殺し、か」
ルベルドは思った言葉を口に出していた。
黒外套の男が少し目を細めた。
「知っているのか。―――なら話が早い。神が顕れた瞬間を狙えば、加護以上の力が奪える。俺たちにはその力が要る」
「何のために」
「魔族を根絶やしにするために」
ダリアの炎が揺れた。レインが息を飲んだ。
コゴメは動かなかった。静かに、前を向いたままだった。ルベルドはコゴメの前に立ち男達を睨む。
「……そのために、神を殺すのか」
「神の力があれば、魔族に抗える。いずれは魔王にも。不干渉の条約など、いずれ破られる。ならばその前に、力を手に入れる」
「神域で人間の命を奪うことは厭わないと、そういうことか」
「必要なことだ」
三人が構えた。
(……力の差を把握する)
ルベルドは瞬時に判断した。三人の魔力の質は高い。しかし今の自分が「見せてもいい力」の範囲内で対応できる相手か。
(―――できる。ただしコゴメを守りながらだと、少し綱渡りか)
「レイン」
「わかった。コゴメ王女を俺が守る」
レインが即座に動いた。コゴメの前に立ち、土の障壁を三重に展開する。一年以上の訓練で、レインの土属性は確かに磨かれていた。
「ダリア、左を頼む」
「言われなくてもやる」
ダリアが炎の糸を指先に巻いて、構えた。
ルベルドはそれを人目見て加護の力を感じた。構えた糸に含まれる密度が加護を受けたばかりなのに別物だった。
ただそれを詳しく考えている時間はない。
三人の敵が動いた。
同時に三方向から魔法が飛来する。連携が取れている。ルベルドは中央を担当しながら、左右の動きも視野に入れた。
二分間ほどの攻防。
ルベルドが防壁で受け、ダリアが反撃し、レインが盾を維持する。三人は連携して攻めてくるが──ルベルドの読みは速かった。攻撃のパターンを読んで、三手先の動きを予測する。
(……この三人は強い。しかし)
ルベルドが闇の拘束を足元に展開した。中央の男が跳んで回避する。その瞬間、ダリアが横から炎の束を三本放った。男が空中で防御魔法を張ったがそれを貫通して衝撃を与えた。
「押せる!」
レインが声を上げた。
さらに三十秒の攻防の末、三人の魔力が明らかに落ちてきた。ルベルドたちの方が、体力の消耗が少ない。
「……退くぞ」
中央の男が言った。
三人が後退して、木々の中に消えた。
静けさが戻った。
レインが大きく息を吐いた。
「……追うか?」
「追わない」
ルベルドは答えた。
「こちらの戦力を全て見せた上で深追いするのは危険だ。それに―――」
ルベルドは古木の方を振り返った。
緑の光は、消えていた。
「神の気配が消えた。あの騒ぎで、眠りに戻ったのだろう」
「……そっか」
レインが少し肩を落とした。
コゴメが前に出た。
「皆さん、怪我はないですか」
「俺は大丈夫!」
「あ、ダリア―――腕に少し切り傷がある」
「かすり傷です。問題ありません」
「1つの傷が命取り。それにそんなダリアの為に私は回復魔法をたくさん勉強したから。治します―――手を出して」
コゴメが穏やかに言って、ダリアの腕に回復魔法をかけた。淡い光が傷を塞ぐ。
ルベルドはその様子を見ながら、考えていた。
(……あの三人は、今日のところは退いた。しかし)
あれは偵察―――あるいは、先発隊だ。
(……これで終わりではない)
その予感は、翌日に現実になった。




