30.選抜試験開始
三週間は早く過ぎた。
試験の日、学園の第一演習場に百名近い生徒が集まっていた。二年生から四年生が中心で、一年生はルベルドとレインを含めて十二名しかいない。
審査員の席には、試験官の教師四名と―――令嬢側の代理人が四名並んでいた。それぞれ異なる家紋の紋章をつけており、令嬢の意向を直接反映させるための存在だ。
「緊張するな!今、俺すげぇドキドキしてる」
レインがルベルドの隣に立って言った。
「言わなくてもお前の顔を見れば分かる」
「そんなに分かる?」
「顔が変だ」
「顔が変って!!それただの悪口だろ!! お前酷いなぁ」
「落ち着け。全力でやれば結果はどうあれ悔いはない」
「……ルベルドが緊張してないのがすごいよ」
(……緊張していない、というのは正確ではない)
人間の強者が集まる場、そこで特別近衛騎士の座を競う。一種の興奮と緊張の混ざった感情が微かにある。
ルベルドは前を向いた。演習場の白い石畳。審査員の視線。その中に一つ。端の席に、見慣れない人物がいた。
十三か四歳、銀色に近い白い髪。細面で、目の動きが少ない。令嬢側の代理人ではなく、観覧席の最前列に座っている―――令嬢本人だ。
(……令嬢の一人が直接来ているのか)
珍しい。代理人を通すのが通例のはずだが、その令嬢は自分で来ている。
その令嬢の目がルベルドと合った。一瞬だけ。それから令嬢は視線を前に戻した。
◆◇◆◇
「第一段階を始める」
試験官が声を上げた。
「各自、魔法の基礎測定を行う。属性測定板に向かい、全力で出力せよ」
一人ずつ順番に、測定板の前に立った。板は魔力の属性・密度・精度を数値化する装置で、試験官が記録していく。
ルベルドの番が来た。
測定板の前に立つ。「闇属性」と試験官が確認する。ルベルドは右手を前に出した。
全力。魔力を絞り出す―――正確には、「出せると決めた最大の出力」を出す。
実際には三割に当たるかどうかの力。
板が反応した。数値が出た。試験官が何かを書き留めた。表情からは読めない。
席に戻った。レインが「どうだった」と聞いてきた。
「分からない。測定値の基準を知らない」
「俺は三番目の人に言われたぞ、数値がなかなか高いって。喜んでいいのかよく分からなかったけど」
「それは褒められている」
「本当か!? よかった!!」
第二段階は対人模擬戦だった。組み合わせは抽選で、ルベルドの相手は運が悪く三年生の男子生徒だった。
名前はカール・ベイツ。風属性で、実技の成績は学年中位だと後から知った。
試合が始まった。
カールが速攻を仕掛けた。風の刃が横から来る。ルベルドは後退せず、右に半歩ずれた。刃がかすった。
(……速い。しかし軌道は読める)
次の一手。カールが連続して三連の風弾を放った。ルベルドは一発目を避け、二発目を闇の盾で受け、三発目の直前に踏み込んだ。
カールはルベルドの見せた動きに驚いているようだった。その隙が生まれた瞬間に懐に入った。闇の球体を至近距離で展開してカールが反応する前に、押しつけるように放った。
カールが後退して倒れた。咄嗟の事で対応する前にリングの外へと落ちる。
「ルベルド・コロール、勝ち」
試験官が宣言した。
観覧席からざわめきが起きた。一年生が三年生に近接で決めた、という驚きだろう。
(……抑えた状態では、これが限界だ)
全力ではない。しかしこの試合では「一年生の強い子」として見せる上限がこれだった。それ以上を出すことは危ない。
この後の模擬戦であるが、ルベルドはまたも3年生と当たり敗北を喫した。
理由は単純だった。相手が油断をしていなかった。元来先程の試合も力を隠したルベルドの勝てるものではなかった。まだ加護を持っていない一年生を相手に加減をしたカールの油断を付けなければあの試合に勝てる可能性はゼロに等しかった。
席に戻るとき、観覧席の端―――先ほどの白い髪の令嬢が、ルベルドを見ていた。今度は視線を逸らさなかった。




