29.選抜試験前
休み明けの最初のホームルームで、担任から選抜試験について説明があった。
ルベルドの担任は変わらず、ベルド・ノア教師だった。白髪交じりで眼鏡をかけており、話し方は淡々としている。
「今年の選抜試験について説明する。毎年卒業式後の九月に行われる試験だ。お前たち一年生にも出場資格は与えられている」
教室がざわついた。
「参加したところで無駄だよ」
誰かが呟いた。
「今年も四年生の卒業に伴い、特別近衛騎士の枠が一部空く。通常は三年生以上から選ばれる事が多いが、諦めることなく一年生のお前たちにも挑戦して欲しいと思っている」
(……四年生が卒業する)
ルベルドは静かに考えた。クロード・アルバ、エレナ・フォルテ、セン・ヴァルト―――今年卒業する三人の特別近衛騎士が枠を空ける。そこに誰が入るか、という試験だ。
「選抜試験が終わればお前らも直ぐに進級が控えている。その前の力試しにはちょうどいいだろう」
レインがその言葉を聞いて隣で囁くように愚痴を零す。
「さすがに選抜試験を力試しにって考えるのは無理だろ」
「……俺は力試しなどはしない」
「近衛騎士になるために出るだよな」
「そうだ」
レインが少し笑った。
「お前が受けないはずがない。俺も受けるぞ」
「兄上に見せる結果を出すためか」
「そう。それでに二年生になってからは胸を張って言いたい」
担任の説明が続いた。
「試験は三段階。第一段階は魔法実技の基礎測定―――属性・精度・出力を評価する。第二段階は対人模擬戦。第三段階は審査員による総合判断。審査員には各令嬢の代理人も加わる」
(……令嬢の代理人)
四人の令嬢それぞれに近衛騎士が一人つく。令嬢側の意向も審査に反映される、ということだ。
「試験の日程は三週間後。準備しておくように」
ホームルームが終わると、レインがすぐに言った。
「三週間か。俺、朝練増やすわ!」
「それは良い判断だ」
「ルベルドはどうする?」
「特に変えない」
「え、そんなもんか」
「今の自分の状態を把握している。急に変えて崩す方が良くない」
「……そういう考え方か。俺には真似できないな」
レインが苦笑した。
「あ、そうだ。ユーリのこと知ってるか? 二年のユーリ・ファコ」
「当然だ。二年の大会で優勝したのだから覚えているに決まっている」
「光属性で、既に加護持ちなんだよ。二年の最初から持っていたから学園中が騒いだ。今回の試験、1枠はほぼユーリで決まりだって噂だ」
(……光属性の加護持ち、二年生)
ルベルドは少し考えた。コゴメの新しい近衛騎士として——それは確かに「無難」な選択だ。加護があり、光属性は守護に向いている。
(……自分は加護がない。それは試験上、大きな差になる)
分かっていたことだ。それでも受ける。それだけだった。
その日の放課後、ルベルドは演習棟の使われていない区画へ向かった。
三週間、変えることはしない―――しかし確認はする。今の自分の上限と、試験で見せる「人間としての最大値」の乖離を。
闇の球体を作り出した。通常出力。
次に、密度を上げる。表面が波打ち、圧縮された魔力が内側で渦を巻く。
(……これが「試験で出せる上限」だ)
もう一段階。更に密度を上げる——球体が揺れ、周囲の空気が歪んだ。これは加護を持たない人間としては過剰すぎるだろう。
止めた。
(……試験で出せるのは一段階目だ。それが、今の俺が「見せられる強さ」の限界)
一年間そうしてきた。その範囲内でルベルドができる最善を、試験でもやるだけだ。
問題は―――その最善が、今年の試験で通るかどうかだった。




