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魔王リライト  作者: ゆずリンゴ


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28.再開

 夏休みが終わり始業式の日。ルベルドは約束通り図書棟に向かった。


 秋の朝の空気は夏より少し重く、窓から見える木の葉が緑から黄に変わり始めていた。階段を上り、いつもの窓際の席に近づくと―――コゴメはすでにいた。


 向かいの席に、小さな包みが一つ置いてある。


「ルベルドさん」


 コゴメが顔を上げた。


「よく来てくれましたね」


「約束した」


「……少し、緊張しました。来てくれるか不安で」


「来ると約束した」


 コゴメが少し笑った。


「そうですね。ルベルドさんがそう言ったなら来ると思っていました。でも、それでも不安になるのが私の悪い癖で」


「待っている間、何をしていた」


「本を読んでいました。あと……あなたへの手紙を読み返して。自分で書いた手紙を読むの、少し恥ずかしくなりますね」


 ルベルドは席に座った。向かいの包みを見た。


「それは」


「旅土産です。会食で行った先々で、ルベルドさんに見せたいものを買ってきました。開けてもいいですか?」


「お前が持ってきたものだ。開けてくれ」


 コゴメが包みを開けた。中から出てきたのは、押し花を挟んだ薄い栞が三枚と、小さな色石が一粒、それから乾燥させた小さな青い花だった。


「栞はリデール地方のもの。色石はカナン商人街で見つけた。花は―――」


 コゴメが少し間を置いた。


「リジェットという花で、『帰り道を照らす』という意味があるそうです」


 ルベルドは青い花を手に取った。軽い。乾いていても色が残っている。


「……帰り道を照らすか」


「旅から帰る人への贈り物に使う花なんですって。ルベルドさんが旅に出ていると聞いたので」


「……もらっていいか」


「もちろんです。それを買うとき、ルベルドさんのことを思って選んだんです」


 ルベルドはしばらくその花を見た。乾燥した青い花びらが、指の上で小さく揺れた。


(……俺のことを思って、か)


 そんな照れくさい内容を平気で言えるのかまコゴメだということを、改めて思った。


「……ありがとう。大事にする」


「嬉しいです」


 コゴメが小さく笑った。

 

「ルベルドさんも嬉しそうな顔をしていて、持ってきて良かったと思いました」


「そうか」


「そうです。ルベルドさんも変わってきましたね」


「変わったか」


「初めて会った頃より、もう少し―――何かが滲んでいる感じがします。うまく言えないですけど」


 ルベルドは窓の外を見た。秋の空が高かった。


(……滲んでいる)


 それが何なのかは、自分では分からなかった。ただ、コゴメにはそれが見えるらしかった。


「ルベルドさんの旅、聞かせてください。日記も持ってきてくれましたか?」


「ある」


 ルベルドは鞄から日記を取り出した。夏中書き続けた、コゴメへ見せるつもりで書いたもの。


 コゴメが受け取って、最初のページを開いた。


「ルーベンという港町に来ている。海を初めて見た―――」


 声に出して読み始めた。ルベルドは黙って、コゴメが読む顔を見ていた。


 最初の数行を読んだところで、コゴメが少し顔を上げた。


「夕暮れの波に光が反射するのが、しばらく目が離せなかった―――ルベルドさんもこんな文を書くんですね」


「実際に目が離せなかった。それが事実だから書いた」


「……ちゃんと感じていたんですね、きれいだって」


「『きれい』とは書いていないはずだが」


「でも『目が離せなかった』はそういう意味ですよ」


 ルベルドは少し止まった。コゴメが正しいと思った。


「……そうだな。俺は実際に綺麗だと思った」


「いつか、同じ海を見てみたいです」


 コゴメが少し遠くを見るような目をした。


「ルベルドさんが目を離せなかったものを、私も見てみたい」


 ルベルドは答える前に少し考えた。


「……なら、いつか連れて行く」


 コゴメが顔を上げた。


「本当ですか?」


「本当だ。ただし、近衛騎士になってからだ。傍にいる理由ができてからでないと、連れていく事は難しい」


 コゴメが少し笑った。耳が少し赤かった。


「……ルベルドさんが私の近衛騎士になってくれる日がもっと楽しみになりました」


 二人は日記を読み続けた。干し魚の話でコゴメが声を上げて笑い、洞窟の場面では息をつめていた。帰省の事は場所が魔界である事はぼやし、家族とちょっとした会話をした程度の内容を書いていた。


 最後のページまで読み終えたとき、コゴメが日記をそっと閉じた。


「……お互いに、良い夏でしたね」


「ああ」


「一番最後の『話したいことがたくさんできた』というところを読んで、嬉しかったです。私も同じでした。話したいことが、たくさんできましたから」


「では、これから話していけばいい」


「そうですね」


 コゴメが日記を返した。


「これから、また聞かせてください。全部」


「分かった」


 朝の光が窓から差し込んでいた。二年生の最初の朝だった。


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