22.出発!凹凸コンビ
三日後の朝。東の馬車乗り場に着くと、レインはすでにいた。
大きな荷物を三つ抱えていた。
「ルベルド!来た来た!」
レインが元気よく手を振った。
「……って、荷物それだけか?」
「一週間分は入っている」
「袋一個で!?」
「衣服を薄くたためば三着は入る。必要なものだけ持った」
「俺の荷物見ろよ、これ全部必要なんだが……」
ルベルドはレインの荷物を見た。大きな皮袋が二つに、木箱が一つ。
「何が入っている」
「着替え六着、厚手の外套二枚、非常食、ランタンと油、地図、雨除けのマント、あと―――」
「夏だ。外套は要らない。非常食は宿に食事がある。地図は現地で買える」
「ぐおっ。一気に否定された……」
「木箱には何が入っている」
「これが一番の問題なんだけど……」
レインが苦笑した。
「実は旅の目印に、土産物を先に詰めてきた」
「……先に?後で買うのでなくか?」
「行く前に親父の商売の残り物を少し拝借してきたんだよ。『こういう物を持っていくと現地で友達ができる』って親父に言われて。薬草の小袋が十個と、乾燥果物が……」
「重いな」
「……そうなんだよな。俺も担いでみて後悔してる」
「馬車の荷台に全部積め。担ぐな」
「賢い!!なんでそれ気づかなかったんだ俺!」
ルベルドは特に答えなかった。
荷物を積み終えて馬車に乗り込み、ハートヴェルの城門をくぐった。
「やっと出発!ルベルド、馬車酔いとかするタイプか?」
「しない」
「俺はちょっと酔いやすくてさ……薬持ってきたけど、他になんか良い方法ある?」
「窓を開けて外を見ていろ。揺れより景色の方に意識が向けば酔わない」
「それだけでいいのか?」
「それだけでいい」
レインが半信半疑で窓を開けると、夏の草原が視界いっぱいに広がった。
「……お、ほんとだ。なんか気分いいな」
「そういうものだ」
「ルベルドって知識多いよな。本で全部読むの?」
「大体は」
「俺も本読んだ方がいいかなあ。でも字を追うと眠くなるんだよ」
「俺の逆だな。人と話すと何を言えばいいか分からなくなることがある」
「え、そうなの?全然そんな感じしないけど」
「慣れた、最近は。半分はお前のせいだ」
「俺のせい?!」
「一年間しゃべりかけられ続けたら、慣れる」
レインが笑い転げた。
「そっか!俺が役に立ったのか!嬉しいじゃないか!」
「……結果として、の話だ。最初は少し煩かった」
「正直すぎ!ちなみにもう半分は?」
「秘密だ」
「えーなんだよそれ」
草原に夏の風が吹いた。馬車が揺れた。ルベルドは顔を逸らすために窓から顔を出して外の景色を見た。
一時間ほど走ったところで、レインが言った。
「なあ、ルベルド。俺の兄貴のこと、知ってるか?」
「知らない。同学年ではないから」
「そうだよな。三年のロスタ・ハルトって言うんだけど」
「ハルト。お前と同じ名字だな」
「そう。土属性で、俺と同じ系統の魔法なんだよ。学園でも成績優秀で、それで俺も学園に憧れたんだよね。兄貴が楽しそうに通ってるのを見て、俺も行きたいって思って」
「……親には反対されたと聞いた」
レインが少し驚いた顔をした。
「え、話したっけ俺」
「入学した頃噂で聞いた。お前は色んなやつに話に行っていたからな。噂の対象になったんだろう」
「そっか……まあ、隠してるわけじゃないし。親父は『ロスタと比べるな』って俺に言うんだけど、実際比べてるのは親父の方なんだよな。『ロスタはできるのに』って何度言われたことか」
声はいつものレインの明るい声調だったが、めずらしく少し違う色が混じっていた。
「……兄上のことは嫌いか」
「嫌いじゃない!兄貴自身は全然そういうこと言わないし、むしろ俺が学園入ったとき一番喜んでくれた。『来たか、頑張れ』って」
「……それで十分ではないか」
「それはそうなんだけど……やっぱり俺が勝手に比べちゃうんだよ。成績でも、魔法でも、兄貴には全然届かないから」
「届く必要があるのか」
「え?」
「お前はお前で、兄上は別の人間だ。『届く』という発想自体がおかしい」
レインが少し黙った。
「……ルベルドって、たまにそういうこと言うよな」
「何が」
「当たり前じゃないかっていう顔で核心を突く」
「核心かどうかは分からないが、俺が思ったことだ」
「……なんか楽になった。ありがとな」
「礼は要らない」
「いや、こういうのは言わないと。ありがとう、ルベルド」
「なら、素直に受けとっておく」
ルベルドは、窓の外に目を向けた。草原が続いている。空が青い。
(……レインには、こういう部分がある)
いつも明るくて笑っているが、その奥に積み重なったものがある。それをこういう場面でさらりと話せる——それはルベルドには少し難しいことだったから、素直に「得意なことだな」と思った。




