20.夏休み前に
春が過ぎ、夏が近づいた。
一年生の後期試験が終わり、成績が発表された。ルベルドは学年全体での総合成績一位―――予想通りの結果だった。
「前期に続きまたまた首位だって! すごいぞルベルド!」
レインが食堂で声を上げた。周囲の生徒がこちらを見る。ルベルドは「声が大きい」とだけ言った。
「いやでも喜べよ! 一年間の総合で首位だぞ!」
「通過点だ」
「お前のその冷静さ、少し見習いたいような、見習いたくないような……」
レインは苦笑いして、それでも一緒に食事をしながら話してくれた。レインも今期は前期より成績が上がったらしく、嬉しそうだった。
「秋に選抜試験だろ。準備はどんな感じなの?」
「あと少しと言ったところか」
「具体的には?」
「実技の判断だ」
「加減するかどうか問題?」
レインは鋭い指摘をした。
「お前が実技で力抑えてるの、俺も気づいてたよ」
「……そうか」
「理由は聞かない。でも、選抜では本気出した方がいいと思う。審査員がどのレベルか知らないけど、明らかに手を抜いてたら評価されないだろうし」
「……正論だな」
「俺にも正論くらい言えるよ!」
ルベルドは少し口元を動かした。
レインは「今笑った!」と言ったが、ルベルドは否定した。
◆◇◆◇
夏休みの前日、ルベルドは図書棟に来た。
いつもの席に向かうと——コゴメが先に来ていた。珍しく、本ではなく窓の外を見ていた。
「コゴメ」
「あ、ルベルドさん」
コゴメが振り返った。
「来るかな、って思ってました」
「なぜ」
「夏休み前の最後の昼休みだから。ルベルドさん、こういう日は来そうだなと思って」
「……そんなことまで読むのか」
「なんとなく、ですよ。当たってよかった」
コゴメはいつもの席に戻った。ルベルドも向かいに座った。
窓の外には夏の光が降り注いでいる。木々の緑が濃くなり、庭を生徒たちが笑いながら歩いている。
「ルベルドさん夏休みは何をするんですか?」
コゴメが聞いた。
「練習だ。それと街の外でも少し動こうと思っている」
「街の外? 一人で?」
「元は色々な所を見て回るつもりだったからな」
「……そういえば、旅人さんでしたね。体には気をつけてください」
コゴメは少し心配そうに言った。
「ルベルドさん、たまに無茶しそうだから」
「無茶はしない」
「でも、いつも限界まで練習してそう」
「……それは否定できない」
コゴメは楽しそうに笑った。
「私は夏休みの間はこの辺りにはいません。各地の貴族家の方との会食でこの街から長い間離れます。ダリアも一緒に」
「そうか」
「ただ……もしよかったら、お互いの夏に出来た思い出を記録して終わったあとに共有しませんか」
ルベルドは少し間を置いた。
「……それは、いいが」
「断られなくて良かった!それじゃあ、約束ですよ。私楽しみにしてますから。……じゃあ、私もう行きますね」
ルベルドは忙しなく去っていくその背中を静かに見つめた。感情を表に出すことなくいたが、心の中では確かに胸が高なっているのを隠すことができないでいる。
魔界を飛び出してもうすぐ一年が経つ。当初のルベルドから間違いなく変化が起きた。
一人の少女との出会いから始まりここに至るまで、魔界にいた頃では考えられないほどに退屈からかけ離れた日常が続いている。
この心の変化に名前を付けられる日はそう遠くないのかもしれない。




