19.春の兆し
春の空気が戻ってくるにつれて、ルベルドは学園の「一年目の後半」に入ったことを実感した。あと半年足らずで一年生が終わり、そして秋に特別近衛騎士の選抜試験がある。
準備は着々と進んでいた。学業成績は引き続き上位を維持。実技も「才能ある一年生」の水準で安定している。しかし問題はまだある——先送りにしていた「選抜試験でどこまでの力を見せるか」という問題だ。
ロウ教員との話もその後続いていた。
「ルベルド、少しいいか」
ある日の実技演習後、ロウに呼び止められた。
「前に言ったことだが——選抜試験の審査員には、センさんも加わる予定だという話が出ている」
「センが?アイツはここの教師になるのか」
「そういう訳では無い。ただ優秀な成績を残した卒業生は次の選抜試験の補佐を行うという習慣がある。観察役という立場で。その中に、センさんが加わるということだ」
(……センが観察するのか)
ルベルドは少し考えた。センは虚無属性の使い手で、魔力の質を読む能力も高いはずだ。観察眼もあるだろう。あの試合での動きを見れば分かる。
「……つまり、中途半端な加減は通じないかもしれない、と」
「そういうことだ。私は君に嘘をつけと言いたいのではない。ただ、自分の本来の実力に見合った試験をしなければ、逆に低評価になる可能性もある
「どこまで見せれば十分ですか」
「審査員が『この生徒は信頼できる』と思える水準で。それ以下だといざという時に守ることが出来る奴か怪しまれる」
ルベルドはその言葉を咀嚼した。
(……「信頼できる水準」か。それは「人間の範囲内で最上位」ということだろう。神の加護を受けた者の水準に近い。それが条件なら一年生には無理という話も何となく理解できる)
難しいところだった。加護のある人間の力は状況によって変動する。それ以前に加護を持つことの出来ないルベルドが他のものと肩を並べる事を疑問を持たれないか。
(……まあ、本番まで時間はある。考えよう)
「分かりました。考えます」
「そうしなさい」
ロウは少し笑った。
「君なりに真面目に取り組んでいることは評価しているよ、ルベルド」
褒められることに慣れていないルベルドは、「ありがとうございます」と言って会話を終わらせた。
◆◇◆◇
春になって、コゴメの体調が戻った。
図書棟での顔合わせも再開し、コゴメはいつものようにやわらかい笑顔で現れた。
「冬の間、あまり会えなかったですね」
「体調はどうだ」
「もう平気です。春になるといつも元気になります。ルベルドさん、心配してくれてたんですか?」
「……観察の結果だ」
「また、それですか」
コゴメは少し笑った。
「もう素直に「心配してた」って言っていいんですよ?」
「……それは難しい」
「なんで難しいんですか」
「そういう言い方をするのに慣れていない」
コゴメがやわらかく目を細めた。
「……じゃあ、私が『ルベルドさんが心配してくれてた』って解釈しますね。ありがとうございます」
「勝手に解釈するな」
「だったらルベルドさんが素直になればいいんですよ」
ルベルドは返事をしなかった。しかし視線を手元の本に落としたとき、顔が少し熱いような気がした。
(……本当に、この感覚はなんだ)
分からなかった。コゴメと一緒にで時々このような感覚に陥る。
不快ではない。ただ処理の仕方が、分からなかった。




