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魔王リライト  作者: ゆずリンゴ


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18.冬がきた

 二月に入ると、学園内では前期の総合評価が話題になり始めた。


 ルベルドの学業成績は一年生の中でも上位だった―――特別近衛騎士の選抜試験は年に一度、翌年の秋だ。それまでの学業成績の累計も評価に入る。


 レインが放課後の廊下でルベルドに追いついて、開口一番言った。


「お前、今期の成績、一位だって聞いたぞ」


「そうか」


「そうか、じゃなくて! 普通はもっと喜ぶところだろ!」


「目標は特別近衛騎士になることだ。喜ぶにはまだ早い」


「……その謙虚さが逆にすごいよ」


 レインは苦笑した。


「俺は真ん中くらいだった。ルベルドに魔法の理論教えてもらってなかったらもっと下だったと思う」


「教えた覚えはあまりないが」


「廊下で話してくれただろ、あれが全部ヒントになってたんだよ。俺にとっては」


 ルベルドは少し考えた。廊下での立ち話を、レインはそういう風に受け取っていたらしい。


(……人間は、些細なやり取りを積み重ねる種族だな)


「ま、来年も一緒に頑張ろうな」


 レインが言った。


「俺、お前と同じクラスで良かったと思ってる」


「……そうか」


「そうか、で終わるな!もう少し感情出せよ!」


「……俺も、悪くないと思っている」


「それがお前の精一杯か。まあいいや、ありがとうな」


 廊下の窓の外に、雪が舞い始めていた。


 ルベルドはそれをちらりと見た。魔界に雪はない——白い雪が静かに積もっていく景色は、この世界に来てから初めて見るものだった。


(……綺麗だな)


 誰にも言わなかったが、そう思った。


◆◇◆◇


 冬の演習棟でのことを、ルベルドは記憶している。


 ある夕方、いつものように一人で練習していると、珍しいことが起きた。


 演習棟の扉が開いて、コゴメが顔を覗かせた。


「あ、ルベルドさん!いた」


「……コゴメ? なぜここに」


「ダリアに用があったんですけど、もう帰ったって言われて。そしたらなぜかルベルドさんがここにいるって別の子が教えてくれて……邪魔でしたか?」


「邪魔ではない。入れ」


 コゴメが入ってきた。後ろに護衛が一人控えたが、少し距離を置いた位置で止まった。


「練習してたんですね。何の練習をしてたんですか?」


「出力の調整だ」


「見てもいいですか?」


「構わない」


 ルベルドは的に向き直り、闇の魔力弾を作り出した。いつもの演習用の大きさより少し小さく、しかし密度を高めた弾だ。


 それを放つ。的の中心に当たり、鈍い音がした。的の表面に深い凹みが残る。


「……わあ」


 コゴメが静かに言った。


「さっきより、小さいのに深く刺さりましたね」


「そうだ。大きさを犠牲にして密度を上げた。貫通力が増す」


「攻撃魔法って、そういう考え方をするんですね。私の回復魔法とは全然違う……」


「回復魔法はどういう考え方をする」


「回復魔法は……広げる、という感じです。治したい部分に向かって魔力を優しく流す。急いで出力を上げると、体が驚いてかえって回復が遅くなることもあって」


「……なるほど。治癒系は量より質と流れ方、か」


「そうです。ルベルドさん、前にそう言ってたじゃないですか」


「よく覚えているな」


「ルベルドさんが言ったことは大体覚えてます」


 言い方があまりにも自然で、ルベルドは返す言葉が一拍遅れた。


「……そういうことを、さらっと言えるのはお前の凄いところだ」


「え?どういうことですか」


 ルベルドは言葉を返さなかった。


 コゴメは理解できないという顔をした。

 ルベルドはこれ以上説明する気になれなかったので、もう一度的に向き直った。


 しばらくコゴメは静かに見ていた。ルベルドが練習を続けるのを、邪魔せず、しかし帰らずにいた。


 演習棟の外では雪がまだ降っている。

 木窓の隙間から冷たい空気が入ってきて、コゴメが少し肩を縮める。


「寒いか」


「少しだけ。でも平気です」


「無理をするな。体が弱いと聞いた」


 コゴメがぱちりと目を瞬かせた。


「……ダリアに聞いたんですか?」


「教えてくれた」


「あの子、心配性だから。でも大げさじゃないですよ。確かに普通の人より少し弱いですけど、ちゃんと回復魔法もかけてるし、自分の体のことは分かっています」


「分かっているなら、あと少しで日が落ちる時間に演習棟に来るな」


「……」


「帰れ。ダリアが心配する」


 コゴメはしばらく黙っていた。それから、小さく笑った。


「……ルベルドさんも、心配してくれてますよね」


「観察の結果を言っているだけだ」


「そうですか」


 コゴメは立ち上がって、マントの前を合わせた。


「じゃあ帰ります。……呼んでくれてありがとうございます」


「呼んだ記憶はない」


「ふふ、それではまた明日。きっと会いましょうね」


 コゴメはそう言って、護衛と共に演習棟を出ていった。


 ルベルドはその背中が扉の向こうに消えるまで見ていた。


 しかし——コゴメの言葉は、いつもどこかおかしいものだ。ルベルドの素っ気ない言葉を、何かに変換して受け取る。その変換が、いつも少しだけルベルドの予想外のところに着地する。


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