92.山を目指す
リライトの修練を行い幾日。ルベルドはその感覚を確かなものへと昇華させていった。スルクが地図を机に地図を広げた。ルベルドは机の横に立った。
「ここが山の神域だ」
スルクが地図の上の一点を指した。北東、ハートヴェルからは馬で二日ほどの距離にある山岳地帯。地名はサリム山、と書いてある。人間界では古くから神聖視されてきた山で、山岳の民が代々「山の神の座」として守り続けてきた場所だという。
「ここに向かう理由を説明してくれ」
「二つ」
スルクが地図をたたんで指を二本立てた
「一つは偵察だ。アダムがすでに神域を複数把握していることは分かっている。現状、ガルム島を初めとした多くの神域の神が眠りについた。けど、山の神はまだ起きてるみたいだから次は、この山が狙われる可能性が高い」
「もう一つは」
「お前のリライトの実戦練習の場だよ」
スルクが言った。
「練習で俺の攻撃をずらすのと、本物の戦闘でずらすのとでは全然違う。何かがあればその練習にちょうどいい。ないなら偵察だけして帰ればいい。ただ、何もないとは思えないけど」
ルベルドは少し考えた。
「山の神の話を最初に聞いたのは何日も前のことだ。その間にアダムが動いたらどうするつもりだった。それに、海底神殿とやらも狙われていると言っていたが」
「問題ない。ルベルド、俺は組織に所属していて、動いてるのは俺だけじゃないんだ。その仲間がそれぞれの場所に潜伏してる。アダムの連中にも簡単には負けないよ」
「お前の所属してる組織は何なんだ。仲間は……人間なのか?」
ルベルドは正直に気になった。スルクが人間界で関わっている対象が。人間だとしたらスルクは自分の正体を明かしているのかも。
「秘密」
言ってスルクは笑った。嫌な感じでは無い。ルベルドの反応で遊ぶためだろう。
「ルベルドが正式に組織に入るなら教えてもいいけど、そうならない為に動いてるんだろ?」
「……そうだ」
スルクの言葉にルベルドは反抗できず大人しく頷いた。
「さて、話を戻そう。今回向かう山の神域は他と違って神域の守り手がいる。巫女と呼ばれている。代々、山の民の中から選ばれた者が神域の番をしてきた。今代の巫女、これが中々やり手だ」
「やり手とは」
「山の神の加護を持っている。力は本物だ。遠目に見た感じ、お前の友達の加護持ちと同じくらいはあると思ってくれ」
(……加護持ちか)
ルベルドは頭の中で整理した。加護持ちの人間が守る神域に、アダムが向かっている。そこへルベルドとスルクが入る。単純な偵察にはなりそうにない。
「出発は」
「今日の午後だ。馬を使えば明日の夕方には麓に着く」
「もっといい移動手段はないのか」
「方陣を使って神域の内部に入るのは難しいし、加速魔法を使うには目立つ距離だ。そして――馬に乗るのは面白い」
そう言ってスルクは笑った。




