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怪談遊戯~冥界ドライブ~  作者: 雪鳴月彦
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第二十九話:斬首刑

 気のせいか、話をしている途中から車内を含めた周囲の空気が、ひんやりとし始めたような感覚が肌に染み込んできた。


 山間部であれば、場所によっては気温が低い所もあるなんて豆知識みたいな話をどこかで仕入れたことはあったが、正にこういうことを言うのか。


 それとも、もっと別の……霊的な現象がまとわりつき始めているみたいなことが起こり始めているのか。


 どうせなら後者であってくれれば面白いのになと、聞く人によっては不謹慎な考えを頭の隅に浮かべながら、俺は過去に幼馴染の母親から聞かせてもらった話を語り終えた。


 漫画やドラマのように、このタイミングで突然車のラジオが勝手についたりでもすれば、なかなかの演出になるのにとも思いながら話していたが、残念ながらそういった怪異は訪れてはくれなかった。


「……電波などに、霊は干渉をしやすい。真偽は定かではありませんが、そんな話を聞いたことがありますが、今のお話もそういったことと関連があるのでしょうかね」


 ラジオのある位置を見つめていた俺を観察でもするように、バックミラーに映し出される見越の両目がジッとこちらを注視している。


 と言っても、もちろん運転をしているため事故を起こさないように前方を確認しながらではあるが、先程までと比べると確実に運転に対する集中力と言うのか注意力は散漫になっているのは明らかだろう。


 交通量が皆無に等しく、路面が悪くて狭い以外は単調なだけの道を走っているからという理由はあるだろうが、それを踏まえても妙に落ち着かない様子が窺える。


「霊がラジオをあやつり、お母さんへ何かを訴えた。確かにそういうお話だったのだろうと思います。今の時代、スマートフォンやパソコン等はほぼ誰でも持っていると言われる時代ですし、案外世の中の皆さんが考えている以上に不可思議な体験というものは日常と肉薄しているのかもしれないと、お話を聞きながら思いました」


「それなら、たまに突然パソコンが動かなくなったとか、スマホの電源が落ちて画面が真っ暗になったなんて話も、実は霊の仕業って可能性が出てくるかもしれませんね」


 俺も見越の目を見つめ返しそう言って、笑みを浮かべてみせる。


「たまに、ネットっで恐いサイトを閲覧してると急に何かの気配を感じることがある。きっと霊が寄ってきてるんだ。みたいなこと言う人なんかもいるんですよ。ああいうのも、そうなのかな」


「それは、恐い話をしているときにも同じようなことを言いますし、あながち間違いではないと思いますね。しかし最近はもう、ネットで何でも調べられてしまうんですよね。私が若い頃なんて、雑誌や定期的に放送される心霊番組とかでしか、情報は集められない時代でしたから。お客さんのようにその道に詳しい人が周りにいると、それだけで人気者でしたよ」


「あ、それは俺の時代だって同じですよ。小学生の頃とか、クラスメイトとかでネットをしてるのはまだ少数でしたから。親に使わせてもらえないとか、高価な物だから家にないとか、理由は色々でしたけど」


 中学にもなれば、パソコンに詳しい奴なども現れ始めていたが、それ以前はガラケーすら持たされていたのは一部のクラスメイトだけだった。


 正直、携帯を持っていた同級生には普通に嫉妬していた記憶がある。


「それでも、最近は小学校でも教室にパソコンが置かれている時代だと言うでしょう? いやはや、もうわかりませんね。私たちの世代では色々と変わり過ぎてついていけません」


 苦笑するように笑い参ったとでもいうように首を振ると、見越はようやく前方を見ることに意識を切り替えたように、俺へ視線を合わせるのをやめた。


「……ところで、実はだいぶ前にも一度、よくネットで心霊スポットを探してそこを訪れるのが趣味なんだと仰っていたお客さんを乗せたことがあるのですが、その方からも、一つ恐い体験談を聞かせていただきましてね。これが実話であればちょっとショッキングな内容なんですが、せっかくですしお話しましょうか」


「へぇ? それは普通に興味がありますね。どこのスポットの話かな」


 自分のようなオカルトマニアで、心霊現象に遭遇したという逸話は珍しくもないが、やはり気になってしまうものではある。


「ええと……正確な場所は私も教えてもらえなかったのですが、地方にある処刑場跡地を訪れた方が、体験されたというお話です」


 俺の期待を焦らすように、見越はゆっくりと溜めるような口調でそう話を切り出してきた。






       ◇◆◇◆◇◆◇



 このお話を聞かせていただいたのが、約六年前でして。


 もう四十代後半くらいの男性でした。


 その男性が、更に十年ほど前とある処刑場跡地へ友人と二人、肝試しへ訪れたことがあったのだそうです。


 八月に入ったばかりの暑い時期で、時刻は丑三つ時を選んで行ったと仰っていました。


 場所は都心部ではなく地方にあり、そこは長い年月全く開発の手が加えられていない、一見すると小さな森のように見える外観をした場所、とのことでした。


 それ故に、ただ処刑場があった場所というだけでなく、無闇に入り込めば祟りがあるとか、中へ入るとそのまま行方不明になってしまうことがある、といった信憑性のない噂も地元の子供たちの間では広まっていたりもしたということです。


 そんな場所に、大の大人が二人で訪れ、敷地の中へと踏み込んでいった。


 中は当然暗いですから、ライトを点けて奥へと進んでいくと、当時ここが処刑場であったことを証明するように供養塔か慰霊碑か、古ぼけた石碑が祀られているのを男性が見つけた。


 そこには何か文字が刻まれていたそうですが、あまりに古くとても読めるような状態ではなかったそうで、それがいつからそこにあるものなのかもわからなかったそうです。


 周囲はろくに手入れもされていないのか、下草は伸び放題で一応道はあったものの、よく足元を確認しながら歩かなければまともに見分けることもできない有様。


 そんな場所をニ十分近くも探索していた二人は、やがて石碑以上の目ぼしい発見ができず、そろそろ引き上げようかという流れになった。


 本当にここが処刑場だったのか、あの供養塔だけじゃよくわかんねーな。


 そんなような会話を交わしながら元来た道を引き返し始めた男性は、途中まで歩いてからふと友人が後ろをついてきていないことに気がつき振り返った。


 見れば、下草に覆われた細い道の途中で、友人はライトを持った手をだらんと下げて俯き、棒立ちになっている。


 何だよあいつ。どうしたんだ。今の今まで一緒に喋りながら歩いてたのに。あ、さては俺のこと驚かそうと思って、何か芝居始めやがったか?


 すぐにそう悟った男性は、踵を返して友人の側まで戻ると


「お前な、こんなとこでいきなりそういうのやめろよ。恐くないぞ別に」


 そう軽口をたたきながらポンッと、友人の肩へ手を置いたと言うのですが、次の瞬間――その俯いていた友人の首が、何の脈絡もなしにボトリと地面に落ちると、男性の足元へ転がったのだそうで。


 男性もこれには悲鳴をあげてしまい、走って車を止めておいた場所まで戻ったのだそうですが、これは警察を呼ぶべきなのか、呼ぶとしてこんなことをどう説明すれば良いのか、頭が混乱しどうすべきなのか暫しまごついていると、前方、自分が逃げだしてきた森の奥からライトを手にした友人が何事もなかったかのように男性の前へ姿を現した。


「おい、何で急に逃げたんだよ」


 友人は男性の前まで来ると困惑したようにそう訊ねてきたそうで、


「いや、お前こそどうしたんだよ。大丈夫なのか……首、落ちたはずじゃ」


 男性もまた、困惑しながらそんなまとまりのない返答をすることしかできず。


「はぁ? 首なんか別に何ともないよ。何だよ首落ちるって。からかってんのか。おれはただ、歩いてたら急に貧血みたいになって、ちょっと気分悪くて動けなくなっちまってただけだよ。そしたらお前、おれの肩叩いた途端いきなり大声出して逃げだすから、何事かと思ったんだぞ。すぐには歩けねぇし、マジで不安になったわ」


 更にそんな言葉までかけられた男性は、いよいよ自分が体験した出来事の説明がつかなくなってしまい、それ以上友人へ真相を追求することができなくなったそうでして。


 結局、この日はこれでお開きということになり、各自家へ帰ったとのことです。



 ……ただ、この日から一月も経たずに、この友人の方、事故で亡くなってしまったそうなんです。


 休日、一人でバイクを運転している最中事故を起こしてしまい、男性が聞いた話では即死だったらしいと。


 その際、ヘルメットは被っていたそうなのですが、余程大きな衝撃を受けたのか、首がほとんど千切れかけていたそうなのだとか。


 祟りに遭った、ということなのでしょうかね。


 一歩間違えれば、自分が友人のような死に方をしていたかもしれないし、そもそも遊び半分であんな所へ行かなきゃ良かったと、今でも頻繁に思い出してはそんな後悔をしてばかりなのだそうで。


 今になって思い返してみれば、私へこのお話を聞かせてくださったのは、懺悔ざんげの意味もあったのかもしれません。


 男性は酷く重い口調で、そんなお話をしてくだっていました。

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