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怪談遊戯~冥界ドライブ~  作者: 雪鳴月彦
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第二十七話:ついてくるモノ

 次はちょっと……軽い話、と言うと体験された方に失礼なのでしょうが、比較的よくあるなと思われるお話をさせていただきます。


 私たちのようにタクシーの運転を長くしておりますと、深夜に乗せた乗客がいつの間にかいなくなり、座っていた場所がびっしょりと濡れていた……という、誰でも一度は聞いたことがあるであろう怪談を実際に体験したことはないのか、など訊ねられることが稀にあるんです。


 ですが残念なことに、少なくとも私を含めて周りではそういうを体験した同業者は一人もいないんですよ。


 あからさまに普通ではなさそうな、怪しい客やおかしな客を乗せることはありますけど、どれも生きた人間で、最後はちゃんとお金を払って降りていきましたしね。


 なので私自身も、本当にそんなことがあったりするのだろうかと、半信半疑でいるのが本音でして。


 ただ、こういった……何て言うんでしょうね、怪談の王道とでも言える有名な話、悪く言えばありきたりな話というのは、この業界だけにあるわけでもないじゃないですか。


 学校の音楽室では夜になると勝手にピアノが鳴りだすとか、病院であれば誰もいないはずの霊安室から声が聞こえたとか。


 これも、そういった系統になるのかなと思えるお話なんですけどね。


 今から四、五年前の冬に乗せた、現役の看護師をされていた女性に教えていただいたお話です。


 その方は私と出会う数ヶ月前まで他県の病院に勤務していたそうなのですが、その病院で夜勤をすると大抵あるおかしな現象に付き纏われていたのだそうです。


 そしてそれは、その方だけでなく他の看護師も同様で、病院全体で共有されていた怪異であったと。


 ではそのおかしな現象とはどういったものであったのかと言いますと、以前勤めていた病院の消灯時間は二十二時。そしてそこから二時間おきに看護師が院内を巡回していたのだそうですが、決まって二回目の巡回のときになると、途中から見えない誰かがずっと後をついてくる足音が聞こえてきていたのだそうです。


 巡回を始めて暫くすると、裸足で歩くようなペタ、ペタ、という音が背後からし始め、巡回が終わる頃になるとピタリと止んで気配が消える。


 その病院に勤めて最初の夜勤で、女性は謎の足音に遭遇した際、不思議に思いながら振り返るも誰の姿もなく、恐さのあまり逃げるように仲間のいるナースステーションへ駆け戻ったそうで、それを見た先輩から


「あ、それ害はないから気にしちゃ駄目よ。夜勤のときは大抵聞こえるけど、無視しておいて」


 と、あまりにもあっさり告げられ戸惑ったりもしたと言っていました。


 それから一年も働いていると、やはりどんな環境であっても人は慣れるものなのでしょうか……女性もついてくる足音には恐さを感じなくなり、もはや足音が聞こえるのが当たり前のようになってしまっていたのだそうです。


 そんなある日のことでした。


 いつも通り夜勤をしていて、巡回の時間になった。


 今夜もまたついてくるのかなと思いながら廊下を歩いていると、やはりいつもとほぼ同じタイミングでペタペタと背後から音が鳴り始めた。


 特に気にすることもせず病室を見て回り、その途中でふと何気なく女性が廊下の窓へ視線を向けた瞬間、そこで初めて足音の正体を見てしまったのだそうです。


 懐中電灯を持って歩く自分がガラスに映り込み、その一メートル離れているかいないかの後方に、女性の腰当たりまでしかない身長の女の子が、俯きながら後をついて歩いてきている。


 長い髪が俯いている顔を覆い隠し、表情や人相はわからない。


 女性の方、既に足音には慣れていたとはいえ姿を見たのは初めての経験でしたから、突然の出来事というのも相まって、驚いて思わず振り返ってしまったそうなのですが、その瞬間には女の子の姿は幻であったかのように消えてしまい、深夜の暗い廊下には自分以外誰もいなかったそうです。


 その後、気味が悪いと内心焦りながらも再び歩きはじめて間もなくすると、また足音の追跡が再開されたそうで、さすがにもう窓ガラスを見るのも恐くなり、女性は速足で巡回を終わらせ仲間のいる場所へ戻っていったということです。



 どういうわけか、女の子の姿を目撃できたのはこの夜だけだったそうで、これ以降はまた足音だけが聞こえる日々に戻ったということですが、夜な夜な看護師についてまわるこの女の子は何者で、どんな目的や訴えがあって現れていたのか。


 それはお話をされた女性を含め、病院関係者の誰もがわからないのだそうで。


 ……ひょっとしたら、その病院では今夜も、巡回をする看護師さんの後ろを俯いた女の子がペタペタと足音を響かせながらついて歩いているのかもしれませんね。

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