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怪談遊戯~冥界ドライブ~  作者: 雪鳴月彦
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第十話:蛍

 数年前に乗車した、二十代後半くらいの女性から聞かせていただいた話です。


 何でも、その女性のお母さんは難病を患っていたそうで、その方が小学三年生になる直前の冬に他界してしまったのだそうです。


 病院へ入院してからは、週末になる度に父親に連れられお見舞いへ訪れていたそうなのですが、ある日、いつも通り父親と共に病室を訪れた女性へ、お母さんはこんなことを言ったのだそうです。


「もしお母さんが死んじゃったとしても、綺麗な蛍になって貴女の元に会いに行くからね。だから、お母さんが死んでも悲しまなくて大丈夫だからね」


 どうして突然そんなことを言ってきたのか、まだ小学生の低学年だった女性にはわかるわけもなく、その時はただ、そんなこと言っちゃ嫌だ、言わないでと、そう言って泣きべそをかいてしまったことを覚えているそうです。


 そんなやり取りをしてから、僅か一月半が経過した頃。


 お母さんの容態は急変し、父親と共に病院へ駆けつけた時には既に、お母さんは息を引き取っていたそうです。


 お母さんの手を握り号泣する父親を見て、女性もつられるように泣きながら、何度もお母さんへ起きてと呼びかけたものの、当然ながら目を開けてくれることは二度となく、それ以来お母さんの声を聞くことはできなくなりました。


 それから、バタバタと忙しそうに動き回る大人たちによってお母さんの葬儀は滞りなく行われ、初七日も終わり暫くが経過したある夜のこと。


 未だお母さんを亡くした悲しみが癒えることのないまま部屋で寝ていた女性は、夜中にふと目を覚ましたのだそうです。


 特にトイレへ行きたいわけでも、おかしな夢を見たわけでもなく、本当に突然目が覚めてしまったのだと言っていました。


 ああ、まだ暗いなぁ。朝じゃないんだなぁ。


 そう思いながら、何気なく部屋の窓の方へ視線を向けたその方は、そこに小さな明かりが見えたような気がして、え? っと視線が釘付けになってしまった。


 今、窓の所が光った気がしたけど、何だろう。気のせいかな。


 暫くジッと窓を凝視していると、また小さな光が窓の所に灯った。


 これは気のせいじゃない。何だろう、あの光。


 そう思い、そっと布団から身体を出すと、女性は慎重な足取りで窓へと近づいて行きました。


 恐いとか不思議だといった感情は不思議と湧いてはこなかったそうで、女性は窓際まで来ると、特に躊躇ためらうことなく鍵を外して開けたと言うのですが、その瞬間、まるでそれを待っていたかのようにその光の正体、一匹の蛍が部屋の中に入り込んできたと言うのです。


 季節はまだ冬。気温は身が竦む程寒い。


 そんな時期に、どうして夏の虫がいるのか。


 驚きながら部屋の中を飛び回る蛍を見ていた女性は、そこでハッと、生前お母さんが話していた言葉を思い出した。


 ――お母さんが死んだら、綺麗な蛍になって会いに行くからね。


 それを思い出した瞬間、女性は蛍へそっと手を伸ばしながら「お母さん?」と呟くと、その蛍はまるで女性の声に応えるように、スゥッと手の平に止まってきた。


 ああ、やっぱりこれはお母さんだ。お母さん、本当に蛍になって会いに来てくれたんだ。


 そう直感した女性は、蛍がどこかへ行ってしまわないようにと小さなガラスケースへ入れて枕元へ置き布団へ入ると、ずっとあれこれと話しかけていたそうなのですが、やがて気づかぬうちに眠りへ落ちてしまい、気がつくと朝になっていた。


 ただ、そこで一つおかしなことが起きたそうで。


 慌てて枕元に置いていたガラスケースを確認すると、蓋をしてあるにも関わらず、中に入れたはずの蛍がいなくなっていたと言うんですね。


 ケースには穴は開いていない。寝ている時に倒したりした痕跡もない。


 普通に考えて、蛍が中から出ることはできない状態になっていたのにも関わらず、まるでその蛍だけが夢か幻ででもあったかのように、いなくなってしまっていたのだそうで。


 その女性は、またお母さんがいなくなったと、そこで泣きだしてしまったそうなのですが、結局この夜に迷い込んできた蛍は何だったのか。


 その正確な答えはわからないままなのだそうですが……。


 ただ、真冬に蛍が現れたという時点でおかしな話ですし、枕元で女性が話しかけている間、その蛍はまるで女性の話に耳を傾けるかのように、女性の側へ近づきジッとしていたということでしたので、私はこれ、本当にお母さんが一夜限りの訪問をしてくれたのではないかなと、思うんですけどね。


 大好きで大切な娘との約束を果たしたい一心で、本当に蛍になったお母さんが会いに来てくれたんじゃないでしょうか。


 そう女性にお伝えたら、その方、「はい。わたしもそう思っています」と、しみじみした口調で頷いておられました。

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