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怪談遊戯~冥界ドライブ~  作者: 雪鳴月彦
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第九話:娘のプレゼント

「なるほど。家具に限らず、誰かが使用した物にはその人の念がこびり付くといったようなお話は、よく耳にする機会がありますね。私たちのような立場ですと、中古車などはそれほど珍しくもないですが、後は人形なども有名でしょうか。アパートやマンションと同様、やはり人の情が染み込んだ場所や物というのは、何かしらの見えない力が宿っているものなのでしょうね」


 見越は神妙な口調で俺の話した怪談へ感想を述べると、不意にバックミラーへぶら下げられていた御守りを指さした。


「この御守り、もうだいぶ前に娘から貰った物なんですけどね、運転中に一度、紐が千切れたことがありまして」


「え?」


 これはまた唐突な話だなと思い、俺はつい短い呟きを漏らす。


「お父さん、毎日車を運転してるし、ちゃんと守ってくれるようにあたしがお祈りしておいたからって、そんなことを言って渡してきたんですけど、この御守りを付けて仕事をするようになってから、半年とちょっと過ぎた頃だったでしょうか。私、間一髪で助かったのですが大事故に巻き込まれかけまして。本当にあと一秒、ハンドルを切るのが遅れていたら間違いなく死んでいたんですよ」


「……その事故と御守りに、関係性があるんですか?」


「ええ。対向車のダンプがね、何が原因かわかりませんが、対向車線を越えて突っ込んできまして。私、これは駄目かと思って焦りつつ、それでもどうにかかわせないかとアクセルを踏み込んだんです。ブレーキを踏んだら確実に衝突するタイミングでしたから、ぶつかるよる前に通り過ぎるしかないと、一か八かでした。そうしたら、私の掴んでるハンドルがね、引っ張られたと言うんですかねぇ……突然誰かに切られるように動いたような感覚があったんですね。いや、今になって考えると、あまりにも咄嗟のことで私がそう思い込んだだけなのかもしれませんが、それでも、その時はそう感じたんです。……結果的に、そこで急ハンドルを切ったことで、ギリギリでダンプを避けることができました。車も特に被害はなく、本当に無事に回避できたのですが、ただ一つだけ。ダンプを避けてからすぐに車を停車させたのですが、その瞬間にですよ? 目の前で突然この御守りの紐がブツッと千切れて、下に落ちたんですね。それ見て私、あって思いました。これは娘に助けられてしまったなと。なので、ひょっとしたらあの時ハンドルを切ったのは娘の念か、またはこの御守りに宿っていた神様みたいな存在で、私を助けてくれたのかもしれないと思いましてね」


 そう考えると、霊的な現象というのも、一概に恐がるものばかりではないのかもしれないなと、考えさせられる出来事でした。


 そう話を締めくくった見越の声は、どこか自慢話をしているようにも感じられた。


 父としては、娘がくれたプレゼントがそのようなかたちで役立ったことに、嬉しさみたいなものを感じたりするのかもしれない。


 それにしても、まさかすぐ正面にそんな面白い物がぶら下がっていたとは。


 虚を衝かれた心地になりながら、俺はバックミラーの下で揺れる御守りを見つめた。


「恐い内容ばかりというのもあれですし、どうでしょう? せっかくですからこのまま優しい怪異のお話でも、お聞かせしましょうか?」


 暫しの間を挟み、俺が吐き出す言葉を見つけだすより先に、見越がそんな言葉を続けてきた。


「優しい怪異? 今運転手さんが体験されたような感じの話ってことですか?」


「ええ。やはりね、怪談をいくつも聞いていると、恐いだけでなくただただ不思議だなと思えるものや、聞いた後に切なくなるものもあるんですよ。そういう話も、良ければ是非お聞かせしたいなと」


「もちろん、そういうジャンルも嫌いではありませんから。せっかくなら聞かせてほしいですね。何だか、今日は本当についてるな。一度にこんなたくさんの怪談を聞けるチャンスなんて、イベントくらいしかないのに」


 怪談話に好き嫌いはない。聞ける話は聞ける時にいくらでも聞いておくのが自分の性分だ。


 願ったり叶ったりといった気持ちで肯定を示す俺に微かな笑みを見せ、見越は「それではお聞かせ致しましょう」と穏やかな声音で呟いた。

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