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彼の人の想い人

「優愛ちゃん。本当にずっと私についてくるつもりですか?」



 シアちゃんが私の方を振り向きながら困り顔で言う。



「うん。このお城に軟禁されていてやることもなくて暇だし、シアちゃんと一緒の方が有意義に過ごせるかなって思って」



 私は歩くシアちゃんの後にぴったりとついていきながら答える。



「優愛ちゃん。私、今日は城の外に行く予定はありませんよ」


「……シアちゃんはもし外に行ったら私がシアちゃんの隙を突いて逃げだそうとするんじゃないかって疑ってるの?」


「それは……」



 図星を指されたのか、シアちゃんは困り顔のまま言葉を失う。



「移動の魔法陣を一目でいいから見たいなって思ってるんだけど、駄目? 私には魔力がないから魔法陣を使ってどこかに行くことなんてできないよ」


「駄目です。万が一のこともありますし。お城の中は行ける範囲内でしたら自由にして良いですけど、他は駄目です」



 ストレートに希望を告げたらきっぱりと断られた。



「鍵は掛かってなかったのに開かない扉とかがあったけど、あれはなんで? 別の仕掛けか何かがあるの?」



 私はめげずにシアちゃんに別のことを訊く。私が逃げ出すことを警戒するなら、普通、城の中も自由にさせないような気がする。それをあえて許しているのは、私がいける場所を開かない扉によって制限しているからだと思っていた。



「ローライナ城には様々な魔術が施されているんです。開かない扉はその魔術の一つです」



 シアちゃんはそう答えた。


 やっぱり開かない扉は魔術によって封じられていたのか。おそらく開かない扉の先には私が行っては困るようなエリアがあるのだろう。


 あと、今シアちゃんはこの城には様々な魔術が施されていると言った。それはつまり、扉を封じる以外の魔術も施されているということだ。


 私一人でイリア達を出し抜いて外に行くだとか逃げ出すだとかそういったことはかなり難易度が高そうだ。というか実質不可能と言ってもいい。



 移動の魔法陣は見ることすらできなさそうだし、どうしようかな?



 とりあえずはイリアの仲間であるシアちゃんが日中、どんな風に過ごしているかを観察することにしよう。



「シアちゃんが今日外に行かないことはわかった。移動の魔法陣の件も諦める。けど、今私はイリアもいなくて暇だから、今日一日はシアちゃんとずっと一緒にいても良い?」


「……私と一緒にいてもつまらないですよ。色々と細かい雑用をこなすだけですから。それにイリアもそのうち優愛ちゃんの元に訪れるかと思います。なので、それまでお部屋で待たれた方が良いかと思います」


「シアちゃんがその雑用をこなすのに向かわなくちゃ行けない場所って私がついてきたらマズいところなの?」


「……」



 そう問い詰めるとシアちゃんは困ったような笑みを浮かべた。



「予言の勇者様は好奇心旺盛なのね」



 突然第三者の声がした。落ち着いた艶のある大人の女性の声だ。


 私はすばやく前方を見る。シアちゃんを問い詰めるのに夢中で気づかなかったけど、そこにはセクシー系の美女がいた。ノースリーブの白のドレスはシンプルながらも胸元が大きく開いており、そこからは豊満かつ形の良い乳房が覗いている。そして私達に対して真っ赤な唇が少しだけ吊り上がって浮かべられた微笑は蠱惑的で、スタイルの良さはもちろんのこと、雰囲気そのものがとても色っぽかった。



「……シアネ様、おはようございます」



 シアちゃんが挨拶する。心なしかその態度は慇懃無礼なように感じた。


 美魔女とでも言うべき熟女系の美女はシアネというようだ。あれ? 最近、耳にしたような気がする名前……。



「魔女様!?」



 イリアがそう呼んでいたことを思い出し、私は思わず声を上げてしまった。



「『魔女様』だなんて、まるであの子のように呼ぶのね」



 そんな私に対してシアネさんはクスクスと笑う。『あの子』っていうのはたぶんイリアのことなんだろうけど、大の男を『あの子』呼ばわりするということはシアネさんはそれだけ年上何だろうか?


 私はシアネさんをジッと見つめる。特別若いとも思わないけど、老けているとも感じない。色気たっぷりの大人の女性って感じがする年齢不詳な美女だ。


 こんな女性がイリアの好みって言うのなら、私なんて妹というかガキにしか見えないだろう。



「イリアからあなたのことを少しだけお聞きしました。イリアはあなたのことを命の恩人だって言ってました。あなたの予言に助けられたって。この世界の魔女は予言を生業にしているんですか?」



 私はシアネさんにそう問い掛ける。イリアの命の恩人かつ好きな人である彼女とも少し話してみたかった。



「予言は魔女の(まじな)いの一つよ。他にも俗に言う魔法薬なんていう薬を調合や、占いなんかも行うわ。魔女はそういった(まじな)いを生業としているの」


「魔術師とは違うんですか?」


「そこにいる子みたいな魔術師は魔力を原動力に様々な術を行使する者達のことを言うの。だから(まじな)いを扱う魔女とはそもそも専門分野が違うわ。あと、魔術の専門家である魔術師と違って魔女は魔女の里の者を指すの。(まじな)いの専門家ではなく魔女の里の者のことをそう呼ぶのよ」



 どこか艶やかさを感じさせる声音でシアネさんは答えてくれた。 


 この世界の魔女は魔女の里って呼ばれるところの人のことを指して、その里の人は(まじな)いを生業にしているのか。


 ちょくちょくこの世界独自の定義があるので、私は脳内にメモする。



「そうなんですね。あの、私が勇者でこの世界を救うっていう予言についてどう思いますか? 本当に私にこの世界を救うことなんてできるんでしょうか? 魔女様の考えが聞けたら嬉しいんですけど」



 グリトニルが滅んだ時、イリアを救ったのはシアネさんの予言だったという。そんな予言もできる魔女様はクロストリアの宮廷占い師であるマリオネットが下したこのお告げについてどう考えているのか聞いてみたかった。



「彼女の予言者としての力は本物よ。もちろん占い師としても。マリオネットは私と同じ魔女の里の出身者だもの」



 魔女の里の出身者っていうだけでその能力は保証されるようだ。一流っていうお墨付きになるくらいに。



「魔女の里の人ってマリオネットさんやシアネさんみたいに、基本的に里の外に行かれている感じなんですか? 呪いを生業にして他の国で働くみたいな感じで」



 マリオネットはクロストリアの宮廷占い師だし、シアネさんは元々グリトニルにいて今はイリア達といるし、魔女の里の人達ってその能力を活かして出稼ぎでもしているんだろうか?



「私やマリオネットみたいなのは滅多にいないわ。そもそも魔女の里はどの国とも交流がないし、里そのものが秘匿されているの。里を出た私やマリオネットが異端児なだけ」



 シアネさんはそう答えてミステリアスに微笑んだ。そして



「好奇心旺盛なあなたに一つ私からも予言を授けるわ。この廊下の突き当たりの部屋へ行ってみなさい。面白いことになるかもしれないわ」



と廊下の先を指差し、突然私に予言を下す。本当に唐突だ。



「面白いことって何ですか?」


「行ってみればわかるわ」



 具体的な内容を訊いてみるが、シアネさんははぐらかす。



「行かなかったらどうなるんですか?」


「別にどうにもならないわ。行かなかった場合の未来が訪れるだけよ。……でも、あなたなら行くでしょう?」



 そう言ってシアネさんは私を見つめる。



 魔女様の言う通りだ。私にイリアを救ったという魔女様の予言をスルーすることなんてできない。実際にどんな面白いことが起こるのか気になって仕方がないし、それをこの目で確かめたい。


 それに現状、ローライナ城を徘徊したりシアちゃんにつきまとったりする以外、何もできなくて退屈していたのだ。



「おっしゃる通りです。なので、今からその部屋に行ってみます。シアネさんの予言に従って。本当に面白いことがあるかどうか確かめてきます」


「ふふっ、そうすると良いわ」



 シアネさんはどこか満足げな笑みを浮かべた。



「じゃあ、早速行ってみるので失礼します。シアちゃんもここまで付き合ってくれてありがとう。つきまとったりしてごめんね」


「優愛ちゃん……」



 複雑そうな表情を浮かべたシアちゃんと妖艶な微笑みを絶やさないシアネさんを一瞥し、私は早速、シアネさんが指し示した部屋へと向かった。









 シアネさんが指し示した部屋は、これまで見てきた部屋と同様に何の変哲もない客室だった。この城で一番多い形式の部屋。


 シアちゃんと朝食を取る前にも一度来ていた部屋の一つだったから、別にそのことに驚きはしない。



「特にめぼしい物も他の部屋と同じくなかったところなんだけどな」



 私は念のため、再度部屋の中を探索する。



 その時だった。



 突然部屋の中が光った。眩い閃光が部屋を満たす。


 私は思わず目を瞑った。



「勇者様!」



 けれども耳に飛び込んできた声にすぐさま目を見開く。


 突然第三者の声が響き渡ったっていうのもあるけれど、その声に聞き覚えがあったから。そして視界に映った黒い短髪の真面目そうな顔つきの少年がよく見知った顔だったから。



(そう)君!?」



 私は声を上げつつその名前を呼ぶ。突如この部屋に現れた少年は、格好こそ防具を身につけ腰に剣を差しており剣士といった風情だけれども、幼なじみの蒼君そのものだった。



「俺は蒼ではなくサリアーク・シーソードと申します、勇者様」



 しかし蒼君と瓜二つの少年は、生真面目な表情で青い瞳を私に真っ直ぐ向け、そう告げた。












 

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