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幼馴染に似た剣士

「サリアーク……。それがあなたの名前なの? 蒼君じゃなくて?」


「勇者様がどなたと勘違いされているかは存じませんが、俺は蒼ではなく、サリアークと申します」



 真面目な面持ちを崩さずに、彼はそう言った。容姿だけでなく、一切おどけないところも含めて蒼君そのものなのだが、彼は私の幼なじみである青木蒼(あおきそう)ではなく、別人のようだ。



「そんなことよりも、勇者様がご無事で良かったです」



 そんな言葉を口にするサリアークと名乗る彼は心底安堵したかのようだった。



「ねえ、私は優愛。姫路優愛。だからその勇者様っていうの、やめない?」


「優愛様がご無事で良かったです」


「様もやめない? 同い年でしょ。優愛で良いよ」



 目の前の彼の年齢はわからないけれど、蒼君と寸分違わないからきっと私と同じ十七歳だ。



「ですが……」


「私もあなたのこと、サリア君って呼ぶから。お願い」



 渋る彼に私は頼み込む。蒼君似の彼に様付けで呼ばれるのは何だか気持ち悪かった。



「わかりました。ですが、それならば俺のことも呼び捨てで構いませんよ。皆はサリアという愛称で俺のことを呼びます」



 敬語で話されることにも違和感ありありだったが、そこはまあ良しとしよう。



「『サリア』か……。あのね、君と瓜二つの知り合いがいるんだけど、私、その知り合いのこと蒼君って呼んでるの。だから、君のこともサリア君で良い……?」



 自分は相手に呼び捨てを要求しておいてなんだけど、蒼君似の彼を呼び捨てできる気がなぜかしなかった。



「別に構いませんが……。それよりも、ここから脱出しましょう。俺は予言の勇者であるあなたを奪還するためにここに来たんです」



 そう言うなりサリア君は腰に下げていた小袋からビー玉のようなにまん丸なターコイズ色の石を一つ取り出す。そしてその石を地面に叩きつける。



「……携帯式魔法陣が使えないだと!?」


 当然のように跳ね返り部屋の何処かへと転がっていった石を見てサリア君は驚愕していた。



「携帯式魔方陣ってことは本来はその石を地面に叩きつけたら、移動の魔方陣が出てきたってこと?」



 動揺しているサリア君に私は訊く。



「そうです。あの魔石には魔法陣がエンチャントされていたんです。ただ、移動の魔方陣と違って術式が不安定なので、発動には魔術師の協力が必須となりますが。俺と優愛の移動を補助してくれる手筈になっていたシルフートという魔術師とも連絡が取れない……。この部屋またはこの城には魔術封じが施されている可能性が高いです」



「連絡が取れないって、何で連絡を取ってるの?」



 どんどん眉間に皺を寄せ、表情を険しくしていくサリア君に私は尋ねる。サリア君が通信機のようなものを使ったりだとかしている素振りはなかったから、どうして連絡が取れないってことがわかるのか不思議だった。



「このピアスです。魔力を使うことで離れたところにいる人間と通信が取れるピアス型のマジックアイテムなんです。このピアスを通じて魔力を線のように伸ばして、お互いのその線を繋ぐことによって思念のみでやり取りができるんです。もっとも、俺みたいなあまり魔力のない人間は遠くまで魔力の線を伸ばすことができないので、魔術師側にその分を補ってもらってばかりですが……」



 サリア君が髪をかき上げ、よく見せてくれた彼の耳に付いたピアスは、イリアがしていた物と同じ形状をしていた。


 もしや、クロストリアに行った時もイリアはずっとリアムさんと連絡を取っていたんだろうか? そして、クロストリアからローライナ城に戻る際に、イリアも何かを地面に投げつけていた。きっとサリア君達と同じように連携を取って携帯式魔法陣を発動させていたのだろう。



「ここから脱出して、どこに向かうの? というか今の状況ってもしかしてかなりマズい?」


「俺の――クロストリアの仲間の元にお連れする手筈でした。あとおっしゃる通り、かなりマズい状況です」



 律儀に私の問いに答えると、サリア君は思案するかのように押し黙る。


 ローライナ城は空に浮かんでいる。携帯式魔法陣が使えないとなると、ここからの脱出は絶望的なのだろう。空に浮かんでいるお城ってこういうところが厄介だ。



「……魔術が使えそうな場所に心当たりはありませんか?」


「確か、城の外に移動の魔法陣があるって聞いた。でもこの城の外に繋がってそうな扉は鍵は掛かってなさそうだったのにビクともしなかった」


「それならば、その魔法陣の場所には行けないようにされているんだと思います。誰か、この城を魔術的に管理している魔術師がいるんだと思われます。あと、移動先を辿られるリスクがあるので、どのみち使用は難しいでしょう……」



 サリア君はまた考え込む。



 魔術が使えそうな場所……。



 私も心当たりがないかどうか記憶を探る。



「謁見の間……」



 思い当たった場所の名を私は口にする。



「私が召喚されたのもそこだし、あそこからクロストリアにも行ったし、きっと謁見の間なら魔術が使えるはずだよ!」


「謁見の間ですか……。なら、そこに行ってみましょう」



 興奮気味に告げる私に気圧されながら、サリア君はそう言った。その様子にちょっと有頂天になり過ぎたかもしれないと内心反省する。



「謁見の間までの道っておわかりになりますか?」



 そっと部屋の扉を開け、二人で廊下に出るとサリア君は尋ねる。第三者が現れることを警戒しているのか、その手は腰に差している剣の鍔に掛けられていた。



「ここから少し歩いた先にある階段を下って進んだ先にあると思う。とりあえず、階段を下るのは確か」



 私はそうサリア君に言う。まだ正確に道は覚えていないけれど、シアちゃんやイリアに連れられてあてがわれた自室と往復しているから、たぶん行けばわかるだろう。


 私とサリア君は足早に、けれども慎重に謁見の間を目指して進む。サリア君は相変わらず通信が取れないのか、渋面のままだった。


 途中、誰とも鉢合わせることなく、拍子抜けするくらいあっさりと謁見の間の扉の前まで辿り着いた。



「この先が謁見の間だったはずだよ。何の問題もなく辿り着くことができて良かったね」


「……この先に人の気配を感じます。おそらく、俺達がここに来るしかないってことをわかっていたんじゃないかと」



 明るい口調で言った私とは対照的に緊張感すら滲ませながらサリア君はそう告げた。



「えっ、そうなの!? じゃあ、引き返さないと!」


「他に心当たりもない上にもう……手遅れです」



 サリア君は私を制し、後ろに下がらせる。



 謁見の間の扉が開いた。私が開けた訳ではなく、ましてやサリア君が開いた訳でもない。



「勘が鋭いな。出会い頭に斬ろうと思っていたんだがな」



 扉を開いたのは、そして謁見の間に続く扉の先にいたのは不敵な笑みを浮かべながら背負っている大剣に手を掛けるイリアだった。










「よくこの城に来れたな。俺がクロストリアで発動した魔法陣の痕跡から特定したのか?」


「……」



 イリアに問い掛けられるがサリア君は何も答えない。



「一応移動痕はうやむやにしておいたんだがな。なかなか優秀な魔術師がいたもんだ」



 そう口にしながらイリアは私達の方に近づいてくる。私達はそんなイリアと対照的に後ずさる。



「優愛をクロストリアに連れて行くつもりか?」


「お前に答える義務はない。反逆者め」



 サリア君はイリアを睨みつける。すると、イリアは今度は私に目線を寄越す。



「優愛は俺といるよりも、こいつについていくことを選ぶのか?」


「イリアはこのまま私をこの城に花嫁にとか言いつつ軟禁する気満々だし、本来私を勇者として呼んだ人達の話も聞いてみたいの。そして本来私は何をすべきなのかも」



 私もイリアをまっすぐ見つめつつ答える。



「そうか。なら、侵入者を始末して無理矢理止めるしかなさそうだな」



 仕方がないといった風情でイリアが言った次の瞬間、剣と剣が交わる音が響いた。


 サリア君が腰の剣を引き抜き、イリアの大剣と刃を交えていた。


 一瞬のことだった。正直、私にはイリアが大剣を振りかぶる瞬間が見えなかった。


 サリア君はイリアの大剣を自身の剣で受け止めているものの、押され気味である。


 重量とパワーだけで考えれば、大剣を振るうイリアよりも腰に差せる程度の長さであるショートソードを扱うサリア君の方が不利だ。



「優愛。謁見の間に入れ!」



 突然サリア君が叫んだ。私はほぼ反射的に謁見の間の中へと走り出す。


 横目でサリア君を見遣ると、彼はイリアの大剣を押し返すとそのままその懐に飛び込む。イリアはそのまま斬りつけられることを考慮したのか、彼から距離を取るべく飛び退く。その隙にサリア君は飛び込んだ勢いを殺さずに謁見の間に滑り込む。


 そして素早く剣を腰に納めると、同じく謁見の間に入り込んだ私の手を引き中へと進む。

 サリア君はもう片方の手で腰の小袋から携帯式魔法陣であるターコイズ色の魔石を取り出す。そして腕を振りかぶり、魔石を地面に叩きつけようとする。



「サリア君! そこは駄目!!」



 私は咄嗟に彼の腕を強く引く。私達が今いる位置は私が召喚された場所であり、イリアとクロストリアに行く際にも立った場所。つまりはリアムさんが特定の魔術を行使する時のみ出現する魔法陣がある。


 私はサリア君の腕を引っ張り、倒れ込むことで何とかその魔法陣の脇まで移動する。


 次の瞬間、さっきまで私達がいた場所も含む形で魔法陣が現れ、赤黒い閃光が迸った。


 何となく痛そうな、動けなくさせられそうなそんな感じの魔術のような気がする。あれに当たらなくて良かった。


 そんな風にホッとするのもつかの間、視線を感じた。


 視線を動かせば玉座の手前辺りにリアムさんがいる。何か唱えているのかその口は動いていたけれど、その声は小さく、何と言っているかはわからない。


 でも直感的にヤバいと思った。



「サリア君、ここなら大丈夫だと思う。早く魔法陣を発動して!」



 私は叫ぶ。



「わかった!」



 サリア君は頷くと共にターコイズ色の魔石を地面に叩きつけた。次の瞬間、足下に現れた移動の魔法陣が発光し、私達は眩い光の中に包まれた。










 

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