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魔術適性を確認してみる

「リアムさんって、魔術師なだけじゃなくてネクロマンサーなの?」



 あてがわれた自室のテーブルに着き、朝食を一緒に摂りながら私はシアちゃんに訊く。



「はい。魔術師でもありますが、本職はネクロマンサーなんです。もしかして、死体を操っているところを見て引いてしまいましたか?」


「引くっていうか、どっちかって言うとびっくりしたけど。そもそも死体自体、ほとんど見たことなかったし。でも、遠目だったら死体だってわからないくらい綺麗に管理されているんだなって思った。それにみんな、リアムさんと髪の色とか雰囲気がちょっと似てた」



 バターロールを頬張りつつ、私はリアムさんが操っていた人達のことを思い返す。どの人も白金の髪をしていて、リアムさんと同じような型のローブを着ていた。



「リアムさんから死体の人達のことは何か聞かれましたか?」


「何も。死体の人達のメンテナンスはリアムさんがされているのかとか訊いてみたけど、何も答えてくれなかった。シアちゃんは何か知っているの?」



 私は訊き返す。リアムさんの魔術の弟子であるらしいシアちゃんだったら、彼について詳しいかもしれない。



「優愛ちゃんのおっしゃる通りリアムさんは日々あの人達をメンテナンスされているんです。あの人達はリアムさんの同胞なんです。リアムさんの一族であるナール族には『死してなお生者に寄り添え』という教えがあるんですよ。ナール族の人々はお亡くなりになったら他の同族にその肉体を提供するんです。そして提供を受けた人々はその死体を操ることによって日々の生活に役立て、それによって死者と寄り添ってきたんだそうです」


「そのナール族っていう一族の独特な文化なんだね。『死してなお生者に寄り添え』か。死んでもまだ生きている同族の人達のために尽くして、生きている人達も亡くなったその肉体を大切にしているんだね。正直ぞわってなったりもしたけど、そう考えると素敵なことのように思えるよ」


「優愛ちゃんは変わってますね」



 率直な思いを伝えたつもりだったけど、なぜか微笑みながらそう言うシアちゃん。



「そうかもね。他人とちょっとズレちゃったりは確かにするから」



 ちょいちょい自分の感性が他人とズレている自覚はあったので、それなりに空気を読んだり、人によって距離の取り方には気をつけてたりする。



「あっ、別に悪い意味で言ったつもりじゃありません。むしろ良い意味でです。リアムさんも喜んで下さると思います」


「ありがとう」



 リアムさんが喜ぶ姿は想像できなかったけど、褒めてくれたシアちゃんに礼を告げる。


 シアちゃんと談笑しながら朝食を取り終え食器類が下げられると、グラス一杯の水が運ばれてきた。


 別にお酒を飲んだ後でも(そもそも未成年だから飲めないんだけど)服薬する訳でもないのに、なんで水が出されたんだろう?



「優愛ちゃん。今から魔術適性を確認しましょう」



 首を傾げていた私にシアちゃんはそう言いつつ、懐からハイビスカスのように濃いピンク色の液体が入った小瓶を取り出す。そしてその蓋を開け、私とシアちゃんの前に出されたグラスの中へと注ぐ。グラスの中の水の色が一気にピンク色に染まった。



「どうやって確認するの?」



 いよいよかと私は居住まいを正す。



「まず、目の前にあるグラスを両手で包み込むようにして下さい」



 シアちゃんはテーブルに手の側面を付け、自分の前に置かれたピンク色に染まった水の入ったグラスを包み込むように指を折り曲げた。グラスを包み込むには長さが少し余る指はもう片方の指に重ねていた。



「こんな感じ?」



 シアちゃんに習って私も同じようにグラスを手で包み込む。



「はい、大丈夫です。そうしましたら、今から言う呪文を唱えて下さい。『我が内に秘めし力よ、我が触れし物にその力を伝え給え』」


「『我が内に秘めし力よ、我が触れし物にその力を伝え給え』」



 忘れないようにシアちゃんのすぐ後に続けて私も呪文だという言葉を唱える。


 するとシアちゃんが握っているグラスの中の水の色が透明になった。まるで浄化されるかのようにピンク色に染まった水が元の自然な色に戻ったのだ。



「すごい……。シアちゃんのグラスの水が元の色に戻ってる……」



 対して私のグラスはというと……。



「これってもしかして水の色が元に戻らないと駄目な感じ?」



 全く変化のない自分のグラスを見つつ私は訊く。



「そういう訳ではないです。魔力には属性のようなものがあって、魔力って一口で言っても人によってその力の性質は違うんです。私の魔力は癒やし系なので水の色が元に戻るんです」


「そうなんだ。でもやっぱり、何の変化もないっていうのは……」


「残念ながらそもそも魔力がないってことになりますね……」



 意外そうに目を丸くしながらも申し訳なさそうにシアちゃんは言った。



「だよね……」



 私は落胆しつつグラスから手を離す。


 秘めたる常人を遙かに凌駕する魔力で無双して万事解決! 的な展開をワンチャン期待してたけど、今までの流れからしてやっぱり無理か……。というかここまで何の能力もないと、本当に私が勇者で良いのかな? って気分になってくる。予言、間違えてない?



「魔力がある場合って、他にどんな感じの変化が起こるの?」



 落胆してばかりもいられないので、私は純粋に疑問に思ったことを訊く。



「そうですね……。風系の場合は水の表面が波立ちますし、光系の場合は水が発光しますし、炎系の場合は水が熱しられてお湯になったりします。そんな感じで、その人の魔力の性質によって水に起こる変化は違うので、まず水に変化が起こるか否かで魔力の有無を確認して、生じた変化によって有無と魔力の属性を見極めていくみたいな感じになります」


「魔力の性質によって何か変わったりするの? 使える魔法が変わるとか」


「一般言語の範囲でしたら、確かに属性によって使える魔術が変わったりします」



 魔法と魔術には明確な区別があるようだ。



「魔術言語だったらどんな属性の魔術でも使えるの?」


「魔術言語では魔力の属性をその魔術に合った性質に変換することが可能なんです。だから、自分の魔力の属性と違う性質の魔力が必要な魔術でも、変換することさえできれば行使することは可能になるんです」


「……」


「例えば魔術で明かりとして光の玉を作り出すとします。光の玉を作り出すには魔力を光属性にし、それを呪文によって具現化する必要があります。イリアみたいに魔力の性質が光属性の場合は、その力をそのまま呪文で玉として具現化すれば良いんですけど、私のように癒やし系だとか違う属性の場合はまず、魔力を光属性に変換する必要があるんです。そして、玉として具現化するプロセスの呪文は一般言語でも魔術言語でも可能ですが、魔力を他の性質に変換するのは魔術言語でしかできないんです。つまり、光属性の魔力を持つイリアは光の玉を一般言語の呪文で作り出せますが、私は魔力が光属性ではないので一般言語のみでは作り出せないのです」



 理解が追いついていない私にシアちゃんが説明をしてくれる。どうやら魔術はその魔術を発動させる呪文を唱えればいいのではなく、まずその魔術を発動させるための属性に魔力を変換させる必要があるようだ。そして、属性を変換することができるのは独特な言語で発音等も難しい魔術言語のみという訳だ。でも、発動させたい魔術と自分の魔力の属性が一致していれば、その魔術を発動する呪文のみを唱えれば行使可能なのだ。



「ということは、基本的に自分の魔力の性質と合致した属性の魔術の方が扱いやすいってこと?」


「そういうことになります。そもそも魔力を他の属性に変換するのはワード数も多くて呪文を唱えるだけで時間がかなり掛かってしまうんです。だから、魔術言語が使える魔術師であっても基本的には自分の属性と同じ性質の魔術のみを行使する場合が多いです」


「そうなんだ」



 ということは実質、イリアみたいに魔力がある人でも魔術師でも使える魔術はその人の属性のみになるのか。



「シアちゃんやリアムさんは杖を持ってるけど、杖って魔術が使いやすかったり、高度な魔術を使うのに必要なアイテムだったりするの?」



 イリアは持っていなかったけれど、魔術師であるというシアちゃんとリアムさんは形状は全く違うものの、大きな杖を持ち歩いている。



 この世界の場合、杖は一体どんな役割を持っているんだろう?



「魔術は自身の魔力を力の源とし、その魔術を体現するための道筋を呪文を唱えることによって構築し行使するんですけど、呪文の系統によっては道筋を構築していく過程で唱えなければならないワードが一部被ることが多いんです。だから、杖にはそんな、自分の使う魔術で構築していくことの多いワードを定義しておくんです。そうすることで、例えば自分が使うことの多い魔術で必ず普通に唱えると三分ぐらい掛かるワードがあるとすると、杖にそれを定義しておけば、その分を省略することができるんです。魔術の一番の欠点は高度なもの程、呪文を唱えるのに時間が掛かることなので。呪文詠唱の時間短縮のために私達魔術師は杖を持ち歩いているんです」


「呪文詠唱の時間短縮のためか……。シアちゃんの杖には癒やし系の魔術を使うためのワードが定義されているの?」



 シアちゃんの杖はヒーラーというよりかは金属製の槍みたいな形状で、攻撃的なフォルムをしているけれども。



「自分の魔力属性と同じ魔術のワードを定義しておく人が多いんですけど、私は違うんです。私の杖には私の魔力を氷属性に変換するワードと、それに関する魔術のワードをいくつか設定しています」


「シアちゃんは違う属性の魔術を使うために杖を持っているんだね。でも、癒やし系ってことは怪我とかを治せたりするんでしょう。癒やし系の魔術だけ極めればそれで十分なんじゃないかって私は思うんだけど、違う属性の魔術も必要なの?」


「癒やし系の魔術ではできないことがあるので、それをするためです。私は少しでもイリアのお役に立ちたいので」



 シアちゃんはそう答えた。


 癒やし系の魔術じゃできないことをするって一体何をしているんだろう? なんて疑問が脳裏をよぎってふと気づく。礼儀正しくて愛想も良い可愛らしい姿のお陰で忘れてしまいがちになるけど、シアちゃんもイリアと同じく反逆者サイド――悪役ポジションだ。もしかしたら後ろ暗いことをするためなのかもしれない。


 シアちゃんはきっとイリアのことを恩人以上に好きなのだろう。



 この子はきっとイリアのためだったら何でもするんだろうな。



 淀みなく告げた彼女の澄んだ瞳を見て私は思った。












 

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