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私を召喚した人

 上質な絨毯が敷かれた廊下。壁紙がきちんと貼られた壁はクリーム色をしており、客室や使用人部屋と思われる場所とか様々な部屋へと通じる扉がたくさんある。


 私はローライナ城内を探索していた。


 イリアから全てを明かされ花嫁にすると宣言された後、自由になった私は、寝泊まりにあてがわれた部屋からスタートして、城の中をあちこち見て回っていた。城の中は当然ながら広く、その日は結局、自分の部屋と、同じ階にある他の部屋ぐらいしか探索できなかったし、色々あって疲れていたため、ちょうど戻ってきていた時に自室に運ばれていた夕食を取った後(イリアやシアちゃんは現れずに使用人と思われる人達が配膳しに来て、私が食べ終わった後に食器類を下げていった)、早々に寝てしまった。


 我ながら悠長だなとも思ったけど、肉体の疲労には勝てなかったのだ。


 そして今は異世界に来てから三日目の早朝となる。日の出と共に城内の探索を再開した。

 イリアが私を野放しにしているってことは、きっとこの城から逃亡できる術は何もないってことなんだろうけど、だからといっておとなしく花嫁になる時を待っているなんてできなかった。美海ちゃん辺りだったらむしろ率先してイリアの花嫁になりたがるだろうけど、私は恋愛的な意味で好きでもない人と結婚する気はない。


 イリアのことは嫌いじゃないし、人柄も顔も良いと思う。おまけに背も高いしその身体は鍛え上げられている。異性として申し分ないっていうか非の打ち所がない。というか理想的といってもいい。逆に彼の相手が私だと釣り合いが取れないんじゃないかって思うレベルではあるんだけど。


 見掛けた扉を片っ端から開き、その部屋の中をRPGよろしく調べながら私は下の階へと降りていく。どの部屋にもめぼしいものは特になかったけど。


 ちなみに下に向かっている理由は使える使えないはともかく、とりあえずシアちゃんが言っていた、城外にあるという移動の魔法陣を見に行きたいからだ。それと純粋に城の周囲がどのようになっているのか興味があった。


 踊り場のような場所に出て、さらにその中央から下に伸びた階段を降りると吹き抜けになったエントランスへと出た。周囲を見渡せばローライナ城の正面入口と思われる大きな扉があった。


 私はその扉へと駆け寄り、開けようとする。しかし扉は押しても引いてもびくともしなかった。鍵が掛かっている時のような錠が引っ掛かるような感じじゃなくて文字通り、びくともしないのだ。一ミリも動く感触がしなかった。


 いくらこの城が空に浮いているとはいえ、やっぱり城の外には出してもらえないか。


 あくまで私が自由にしていいのは城内限定ってことか。



 これってもしや軟禁ってやつ?



 仕方なく、私は振り返り、もう一度周囲を見渡す。



 他に探索できそうな場所はないかな?



 キョロキョロと辺りを見渡していると正面入口だけでなく、エントランスの左右にも扉があることに気づく。


 どこに繋がってるのかな? なんて考えつつ私はまず右の扉に近づく。そして開けようとする。


 またしても扉は押しても引いてもびくともしなかった。本当に全く動かないのだ。



 ここも駄目か。



 私は次に左の扉の前へ行く。そして、そちらも駄目元で開けようとする。



「!」



 引いたらその扉は普通に開いた。


 扉の先は左右が壁の通路になっていた。その通路の先にはまたしても扉がある。


 他の棟へ繋がる廊下なのかもしれない。RPGファンタジーとかの西洋のお城って一棟だけでなく、確か何棟にも分かれていたりするし。


 私は通路へと足を踏み出す。そしてあっという間にその先にあった扉へと辿り着くと、その取っ手に手を掛ける。


 その扉もまた問題なく開くと、その先は階段の踊り場だった。地下へ続くと思われる下り階段と、上階へと続く登り階段がある。



 どっちに行こうかな?



 少しだけ逡巡した後、私は階段を下ることにした。地下にはまだ降りたことがない。


 階段を下った先にはまたしても扉があったから私はその取っ手に手を掛け引く。


 扉は私の方に引き寄せられ、ここまでの道のりのものと同様に開き、その先の光景が見えた。


 扉の向こうは広間になっていた。私が召喚された謁見の間くらいか、それ以上に広かった。そしてその広間には黒い棺桶がたくさん鎮座していた。上蓋の部分には十字架の文様が入っており、RPGで見掛ける棺桶そのものだった。


 そんな棺桶がたくさんある広間の中心には、先端に髑髏の付いた杖を持った、黒い悪の魔術師っぽいローブ姿をしている白金の長い髪の男――リアムさんがいた。


 リアムさんは何事か呪文を唱えており、やがて手に持った杖を上に向かって掲げた。

 すると、広間にたくさんある棺桶の蓋がひとりでに開き、その中から人が次々と起き上がった。


 その人達は、色はバラバラなものの、リアムさんと同じような型のローブを着ていた。そして老若男女様々だが、皆、リアムさんと同じような白金の髪をしている。


 人々は起き上がると全員、一様にリアムさんの方へと身体を傾ける。まるで操られているかのように。



 この人達、生きていない……?



 生理的嫌悪とでもいうのか。その人達を見て私はそんな感覚を覚える。


 なぜならどの人も目は虚ろで濁っており、その肌はゾッとするぐらい青白いかったのだ。リアムさんも顔色は悪く蒼白だが、その比じゃなかった。血が通っているようにはまるで見えなかった。そして彼等の一つ一つの動作はまるで操り人形のようで、動いているというより動かされているような感じだった。


 でも、ゾンビと呼ぶには身なりが整っていた。ざっと見た感じ、どこも欠損したり爛れたりしていないし、ローブも綺麗だった。



「誰だ!?」



 杖を床に降ろしたリアムさんが私の視線に気づき、誰何する。



「……おはようございます、リアムさん。優愛です」



 リアムさんの剣幕に圧倒されながらも私はとりあえず挨拶しながら広間の中へと入り、名乗る。



「貴様、どうやってここに来た?」



 驚愕そのものといった表情を浮かべるリアムさん。……貴様呼ばわりされた。私、ちゃんと名乗ったんだけどな。



「城の中を探索してて、色々な扉を適当に開けて歩いてきたらここに着きました」


「扉は開いたのか?」


「開かない扉もありましたけど、ここへ通じる扉は普通に開きました」


「……」



 リアムさんは眉間に皺を寄せ沈黙する。もしやここも本来、私が辿り着けるような場所じゃなかったのかな?



「……」



 その後、少しして何か思い当たる節があったのか、リアムさんは一人合点がいったように渋面をわずかに緩めた。しかし、私へ向けられた睨みつけるかのような目つきは変わらない。 



「あの、この人達って生きていませんよね? リアムさんが操って動かしているんですか?」



 リアムさんから言葉が発せられることがないため、私は会話の糸口としてとりあえず気になったことを訊く。



「……そうだが。気持ち悪いか?」



 リアムさんの瞳に剣呑な光が宿る。周囲の人々も一様に私の方を向いた。

 ずっとリアムさんのこともシアちゃんと同じく魔術師だと思っていたけど、この人は死体を操る死霊術士(ネクロマンサー)なんだ。



「気持ち悪いか否かって訊かれて気持ち悪くないって答えたら嘘になりますけど、その人達、身なりもきちんとしていますし、欠損してたりもしてないですから丁寧に大切に扱われているんだなって思います。リアムさんがきちんと管理というかメンテナンスされているんですか?」



 本来動くはずのない、とっくの昔に事切れた空っぽの人々が起き上がり、動く様には嫌悪感を覚えずにはいられない。これはあってはならない不自然な状態だと本能的に察知しているのかもしれない。あと、死臭とでもいうんだろうか? 肉が腐ったような不快で陰鬱な臭いが少しする。それがより生理的嫌悪感を煽る。


 けど、ゾンビ物のゾンビのように腐敗し皮膚が爛れているだとか、身体の一部が欠損しているだとか、衣服がボロボロだとかそういった風体にはなっていなかった。


 定期的に替えられているであろう小綺麗なローブ。死に化粧が施された人並みに整った肌は腐敗による崩れとは無縁のように見えた。そしてどの人も五体満足で遠目だったら、生きている人間ときっと変わらない。


 死体であるこの人々はとても大切に扱われていると認識するには十分だった。



「……お前はこの者達を見ても動じないのだな。異世界ではこのような死霊術(ネクロマンシー)は普通なのか?」


「私のいた世界にはネクロマンシーなんてありませんし、動じてないわけでもないですけど、この人達は大切にされているなって、誰かがきちんと良い状態に保っているんだろうなって思っただけです」


「そうか」



 私の質問には答えてくれないのか。まあ、リアムさんがこの人達のメンテナンスをしているんだろうけど。



 というかこの人、私と会話する気があんまりないのかな?



 何気に三日目にして初めて会話してるわけだけど。なんか敵意というかあんまり快く思われていないような気がする。


 現に会話もあまり続かない。私はもっとリアムさんのことも知りたいんだけどな。



「リアムさん、朝食、どうされますか? 今日もここにお持ちしますか?」



 どうしたものかと考えあぐねていたその時、広間に可愛らしい声が響いた。声の方へ振り返ればそこにはピンク色のローブの愛らしい姿が。



「シアちゃん!?」


「優愛ちゃん、ここにいらっしゃったんですね。今日も朝食をご一緒したいなって思っていたんですけど、どこにもいらっしゃらなかったので、少し心配していました。リアムさんとお話しされていたんですか?」



 にっこりと満面の笑みをその顔に浮かべながらシアちゃんは私とリアムさんを交互に見つめる。



「うん。城の中を見て回っていたら、ここに辿り着いて、リアムさんがいたから少しね」


「シンシア、朝食はいつも通り頼む」



 私のシアちゃんに対する返答をがっつり無視してリアムさんは淡々と言う。私とのことについてのリアクションはなしですか!? めっちゃ私のことをスルーしてシアちゃんと話しますね、リアムさん。



「わかりました、こちらにお持ちしますね。ただ、ここには私以外料理を持ってくることができる人がいないんですから、たまには食堂までいらして下さいよ。私が運べる品数には限りがありますし、冷めてしまいますので」


「私はお前が運んできてくれる物で満足している。食にこだわりはない」


「またそんなことをおっしゃって……。私はリアムさんにも健康に気遣って欲しいと思ってるんですよ。だからたまには食堂までいらして下さいよ」


「考えておく」


「本当に考えておいて下さいよ」



 シアちゃん、甲斐甲斐しくリアムさんの世話を焼いているな。



「優愛ちゃん」



 なんだか微笑ましくなりながら、シアちゃんとリアムさんのやり取りを静観していると声を掛けられた。



「何?」


「優愛ちゃんも朝食はまだですよね? 私とご一緒してくれませんか? あと、朝食後で良いんですけど、魔術適性があるかどうか確認してみませんか?」


「魔術適性?」



 超気になるワードに私は思わず訊き返してしまう。



「はい。魔術を使うために必要な魔力があるかどうかを確認するんです」


「確認する方法なんてあるんだ。確かめてみたい!」



 魔術適性とやらを調べた結果、ワンチャン、ものすごい魔力のキャパシティがあることが判明してチート展開! なんてこともあるかもしれない。そこまで都合が良くなくても私は一応予言によって呼び出された勇者な訳だし、何かしらの能力が目覚めて現状を打破できるかもしれない。



「じゃあ私と共に参りましょう!」



 シアちゃんは可愛らしい笑顔でそう言うと、私の手を取った。そしてそのまま意気揚々と歩き出した。

 











 

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