ハズレスキル
鑑定が終わったあと。
吉岡先生が俺たちを集めた。
国王側の人間はいない。
「明日から基礎訓練をするそうだ」
先生は全員を見る。
「これは戦争に参加するための訓練じゃない。少なくとも俺はそう認識してる」
佐々木が聞く。
「やらなくてもいいんですか」
「王国側には確認した。基礎訓練は希望制だ」
「先生は?」
「受けた方がいいと思ってる」
「どっちなんですか」
「帰るまで何日掛かるか分からない」
誰も言葉を挟まない。
「この世界に魔物がいるのも聞いた。最低限、自分の身を守れるようにはなった方がいい」
「戦えってことじゃない?」
水瀬が聞いた。
「違う」
吉岡先生は即答した。
「その先は別の話だ」
橘が頷いた。
「俺はやります」
続いて何人かが手を上げた。
結局、ほとんどが参加することになった。
俺も。
何ができるか分からないからこそ、確かめたかった。
*
翌朝。
廊下で水瀬と会った。
制服の胸元に小さな本を抱えている。
「おはよう」
「おはよ」
「それ何?」
「治癒術の入門書。昨日、神官さんにもらった」
「もう読んでるの?」
「途中まで」
「真面目」
「寝られなかったから」
「ああ」
そこから先は聞かなかった。
「高瀬君は?」
「本すらない」
「え?」
「《共鳴士入門》はまだ出版されてないらしい」
「……そっか」
水瀬は何か言いかける。
結局。
「朝ご飯行こ」
「うん」
その方がよかった。
*
王城裏の訓練場。
吉岡先生も一緒にいた。
生徒がそれぞれ別の訓練区画へ連れていかれるたびに、担当者の名前を手帳へ書いている。
「先生、教師って大変ですね」
佐々木が言う。
「お前らが大人しくしてくれたらもう少し楽だよ」
「それは無理ですね」
「自覚あるなら直せ」
天職ごとに分かれる。
剣士系。
魔術系。
治癒・支援。
その他。
俺はその他。
「雑だな」
「高瀬悠斗殿ですね」
紺のローブを着た若い男がやってきた。
「フェルドと申します。あなたの担当を命じられました」
「《共鳴士》を知ってます?」
「いいえ」
「即答か」
「昨晩、王立図書館と魔術院の資料を確認しましたが、現行資料には記載がありませんでした」
「昨日より調べた範囲は増えたんですね」
「はい。成果はありませんが」
「そこまで言わなくても」
「古い時代の職名目録もありますが、欠損が多く、確認には時間が掛かります」
「古い方もお願いします」
「もちろんです」
フェルドは表情を変えずに頷いた。
「まず一般的な魔力操作から始めましょう」
それならやることはある。
隣では橘が木剣を振っていた。
昨日までとは速さが違う。
ただ本人は楽しそうではなかった。
休憩で近くへ来たとき、自分の腕を揉んでいる。
「どうした?」
「身体が勝手に先へ動く」
「いいじゃん」
「気持ち悪い」
「贅沢だな」
「そうかもな」
否定はしなかった。
「高瀬は?」
「胸の奥が温かい」
「魔力?」
「多分」
「進んでるじゃん」
「お前、励ますの下手だよな」
「励ましてない」
橘は水を飲みに行った。
昼を挟んで。
ようやく俺にも魔力らしきものを指先まで動かせるようになった。
地味だ。
それでもゼロではない。
水を取りに行く途中、治癒区画を通る。
「もう一度お願いします」
水瀬の声。
椅子に座った兵士の腕には、浅い切り傷。
「《ヒール》」
白い光。
消える。
傷は残ったまま。
「もう一回」
「水瀬さん」
神官が止める。
「まだ魔力はあります」
「そういう問題ではありません」
「じゃあ何ですか」
声が少し速い。
「術式、合ってるんですよね」
「はい」
「魔力も足りてる」
「はい」
「なら」
続かなかった。
吉岡先生も異変に気づいて近づいてくる。
「どうした?」
「水瀬さんの魔法が……」
神官が説明する。
水瀬は俯かなかった。
兵士の傷を見ている。
少し離れた場所で、如月の魔法が成功したらしい。
拍手が聞こえた。
水瀬はそちらを見なかった。
「もう一回」
「待った方がいいんじゃないか」
俺が口を挟む。
水瀬が振り向く。
「高瀬君」
「同じ方法だけ続けても」
「分かってる」
強い返事。
俺は続きが言えなくなった。
水瀬も何も言わない。
「……ごめん」
「いや」
神官が兵士の傷を治す。
一度で塞がった。
水瀬は入門書を閉じた。
乾いた音がする。




