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雪の精霊 ~命のきらめき~【PV62000突破☆感謝!】  作者: あるて
第3章 拝啓、未来のわたし

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第178曲 命のきらめき

 結局病院に行くのは予約の関係もあって、卒業後の五月に行くことが決まった。

 そうと決まれば後は卒業式の準備をするだけ。と言っても計画を練るだけなので、暇な時間はアルバイトをすることに。

 わたしの説得が功を奏して、週に二日だけバイトをすることを認めてもらえた。

 心配なのは分かるけど、どれだけ箱入りなのさ。


 そしてまた忙しい日々が戻ってくると、やりがいがあると共に時間が経つのも早くなる。

 気が付けば卒業式当日を迎えていた。




「卒業おめでとう」

「おめでとうございます」

「おめ」


 簡略化しすぎだよ、あか姉。ギャルか。

 より姉とかの姉もお祝いしてくれたのに、ひよりだけが黙って朝食を食べている。


 かの姉の時もあか姉の時もそうだったように、ひよりも寂しくて仕方がないんだろう。ましてひよりは最後に一人残されてしまうから余計に。


「わたしはずっと家にいるからさ。たまには学校にも遊びに行くよ」


 ひよりの頭を撫でつけながら、少しでも気持ちを紛らわせてくれる言葉を探す。


「うん、分かってるよ。もちろん寂しいのもあるけど、今日の卒業式をどうやってゆきちゃんに相応しい形で送り出してあげたらいいか考えてるの」


 どうやら余計な心配は不要だったみたい。

 いつも元気なひよりの目はもっと違う場所を見ていたようだ。


 一時的な寂しさに負けず、常に前を向いているひよりはひょっとしたら一番強い子なのかもしれない。もちろんわたしよりも。


「フフ。素敵な式で送り出してね」


 可愛い妹に見送ってもらえるなんてわたしは幸せ者だ。生徒会長になってくれてありがとう。


 かの姉やあか姉も同じ気持ちだったのかな。

 大切な家族に卒業式の送辞を読んでもらえるのって、なかなか経験できないことだよね。


 準備があるということでひよりは先に登校してしまった。他の姉たちは休みを取ってでも出席してくれるらしいので、今はまだ自宅にいる。お母さんは仕事先に顔だけを出して学校に来てくれるようだ。

 お父さんは立場上、職場を離れることはできないけれど朝におめでとうと言葉をかけてくれて、コサージュを胸につけてくれた。

 わたし、本当に愛されてるな。


「それじゃ、そろそろ行ってきます」


 卒業生は先に教室へ集合する必要があるので、父兄よりも先に登校する必要がある。式の開会は九時半だから、保護者は少し遅め。


「いってらっしゃ~い」

「緊張してこけるなよ」


 わたしがこけるわけないでしょ。

 まずもって舞台へ立つことに慣れてるんだから緊張ってのもありえない。答辞を描いた式辞用紙もしっかり内ポケットに入れてある。もうひとつのアイテムも。

 準備は万端だ。いざ本番へ!




 開式の辞から始まり、卒業生の入場。

 在校生や保護者は既に席についている。お母さんとより姉たちを見つけた。


 パンデミックが起きていたころは両親しか参加できなかったらしいけど、流行が収まってよかった。

 全員が席についたのを確認すると、次のアナウンスが厳かに流される。


『それでは国歌、校歌の斉唱をしますので、前生徒会長、広沢悠樹君は壇上へ』


 毎年のことだからいいものの、普通は前の生徒会長だからって壇上に上がって唄うとかしないよね。

 これは伝統にしちゃダメだよ。

 音痴な生徒会長だったらどうすんだ。


 それにしても一人壇上で国歌を唄うとか、スポーツの日本代表戦みたいだな。けっこう気分はいいけれど。

 問題なく唄い終えると、盛大な拍手をいただいた。中には立ち上がっている保護者、来賓も。スタンディングオベーションか。

 コンサートじゃないんだからやめてくださいって。


 拍手が鳴りやんでから学年主任が戸惑いがちに卒業証書授与の開始を告げる。この時間が一番長い。

 生徒一人ひとりの名前が読み上げられ、「本校の全過程を修了したことを証する」と証書を手渡される。ひとり目以降は以下同文。


 その後は校長の式辞だ。

 去年までは退屈で仕方のなかった校長先生のお話も、いざ自分がその立場に立ってみるとつい聞き入ってしまう。

 いかにもおじさんの説教、訓戒といった感じなので敬遠されがちだけど、ちゃんと聞いてみれば意外と役に立ちそうなことを言ってるもんだ。


 毎年やってるんだからネタも尽きそうなもんだけどなぁ。さすが教育のプロといったところか。

 次にマイクを握った来賓の式辞は祝いを述べるだけの当たり障りのないもの。


 ここからは送辞、答辞と続いて最後に別れの唄だ。普通ならね。



 あれだけ気丈に振舞っていたひよりだけど、卒業式という雰囲気にあてられたのか送辞を読みながら涙ぐんでしまう。

 そりゃそうだよね。たった一人で残されるんだもん、寂しくないわけがないんだよね。今朝は新生徒会長として気を張っていたんだろう。


『先輩方がゆき会長という、普通とは違う会長と共に作り上げていただいたこの学園の校風を、より良いものにして受け継いでいきます。今日まで多大なるご指導、ありがとうございました』


 目尻に涙を光らせながら頭を下げる。心のこもったいい送辞だったよ。

 でも全校生徒の前でゆき会長はないと思うんだけど。同じ広沢だから仕方ないのか。


 そしていよいよわたしが答辞を読む番がやってきた。

 校長先生から名前を呼ばれ、再び壇上へと登っていく。

 マイクの前に立ち、式辞用紙を取り出して広げる。そして卒業生たちの顔を見渡すと、その表情は期待に満ちていた。


 目は口ほどにものを言う。ちゃんと分かってるよ!


「素敵な送辞、ありがとうございました。今日、わたし達は卒業します。でもね!」


 そう言って手に持った式辞用紙をビリビリと音を立てて破り捨ててやった。

 生徒たちの間から歓声が上がる。先生たちもある程度は予想していたのか苦笑い。


「わたしが送辞を読む時点で平穏無事に済むはずがないよね! 先生方にも任命責任があるということで! というわけで!」


 わたしがサッと手を上げると照明が消され、カーテンも閉められて体育館は暗くなる。


「卒業式ジャック!」


 高らかな宣言と共にスポットライトが当てられ、音楽が流れ出す。もうひとつのアイテム、USBは事前に放送部へ渡してあった。

 それは新旧の生徒会を含めた卒業式の実行委員会、放送部などを巻き込んで行われた計画的犯行。


 まずは前哨戦、我々卒業生の船出を祝うため、わたしの記念曲『Go ahead!』でゆきちゃん流卒業式の開幕を告げる。


 そこには卒業生と在校生の垣根はなく、サビの部分はマイクを向けてのコール&レスポンス。わたしのダンスに合わせてサイリウムが振られ、会場はまさにコンサート会場。より姉たちも立ち上がってノリノリなので、つられて保護者席からも手拍子が起きる。


 やがて曲が鳴りやみ、静寂が訪れる。ここからが本当の送辞。


『まず三年間、わたしを生徒会長にしてくださったことに、お察しと感謝を申し上げます』


 先生たちもこんな卒業式をされてしまってはお察しという言葉に笑うしかない。生徒たちも大爆笑。


『そして卒業生達! 今日は本当におめでとう! わたし達はこれから社会という大海原に向けて漕ぎ出します。大学に進学する人もいれば、就職を選んだ人もいる。どちらにせよ、ここからは全て自己責任の世界。成人年齢が18歳に引き下げられ、成人式こそまだなものの社会的には成人として扱われるようになる』


 つい最近、成人年齢を20歳から18歳に引き下げる法改正が行われたばかりだ。


『社会に出て行く以上、これからは分かりませんや知りませんというのはいつまでも通用しない。そこには自主性というものが求められる』


 少年少女だったころとは違い、事件を起こせば実名報道されてしまうし、犯罪を犯せば少年院ではなく刑務所だ。全ては自己責任。親の庇護下からも抜けてしまう。契約や結婚も自分の意志で行うことが出来る。

 それはつまり全責任を自分で負うということ。


『本当の意味で自分の人生を切り開いていくのはこれからだよ。

 誰のせいでもない、不幸になるのも幸せを掴むのも自分次第。

 卒業というのはあくまでも節目のひとつで、その日から環境が劇的に変わるわけじゃない。全ては今日までやってきたことの延長線上にあるんだよ。

 人生というのは断続的な出来事の積み重ねじゃなく、全ては連続的につながった一本のロープのようなもの。途中でよれてしまったらその先もグダグダになっちゃうし、変な方向に向いたらそのまま伸びていく』


 人生というのはその時の選択の積み重ね。その選択でロープの行先が方向づけられてしまう。


『だけど人間は間違ってもやり直すことが出来る。

 どれだけ失敗しても、挫折しても、それを糧にすればもっと上を目指すことだってできる。だから目の前がどんなに暗くなっても、たとえ絶望的な状況に陥っても、決して諦めることだけはしないで!

 奇跡は簡単に起こるものじゃないけれど、諦めてしまっては可能性がゼロになってしまう。だけど1%だろうが99%だろうが、可能性が残っていれば奇跡が起きるかもしれない。

 奇跡は起きてしまえば必然になるんだよ!』


 歴史というのはそういうものだと思う。偉人というのは奇跡を必然に変えたから偉人なのだ。個人の歴史だって例外じゃない。


『わたしも一度は諦めそうになった。

 だけどそれではいけないと気づかせてくれる人がいたんだ。気が付いていないだけで、知らず知らず支え、励ましてくれる人がいる。

 そんな人たちのおかげでわたしは生きようという意思を取り戻すことが出来た。またみんなの前で唄いたいと思うことが出来たんだ』


 保護者席に座る家族へと視線を走らせる。

 みんなハンカチを握っているということは泣いているんだろうか。

 生徒会の席を見ればひよりも副会長になったサキちゃんに背中を撫でられていた。


『近すぎて見えにくいかもしれないけど、そんな人たちを見失わないで。

 あなたもあなたも、決して一人で生きているわけじゃない。人はいつも誰かに何かに支えられて生きてるんだ。

 そのことを感じ取れば、その想いに応えるためにも諦めるという選択肢をなくすことが出来るんだよ!

 未来の自分に顔向けできないような選択をしちゃいけない。

 拝啓未来のわたし、と胸を張って言えるよう、諦めず前に進み続けよう! 前にも言ったように立ち止まっても回り道でもいいから、その歩みを決して止めないで。

 みんなの命のきらめきを、わたしに見せて!』


 卒業生達から歓声が上がる。わたしの言いたいこと、伝わったのかな。


『そして在校生のみんな、そんなわたし達の生き様を見ていてください。この三年間、わたし達がしてきたことを思い出してみてください。見習うべきは見習い、見習ってはいけないところは反面教師にしてね』


 またしても笑い声。


『模倣するだけがいいことじゃない。武道も技術も、最初は模倣でもそれを工夫することによって発展してきた。この学校の校風も、受け継ぐことは受け継ぎながらもあなた達独自の色を出して、キャンパスに色鮮やかな風景を描くように手を加えていってください。組織というのは人間が集まって作り上げる作品なんだから』


 人がいるからこそ組織、学校というものが出来上がる。

 学校があるから人がいるんじゃない。けっこう勘違いしがちだけど、根底にあるのは人の存在。

 それをはき違えると学校は途端につまらないものになってしまう。


『青春という短い時間を目いっぱい楽しんで、輝き続けてください。わたし達の輝きこそが、後輩たちへ贈る最大の答辞です!』


 そこまで言った時点で再び音楽が流れ出す。

 今日のために作っていた新曲『Sparkle of Life』、命のきらめきだ。


 三年間の想いと未来への希望を全て乗せて歌い上げるその曲は、生徒のみならず保護者や先生方の心をも揺さぶり、わたしの答辞は涙と歓声に包まれた。

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