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雪の精霊 ~命のきらめき~【PV62000突破☆感謝!】  作者: あるて
第3章 拝啓、未来のわたし

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第176曲 神前にて

 学校も表面上は平穏を取り戻し、日常が戻ってきた。


 ネット上ではわたしの告白がニュースまとめにも掲載されて話題を呼び、登録者数が目標の1000万人を突破。

 これで名実ともに配信者のトップグループに躍り出たと胸を張って言える。宿願達成と言ってもいいんだけど、プレッシャーもある。

 

 脳の障害を発表したことで中には同情心で登録している人もいるだろう。それ自体は悪いことじゃないしわたしとしてもありがたい。

 でも負けられなくなったという気持ちもある。

 たくさんの人の心配と期待を背負って、わたしは自分の人生と向き合う必要があるということ。今までの後ろ向きな自分を捨て去り、前を向いて歩き続ける。


 もちろん愛する人たちと約束したことでもあり、全力を尽くすことに何の疑義もない。

 だけど、背に負う人数が多くなるほど思いは強くなってしまうので、力み過ぎないよう、空回ってしまわないように気をつけないといけない。

 

 ピンと張り詰めた糸は少しの衝撃で切れてしまう。以前のわたしはそんな状態だった。

 今回も人の期待で張り詰めてしまわないように、それを心地よいプレッシャーに変えて挑むことにしよう。



 そんな決意を固めて年末を迎えた。ある意味新年の抱負ができたようなものか。

 いつものごとく新調された振袖を身にまとい、たくさんの人に声をかけられながら社殿を目指す。写真撮影に応じてるから亀だけど。

 

 今年は赤い生地に松竹梅の吉祥文様。古典的なものだけど、おめでたい席にも着ていける模様であり、来年に向けて決意を固めたわたしのために選んでくれたもの。

 縁起のいいものを着せることで来年がより良い年になるようにとの願いが込められている。

 選んだのはより姉とお母さん。晴れ着に込められた想いを感じ、自然と背筋が伸びてしまう。


「なんだか今年のゆきちゃんは凛としてるね」


「そうですね。ドイツには『服は人を作る』ということわざもありますが、外見だけじゃなく内面も作ってしまうのかもしれません」

 

 そのことわざの意味には人の外見が第一印象だけじゃなく、その人の意識や自信、周囲の扱いさえも変える力を持つって意味が含まれてるんだよ。

 

 縁起だけでなく、わたしの心持ちの事まで考えてくれているんだから頭が上がらない。

 より姉には言わないけど。すぐ調子に乗るからね。

 

 周囲を取り囲む人いきれの中からどうにか抜け出し、四人と合流して本殿の前までたどり着くことが出来た。

 拝殿前で二礼二拍手一礼。

 お賽銭を投げ込み、鈴緒(すずお)を握って本坪鈴(ほんつぼすず)をガラガラと振り鳴らす。

 静かに手を合わせて目を閉じた。住所氏名年齢。そして願う。

 

『健康には気を付け、常に活力に溢れていられるよう全力を尽くしますので、どうかこの体を、障害を持ったこの脳を健康に保っていられる手助けをしてください。みんなと一緒にいられるよう、わたしの周囲の人たちが皆健やかに暮らせるよう力添えを』

 

 産まれて初めて祈った自分自身のための願い。

 長く願っていたせいか、後ろの人が少しいらだったような声を上げている。

 慌てて目を開き、横に並んだ姉妹たちを見るとまだ祈っている。その表情は真摯そのもの。

 何を祈っているのかなんて、聞くまでもないだろう。

 

 やがてみんなの目が開き、次の人へと譲るために横へと逸れる。


「みんなえらく長いことお願いしてたよな。何をそんなに熱心に祈ってたんだ?」


 より姉がそんなことを言っているけれど、自分はどうだって言うのさ。


「より姉と同じことだよ」

「わたしもです」

「右に同じ」


 三人は異口同音、くすくすと笑い合う。


「なんだよ、お前ら。そんなの当たり前だろ。そういうお前らだって必死にお願いしていたじゃないか」


「まぁまぁ。そんなことより、ゆきちゃんはどんなことをお願いしたのかな?」


 不満げなより姉をひよりが制し、矛先をわたしに持ってきた。


「いつも通りだよ。無病息災。みんなが健康に過ごせますようにって」


 わたしがそう言った途端、全員からジロリと睨まれた。もう、言いたいことは分かってるってば。


「そんな顔しなくても。ちゃんと自分のことも含めてお願いしてるってば。わたしだっていつまでも元気でみんなと一緒にいたいからね」


 笑顔でそう補足すると、みんなも表情を和らげた。


「それで。みんなは何をお願いしたのかな?」


 わたしばっかり聞かれては不公平だからみんなの願いも聞いておかないとね。

 予想はできるけど、どうせならみんなの口から聞いておきたい。


「聞かなくても知ってるくせに。もちろん、来年も再来年も、その先もずっとゆきちゃんとこうやって初詣に来られるようにとお願いしましたよ」

「あたしもだ」

「同じ」

「それ以外ないよね~」


 今度は四人、口を揃えて言ってくれた。面と向かってそう言われると少し照れくさいことが判明したけれど、心はとても温かい。


「みんなありがとう。愛してるよ」


 わたしにできる精いっぱいの笑顔で。

 こうやって自分の想いを何の抵抗もなく口にできるようになったのは、愛しいこの人たちのおかげ。


「公衆の面前でよく言えるよな。恥ずかしくないのかよ」


「わたしも愛してますよ!」

「愛してる」

「ゆきちゃん愛してるよー!」


 そう言って飛びついてくる三人と裏切られてしまった一人。めっちゃ面白いんだけど。


「あれ? より姉は恥ずかしいの~? それって本当にゆきちゃんのことを想ってるのかなぁ?」


 だからひよりは煽らないの。

 面白いから止めはしないけど。


「うぅぅ……そりゃあたしだって! あ……て……どさ……」


「聞こえない」


「まぁまぁ茜。依子さんの気持ちなんてその程度って言うことですよ」


 みんなして煽るなぁ。


「あたしだってゆきを愛してるよ!」


 やけになったより姉は誰よりも大きな声で言ってしまった。もはや宣誓。

 当然その声は騒がしい神社の中でも響き渡り、周囲の注目を集めてしまう。


「お? なんだ告白か」「百合カップルかしらね」「こんなところで大胆!」「返事はどうなんだろう」


 こ、これは。

 野次馬が集まってきたことで愛の告白を受けたわたしも巻き込まれているんじゃないか?


「ちょっとかの姉たすけ……」


 っていない! 三人とも離れたところで他人のふりしてやがる!

 一対一で取り残され、周囲の視線にさらされながら、俯いてモジモジするわたしとより姉。なんだこの公開お見合いみたいな図式は。


「早く返事してやれよー」「若いねぇ」「お似合いのカップルだよ~」「昔を思い出すわぁ」


 老若男女を問わない無責任な野次馬たちが、これまた無責任にわたしを煽る。

 この期に及んで拒否をするわけはないんだけど、さすがにこの場では恥ずかしい! 他の三人はベビーカステラをかじりながらニヤニヤしてるし。あの野郎ども……。こうなることを予想してやがったな。


 そろそろ周囲の目が痛くなってきたので、ここは意を決して答えてしまうしかないんだけど、こういう場合ってどう言えばいいんだろう。


「そ、その……。不束者ですがお願いします」


 そう言って頭を下げてしまった。

 だからお見合いか! なにを混乱してるんだわたし!

 だけど周囲の人たちにとってそんなの知ったことではなく、やんややんやの拍手喝采。


「おめでとー!」「よかったな! ねーちゃん!」「ヒューヒュー」「いいもの見せてもらったよー!」「あらあら初々しいわねぇ」


 たしかにより姉はわたしのねーちゃんだよ。


 いつの間にか見世物にされてしまったわたしの周囲にはまたしても観光客が集まり、「Can I take photos?(写真撮ってもいい?)」という声が次から次へと。

 ここへ来た時はわたしひとりが取り囲まれていたけど、今回はより姉を交えてのツーショット撮影。


 より姉と二人きりで写真を撮ったことはほとんどなかったから嬉しい気持ちもあるんだけど。羞恥心には勝てません。

 親切な人がわたしのスマホでも撮影してくれたんだけど、撮ってくれた写真を見てみたら微妙な距離感に真っ赤でぎこちない笑顔。

 こりゃひどい。

 でも印刷してスタジオに飾ったけどね。

 

 まさか新年早々、神前での公開告白から始まるとは思ってもいなかったな。

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