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雪の精霊 ~命のきらめき~【PV62000突破☆感謝!】  作者: あるて
第3章 拝啓、未来のわたし

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第174曲 もう一人の育ての親

 師走の空気は何かと忙しなく、雰囲気につられて心まで忙しくなるのか時間も過ぎ去るのが早く感じてしまう時期だ。


 ましてや生きる活力を取り戻し、日々を今まで以上に精力的に活動してるわたしにとってはなおさらだ。

 リスナーさんにも生きるために精いっぱい足掻いてみることを報告したら、凄まじい量の激励と賞賛のコメントが流れてしまった。

 家庭、学校、そして配信内、たくさんの人に愛されている実感が湧いてまたしても嬉し泣き。


【ゆきちゃんの涙なんて初めて見た】【真珠の涙】【泣いてる姿も可愛い】【というか色っぽいのはなんでだ】


 わたしが流す涙にいろんなコメントが付いている。


「わたしも前はこんなに泣き虫じゃなかったんだけどね。生きようって決めて、いろんな物事に前向きに取り組むようになってからは感情の起伏が激しくなったみたい。なんだか生まれ変わったような感じ」


 普通の人なら世界の色が違って見えるんだろうけど、そこは相変わらずモノクロのままなのは仕方ない。それでも以前よりも少しだけ明るく感じるようになった気はする。

 よく落ち込んだりした時には世界が灰色に見えるなんて言うけど、元々灰色なわたしはその濃淡で明暗を判別してきたからそのように見えるのかな。


【でもなんだか前よりも表情も明るくなった気がする】【元気なのは相変わらずだけどなんか違うよね】【未来への希望に溢れている感じ?】


 リスナーさんからもそう見えてしまっていたんだろうか。


「前のわたしってそんなに暗い顔をしてた?」


 元気に明るく振舞っていたつもりなんだけど、自分では分からない機微(きび)というものがあるんだろうか。


【いつも明るくて元気をもらえる笑顔だったんだけどね】【なんというか、儚さも感じられたというか】【そうそれ! 触れたら壊れそうな】


 さすがによく見てるなぁ。


 わたしの周囲にいる人達って、なんでこんなにもわたしを気にかけてくれて、しかも温かいんだろう。

 確かに以前のわたしは生への執着がなかった分、覇気に欠けたひどく脆いものだっただろう。

 それを儚さや壊れそうと言った形で感じ取ってしまうとは、画面越しに見ているだけのリスナーさんと言えども侮れない。


「みんな、ありがとうね。そんな些細な変化にまで気が付いてもらえるなんて、愛されているって実感が湧いてとても嬉しいよ! また泣きそう」


 きっと元々のわたしは泣き虫で、臆病で、すぐに傷ついてしまう脆弱な子供だったんだろう。今まで抑えていたものが解き放たれてしまった今、自分ではなかなか歯止めが効かない。


【彩坂きらり:涙はすべてに片が付いた時のうれし涙のために取っておいたらいいよ】


 なんともカッコいいコメントが流れてきた。と思ったらきらりさんか。


「誰かと思ったらきらりさん! なんだか久しぶりのような気がするね!」


 キリママや琴音ちゃんはときどきコメントをくれるけど、きらりさんは長らく見ていない。あれはいつくらいからだったろうか。


【ちょっと思うところがありまして。でも配信は毎回見てたよ】


 毎回見ていたということは仕事が忙しすぎて観る暇がなかったというわけでもないらしい。

 思うところって何だろうか。


「仕事でもプライベートでも、何か悩みがあるならいつでも言ってね! きらりさんにはいっぱい恩があるし、なにより友達でしょ」


 それからしばらくきらりさんからの返事はなかった。

 気にはなりながらも他のリスナーさんからのコメントがあるのでそちらを拾っていたら、しばらくしてようやく返事が撃ち込まれたんだけど……。


【ゆきさんは優しすぎる】


 この一言だけ。


 これはいったいどういう心境で打ち込まれたものなんだろう。なにかあったんだろうか。

 記憶の引き出しを開き、最後にきらりさんがコメントを打ち込んでくれていた時のことを考える。


 あれはお正月にひよりとのデュオをして、とんでもない再生数をたたき出した時のことだ。あの時のコメントは……。

『敵わないなぁ。こんなのもはや伝説じゃない』だったな。そうか、そういうことだったんだね。


 きらりさんもわたしに好意を持ってくれていることは分かっていた。琴音ちゃんに対抗するのがきっかけだったとはいえ、はっきりと想いを告げてくれたから。

 あの時の配信は、ひよりと身も心も一つになってしまったような錯覚に陥るくらい息の合ったものだった。まさに一心同体。

 きっときらりさんはそれを見て何かを感じ取ってしまったのだろう。見るものすべての心に残り、感動を与える『伝説』となった二人のダンス。

 それはわたしとひよりという、何者にも断ち切ることが出来ない強い絆で結ばれた者同士だからできたこと。


 あの配信を見て、わたし達の間には何者であれ割って入ることが出来ないことを理解したのかもしれない。

 だとしたら、わたしの配信を見ながら何を思っていたのだろう。

 でもごめんなさいは言わないよ。その代わりではないけれど……。


「きらりさん。わたしがVtuberとして活動を始めた当初からずっとお世話になりっぱなしだよね。今のわたしがこうやっていられるのは、きらりさんのおかげと言っても過言じゃないよ。恩返し、というと少し他人行儀になってしまうけど、かけがえのない友人として、きらりさんを思って曲を作るから来週も是非見に来てね!」


 きらりさんの想いに応えることが出来ない以上、謝罪や同情は傷口を抉るような行為だし、何か物を贈るというのもまた違う。

 歌とダンスを本業にしている以上、それで想いを伝えるのが最高の恩返しになるだろう。




 翌週、わたしが歌い上げた曲は感謝の想いを熱く綴ったものだった。


 感謝、そして親愛。そこには恋愛を想起させるような文言は含まれていない。


 大きく育て上げてもらった子が親に感謝の手紙を書いて贈るように、わたしはこの歌声にきらりさんへの親愛の情を乗せて画面の向こうへと届けたい。

 この声はインターネットの海を超え、きらりさんの胸の奥底にまで届いてくれるだろうか。


 配信の先輩として、姉のように、母のように、そして親友のように導いてくれた大切な人。きらりさんの望んだ関係にはなれなかったけど、これからもこの縁が続くようにと願って音を紡いだんだよ。


【ゆきさん、ありがとう。涙が止まらないよ】


 唄い終わり、モニターの前に戻ったタイミングできらりさんの打ち込んだコメントが流されていく。

 スパチャでもないそれはすぐに他のコメントに押されて見えなくなってしまうけど、わたしの記憶と心からは消えることがない。

 そこにいろんな感情が込められているのが分かるから。


「たくさん想いを込めて作ったけど、まだまだ伝えきれないくらい感謝の気持ちがあるんだからね。これからもコラボをしたり、一緒に唄ったりしていこうね!」


 恋人になることはでいないという線引き。きっとそれはきらりさんも理解しただろう。

 だけど線を引いたからと言ってこれからの関係が変わるわけじゃない。むしろ友人として、配信者YUKIの育ての親としてより広範にわたって協力し合っていけることにもなるだろう。


【さっそく来週コラボしよ!】


 どうやらわたしの意図はしっかりと伝わったようだ。

 来週配信予定の土曜日はクリスマスを間近に控えている。クリスマス当日と言わないのは気を遣っているのかな。


「来週じゃなくって、予定がないならクリスマスイブにコラボしようよ! 他のメンバーも誘ってパーティーやりたいな! オフコラボならわたしの手料理もついてくるよー」


 クリスマスイブは恋人の日なんて言うけれど、大切な人たちと過ごす日でもあるんだよ。

 仲間たちやリスナーさん達と楽しい時間を共有し、神様に奇跡を願いたい。クリスマスは奇跡の日でもあるからね。文香と穂香も呼ぼうかな。


【うん! 楽しみにしてる。他のメンバーも呼んでいいかな?】


 それは以前にきらりさんの紹介で一緒にコラボしたあの三人のことだろう。当然異論などない。


「もちろん! わたしの友人も呼んで一緒にダンスを披露しようかな!」


 文化祭で仁王様たちと踊ったダンスの出来は上々で、学内での評判もかなりよかった。できればあの場限りにせず動画として残しておきたいし、みんなにも披露したい。二人が承諾してくれるかは分からないけど。


【大人数になるならスタジオ借りる?】


「うちの地下スタジオもけっこうな広さがあるから大丈夫だと思う。ちょっとした工夫もかんがえてあるしね。それに、うちじゃないと満足な料理を振舞えないじゃない」


 わたしの料理というキーワードに反応したコメ欄がにわかに盛り上がる。

 うらやましいだの役得だのという言葉が並ぶ中、きらりさんがさらに燃料を投下。


【ゆきさんの料理はその辺のレストランより美味しいぞ。まさに五つ星。あ~楽しみ】


 煽ってる煽ってる。

 リスナーさん達も反応して、コメ欄上できらりさんを袋叩き。

 この調子ならきらりさんもきっと笑っているだろう。


 笑顔に包まれ、師走の夜は更けていく。

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