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雪の精霊 ~命のきらめき~【PV61000突破☆感謝!】  作者: あるて
第3章 拝啓、未来のわたし

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第168曲 募っていく想い

『みんなこんばんわぁ! 今日も雪の精霊がみんなに幸せをお届けするよ! 今日の配信はスマホだから、ちょっといつもとは違います。今日はね、なんと熱海へ温泉旅行に来てるんだ! いつもは家族も一緒なんだけど、今日はなんと一人旅! どうどう? 大人~って感じでしょ』

 

 あの野郎。逃亡した先で呑気に配信をしてやがるとは、いい度胸をしてるじゃねーか。


「なんだかいつもと変わらないね」

 

 ひよりがぽつりとつぶやいた。

 

 それはそうなのかもしれない。ゆきにとっては小さい時から決められていたことなんだから、今更騒ぎ立てるようなことじゃないのだろう。

 あたしらにとっては寝耳に水な話だけど、ゆきはもう何年も向き合ってきた現実なんだから。


『え? なんでひとりなのかって? まぁ大したことじゃないんだけど、実はとある事情があって逃避行をしております』

 

 それも大したことじゃないだとぉ!? これでビンタがグーパンに変わったな。


『何の事情かって? 大したことじゃないってば。でもそうだね。ずっと応援してくれているみんなにも、話しておかないといけないことだよね』

 

 そこからゆきが話す内容は、昨日学校で全校生徒に向けて語り掛けた内容とほぼ同じだった。

 何が大したことないだ。そう思ってるのはおまえだけだよ。

 

 語り続けるゆきの表情は決して悲痛なものではなく、優しく諭すような、慈悲深く愛情に満ちた顔をしている。

 自分の余命が残りわずかだというのに、どういう心境になればこんな表情が出来るんだろう。

 

 自分の将来に疑いも持たずに生きてきた、あたしら一般人には決して分からない境地なのかもしれない。自分の死期を悟った時に、果たしてここまで達観できるものなのか自信は持てないが。

 

 案の定、ゆきの話を聞いたコメント欄は騒然としている。当たり前だ。

 自分が応援してきた推しの相手が、ある日突然この世からいなくなりますって宣言されたら。それは引退するどころじゃない衝撃だろう。


【嘘、だよね?】【お願い、冗談だと言って】【エイプリルフールにはまだ早い。もし釣りだとしたら悪質だよ】【そんな冗談言うなんて、さすがに怒るよ?】

 

 現実を受け入れられないコメントが目立つ。さもありなん。

 冗談にしてはタチが悪すぎるけど、とてもじゃないが簡単に飲み込めるような話じゃないんだろう。


『ごめんね。残念だけど冗談でも釣りでもないんだ。だけど今すぐいなくなるってわけじゃないから。わたしはこの命が燃え尽きるその日まで、ちゃんとみんなの前に立って唄い続けるよ!』

 

 妙に清々しいその笑顔が腹立たしいけど、逆に信ぴょう性を与えているのだから皮肉なものだ。

 

 嘘じゃないということが伝わったのか、コメント欄が急に静かになった。

 気持ちは分かる。あまりにも衝撃的なその真実を吞み込むのはすぐに出来るものじゃない。あたしらだって一時的に思考停止になったんだから。


【本当にいなくなっちゃうの】【お願い、これは悪い夢であって】【イヤだよ、生きて】【どこにも行かないで】

 

 信じがたい真実を聞いた時の人間の反応は五段階に分かれるという。精神科医のエリザベス・キューブラー・ロスが提唱した「死の受容の五段階――悲嘆のプロセス」とういやつだ。

 

 1.否認・ショック、2.怒り、3.取引・妥協、4.憂鬱・混乱、5.受容。

 順不同になることもあるし、3の妥協を飛ばす場合もある。逆に戻ることも。死という事実に対して、人間が頭で処理する際のプロセスであり、正常な防衛本能ということらしい。

 最初の反応で否認と怒りは同時にコメントされていたから、今は3を飛ばして4の憂鬱・混乱といったところだろうか。

 あたしの気持ちは2の怒りで止まってるけどな。


『夢でも幻でもない、これが現実。雪の精霊は神様の決めた運命に逆らうことはできないんだ。でも心配しないで。わたしはただいなくなるんじゃない、最後までみんなに歌声を残し続けるから。ここに来ればいつでもわたしに会える。みんながわたしを忘れない限り、わたしはみんなの心の中で生き続けるんだよ』

 

 ゆきの愛情に満ちた言葉。忘れないで欲しいという願い。

 そして5の受容に進んでもらうための、残酷だが優しさに裏打ちされた悲痛な想い。

 

 学校の生徒にも、リスナーにも等しく大きな愛情を持ち続けるゆき。だからこそいつまでも悲しみに暮れることなく、受け止めて前を向いてほしいという想いがあるんだろう。そして今の配信をあたしらが見ていることも分かって言っているに違いない。

 

 ふざけんな。

 他の人はそれでいいかも知んねーけどな。あたしらにまでそれを求めるのは違うだろ。

 あたしは決して4や5に進んだりなんかしねー。受容なんて絶対にしてやるもんか。取引だ!


「このままではいけませんね」

 

 楓乃子も同じ気持ちのようだ。


「生命力は精神力」

 

 茜の言うとおり、今の諦めきったゆきの精神状態ではダメだ。生きようという意思を取り戻させないと。


「でもそれって……」

 

 ひよりの言いたいことはわかる。もしかしたら、今よりもっと残酷な結果になる可能性だってあるさ。

 

 だけど最初から全ての可能性を放り出して、運命という言葉で自分を誤魔化すことは逃げることと同じだ。

 そりゃあいつだって今までの十五年間、いろいろと考えてきただろう。あたしらには想像もつかない辛い思いをしてきたことも分かる。

 だけど、それはあいつが一人で考えて出した結論だ。あたしらには何の相談もなしに、だ。

 

 ただの精神論に聞こえるかもしれねーが、人の想いというのは実際に力を持っている。実際に家族や恋人を想い、死の淵から生還したなんて話はいくらでもある。

 達観し、安らかな死を迎えるなんて坊さんみたいな説教はくそくらえだ。

 

 最後まであがけ、生きろ。絶対に諦めんな。

 あたしらの想いを受け止め、それを胸に神様とやらが決めたというふざけた運命に立ち向かえ。

 

 それは奇跡を待つようなことかもしれない。でもな、諦めてしまったやつの元に奇跡は絶対に訪れねーんだよ。奇跡を起こすのは神様じゃない。人間の意志だ。


「あたしらを残して、ゆきだけ何もせず退場するなんて許せるわけがねーだろ。あいつの生きる意志を取り戻すぞ」

 

 嘆き、泣きわめくのは全ての手を尽くした後だ。


「そうだね、一人で決めて一人で諦めてしまうなんてゆきちゃんらしくない。わたし達は家族なんだもん」

 

 ひよりの心も決まったみたいだ。

 これであたしら姉妹の想いは固まった。何が不幸にするだ、何が後悔させてしまうだ。募り募った想いはそんなことには屈しない。

 あたしらの想いを見くびったゆきには、きっつーいお仕置きが必要だな。

 

 覚悟して帰って来いよ、ゆき。

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


明日の投稿は、二話一挙公開となります。


話の区切りの都合上で複数同時公開、クライマックスに向けて駆け足となりますので、お楽しみいただけると幸いです。

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