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雪の精霊 ~命のきらめき~【PV62000突破☆感謝!】  作者: あるて
第3章 拝啓、未来のわたし

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第167曲 抗えない運命

「これでよし」


 テーブルにボイスレコーダーとメモ書きを置いて準備完了。


【ちょっと一人で二泊三日の旅行に行ってきます! リフレッシュ休暇~! 今日の晩御飯は冷蔵庫に入れてあるから温めて。明日のご飯はみんなで作るか、出前で好きなものでも頼んでください。お金は置いておくね。日曜には帰ってきます】

 

 ちょっと軽い感じはするけど、家出をするわけでもあるまいしこれでいいや。

 

 キャリーバッグを引き、玄関に施錠。寒いのでトレンチコートに赤いマフラーを巻いているから、なんだか傷心旅行みたいだなと一人で笑う。

 みんな寂しがるかなぁと少し後ろ髪を引かれるけど、たまにはいいよね。

 今まではどこへ行くのにも必ず誰かと一緒だったから少し新鮮な気分。寂しい気持ちもあるけどね。

 でも少しだけ時間が必要だから、みんな許してください。

 お土産ちゃんと買ってくるから。



 

 駅でひとり電車を待つ。

 寒風の中、旅行カバンを抱えて一人佇む女――に見える男。

 

 うーん、カラオケの失恋ソングの背景映像に使われそうだ。ジャンルは演歌かな。

 物憂げな表情をするのはやめよう。

 

 この旅行は心機一転、自分を鼓舞するためのものだ。決して別離の悲しみや、儚い未来を嘆いたものじゃない。

 どれくらいあるか分からないわたしの残り時間を有意義に、思い残すことなく過ごすために必要な通過儀礼だ。

 家族を残してしまう以上、完全に心残りをなくすことなんて不可能なんだけど。それでも悔いは少なく、喜びは最大に、最後の一瞬まで輝き続けていたい。

 なんて言いつつも、姉妹たちの反応が怖くてほとぼりを冷ます目的もあったりなんかして。

 

 だって絶対みんな怒るもん。

 

 そりゃ隠してたわたしも悪いけどさ。言えないじゃん。もうすぐいなくなりますなんて。

 散々どこにも行かないとか、あの家にずっといるとか言い続けてきたのに、全部嘘でした、てへ。で済まされるか。

 下手したらぶん殴られるかも。痛いのはヤダ。

 てなわけで逃避行。温泉浸かって、美味しい物食べて気分転換してこよっと。


 * * *


「……」

 

 誰も言葉を発しない。ひよりは目を泣きはらし、楓乃子と茜の嗚咽だけが響くリビング。

 再生が終わったボイスレコーダーを前に、誰も言葉が見つからないと言った様子だ。それもそうだろう。

 

 考えうる限り、最悪の予想が的中してしまったんだから。ふざけやがって。

 録音されていたのは学校の放送室で生徒に向けて語られた内容と、その放送を終えた後あたしらに向けて撮られたメッセージ。


『より姉、かの姉、あか姉、ひより。ごめんね。ひよりはもう学校で聴いてると思うけど、お聞きの通りわたしに未来はありません。

 みんなの気持ちを知りながらも応えることが出来なかったのはこういうことなんだ。今までずっと嘘ばっかりついてごめんなさい。

 一概に嘘だけとも言えないんだけどね。わたしはたとえこの身がなくなったとしても、その家に、みんなの心に生き続けると信じていたから。自信過剰かなぁ。

 だけどわたしがみんなを想うのと同じくらいみんなもわたしのことを想ってくれているなら、きっと忘れたりなんかしないよね。

 でも、存在そのものが消えてしまうのは怖いから覚えていて欲しいけど、いつまでもわたしに縛られたりしないでね。

 常日頃から言っていたように、みんなはそれぞれいい人を見つけて幸せになること。

 約束だよ。でないと枕元に立っちゃうかも。幽霊になったゆきちゃんは怖いんだから。

 きっとみんな怒ってるだろうなぁ。

 より姉が怒ったら怖いから、わたしは逃亡して温泉にでも浸かってきます! てへぺろ。

 最後に。

 Простите, спасибо.

 Я был искренне рад быть со всеми вами.

 Если возможно, я бы хотел в следующей жизни снова стать обычными людьми и снова стать семьей.

 Четверым людям, которых я люблю больше всего на свете.』

 

 最後のロシア語は文化祭で唄った曲の最後に言っていた言葉だと分かった。スパシーバ(ありがとう)しか分かんなかったけどな。

 でもさすがゆきと言うべきか、発音が完璧でスマホの翻訳機にかけたら一発で翻訳できた。


【ごめんなさい、ありがとう。

 みんなと一緒にいられて本当に幸せでした。

 もし可能なら、来世では普通の人として、また家族になりたいです。

 世界で一番愛する4人へ。】

 

 回りくどい真似しやがって。

 

 どうせ今だって「傷心旅行みたい~」とか呑気な事言ってやがんだろ。あいつはいつだってそうだ。

 辛くても悲しくても、笑って済ませようとしやがる。誰にも心を見せないどころか、自分自身をも誤魔化して。

 

 本当は誰よりも優しくて、誰よりも愛情深いあいつが。本当は臆病なあいつが。

 一人ぼっちでいなくなる状況に耐えられるわけがねーだろ。通り魔事件の時、取り乱してた姿が本当のゆきなんだ。

 

 今ならわかるんだ。あいつは強いんじゃない。忘れられないという障害があるから、記憶や思考に蓋をすることが得意になっただけ。

 今だって、あたしらの顔を見たら普通でいられないから逃げ出したんだと思う。

 ゆきの心は今も、幼い頃にうちへ来た時のままなのかもしれない。虐待され、怯え、愛される自信を無くした小さなゆき。

 

 本来守られるべき母親から受けた暴力というのは、記憶がなくとも心に残っているんだろう。そんなゆきにとって【人類に幸せを与える雪の精霊】というのは都合が良かったんだろう。自分を強く見せ、前向きに生きていくためのよすがとしても。

 なぜゆきが【使命】というものに強くこだわっているのか、分かったような気がする。


「より姉……」

 

 ひよりがすがりつくような目であたしを見る。そんな不安そうな顔すんな。


「大丈夫だ。ゆきはちゃんと帰ってくるよ。こんなことで嘘をつくようなやつじゃない」

 

 まったく、妹まで不安な気持ちにさせやがって。


「今回は帰ってくるとしても、ゆきちゃんはいずれ……」


「楓乃子! 滅多なことを言うんじゃねーよ。そんなことはこのあたしが認めない。諦めるなんて許さねー。あいつには何がなんでも生きるって言わせてみせる!」

 

 そうなんだ。今のゆきにとって一番足りないもの。それは「生きる」という意思だ。

 そりゃ将来を諦めた人間が自分の幸せなんて考えようとはしないよな。

 

 本当に手間のかかる弟だ。

 めんどくさくて、生意気で、いちいちわかりにくくて、でも誰より愛しい弟。

 まずは帰ってきたら一発ぶん殴ってやる。

 話はそれからだ。


 * * *


 温泉に浸かっている最中だというのに、悪寒が走ったのは気のせいだろうか。

 

 より姉、やっぱり怒ってるのかなぁ。だよねぇ。

 ボイスレコーダーにもてへぺろとか入れちゃったし。ちょっとふざけ過ぎたか。

 

 でもね、わたしにだって言い分はあるんだよ。だってどうしても明るい話題じゃないし、暗くなったら底なし沼だよ。

 みんなが悲しんでくれるだろうってことは分かってるから。

 みんなの涙を見るくらいなら、怒ってもらった方がマシなんだよ。

 

 もう分かってるよね。わたしがとっても臆病だってこと。

 こんな時だってのに向き合って話をすることも出来ない。自分の心をさらけ出して、弱みを見せることも出来ないわたし。

 

 本当はね、考えることが怖いんだ。自分がどうなってしまうのか。わたしはわたしでいられるのか。

 自分が分からなくなることが怖い、みんなのことを忘れてしまうのが怖い。

 

 だけど、これは神様が決めたこと。

 あの雪の日、死んでしまうはずだったわたしに雪の精霊が告げた使命。その使命を果たすためにつないでもらった命だから、最初から期限が決められていたんだろう。その間に自分のやるべきことをやりなさい、と。

 ちょっと短すぎるような気もするんだけど、決まっていることは仕方がないよね。

 

 病院の先生もお母さんも、手を尽くしてなんとかしようとしてくれたけど、運命には逆らえなかったというだけ。

 誰も悪くない。お医者さんも、お母さんも、ママも。

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