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雪の精霊 ~命のきらめき~【PV62000突破☆感謝!】  作者: あるて
第3章 拝啓、未来のわたし

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第163曲 その言葉の意味は

 ひとまず厄介な相手をより姉のおかげもあって撃退できた。ひとつ肩の荷が下りたような気分。あんなの背負ってたつもりはないけども。


 そしてやってきた体育館。舞台袖にはいつものごとく更衣スペースが設けられ、そこで衣装へと着替えることになっている。

 なんだけど。


「ちょっと男子ども。出番が終わったらさっさと出て行ってくんないかな」


 なぜかうだうだと雑談をして時間を潰している前の出し物の出演者たち。こいつら……。

 さっきの昭和アニメ先輩を筆頭に、うちの生徒たちの性癖がどんどん歪んでいってるのは気のせいだろうか。男の着替えを覗こうとするとか世も末だ。


 日本の将来は大丈夫なんだろうか。

 原因に大きく関わっているであろうわたしとしてはあまり強くは言えないんだけど。


「少年よ! 大志を抱け!」


 人差し指を太陽に向けてポーズを決める。


「おい、会長がクラーク博士になってるぞ」「ご乱心だ」「何かイヤな事でもあったんじゃね?」


 ご乱心してるのは君らだよ。わたしはそれを憂いているだけ。


「とにかくわたしは着替えるので散った散った!」


 人払いを済ませたわたしはそのまま着替えることに。

 今日はロックな調子の曲が多いので衣装もそれに合わせて黒革のホットパンツに鋲の付いたレザーベスト。インナーには白のチューブトップ。


 胸だけしか隠れていないのでおへそが丸見えだけど、この姿で三人並ぶとかなりかっこいい。もちろんひよりもお揃い。


 練習の結果、文香と穂香が通しで踊れるようになったのは二曲。それに合わせてひよりも二曲一緒に踊ることにした。先輩の顔を立てたひよりが言い出したことだ。そういう気づかいも出来るようになったなんて、成長したなぁ。


「ゆきちゃんは何をニヤニヤしてるの?」


「どうせひよりちゃんのこと考えて兄バカ炸裂させてたんだよ」


 いつの間にかそばに来ていた二人に突っ込まれてしまった。うっさいよ、仁王様。


 前の出番の組が終わり、いよいよ本日のトリ、生徒会の出番が回ってきた。

 今日もそうだけど、明日の大トリもみんなの意見が合致して生徒会が担当することになっている。


「会長のダンスこそ文化祭の締めを飾るに相応しい」


 ということで一致したんだけど、みんなの期待を背負っているからには下手なところは見せられない。恥ずかしい出来にならないよう、気を引き締めなおした。


 やがて演奏が流れ出し、いよいよ登場する場面。最初はトリオで踊るからひよりは待機。


 音楽に合わせて元気よく飛び出すわたし達。歓声に沸く聴衆たち。

 わたしの歌声に合わせ、練習通り、いやそれ以上のパフォーマンスで応えてくれる二人。

 観衆の前で唄うことはもちろん、友人と呼吸を合わせて踊ることがこんなに楽しいなんて。今までデュオしか経験してこなかった私には新鮮な経験だ。


 あまりに楽しすぎて自分がセンターになった時、予定にはない動きを見せて二人を驚かせてしまった。

 それでも呼吸を乱すことなく踊り続けた二人も大したもんだ。でもその甲斐あって、派手なパフォーマンスに観客たちのボルテージは最高潮。

 その熱に応えるように、わたしの声もさらに情熱的になっていく。


 そして曲の最後、ヘッドボイスでのロングトーンには観客席から悲鳴が上がるほど。


 うん、この一体感は何度味わっても気持ちがいい。

 三人で踊る番は終わり、次に控えていたひよりが満を持してステージに飛び込んできた。


 現役生徒会長と副会長、しかも兄妹ということで話題性も抜群の二人のダンスは、見るものすべてを魅了するほどに息の合ったユニゾンを見せつける。

 シンメトリーも鏡を見ているかのようにキレイな対象を描き、緩急自在に繰り出される動きも完全にシンクロ。


「すごい! 二人でひとつの生き物みたい!」「CGかと思うほどに完璧だな!」「さすが兄妹。これだけ息の合ったダンスはプロでもなかなか見れないよ」


 文香と穂香で踊った時も完成度は高かったけど、観客が抱いたのは感心というもの。だけどそれ以上に高まるとそれは感動に代わる。


 トリオの時以上に会場のボルテージは上がり、倒れる人が出るんじゃないかと心配になるくらい皆熱狂している。

 コンサートをすればこの何倍もの熱量を感じることが出来るんだろうなぁ。


 ひよりとのデュオも終わり、後はわたしがソロで数曲披露。新曲のお披露目は明日の大トリにあてる予定だ。

 こうして大きなトラブルもなく文化祭の一日目は幕を閉じた。



 そして迎えた二日目。

 今日のステージは昨日と違い、少しシックな雰囲気の曲を中心に選んだので衣装も変えてある。


 みんなお揃いで着るのは、スクエアネックで左右非対称、濃紺のファッショナブルメッシュドレス。

 後ろだけ長く作られたフリルが動きに合わせてたなびくスタイル。

 万が一見えてもいいように股間はしっかり対策済み。


 昨日といい今日といい、これらの衣装を全部作ってくれたより姉には頭が上がらない。


 このドレスを着てのデュオやトリオはカッコいいと同時にどこか蠱惑的。

 ひよりはもちろんのこと、文香や穂香も美人の部類に入るので、妙に色気の漂うステージになってしまった。


 高校の文化祭でこれはよかったんだろうか。まぁより姉の趣味も入ってるから仕方ないよね。


 やがてみんなと踊る時間は終了となり、文香と穂香、それにひよりはステージ脇に引っ込んでしまう。

 ひよりはそのまま着替えてより姉たちに合流し、観客席からわたしのステージを鑑賞するらしい。


 昨日に引き続いてのソロパートということになるけど、今日の心境は昨日とは全然違うもの。これで高校生活の、そして生徒会長としての生活が終わる。

 声を張り上げて唄いながらも、今までの出来事が次々と脳裏をよぎり、鼻の奥が痛くなる。


 これで本当に終わるんだなぁ……。

 もちろん寂しい気持ちはたくさんあるけれど、時間は決して止まってはくれない。


「みんな! 三年間本当にありがとう! 最後は感謝の気持ちも込めて、この日のために作った新曲を披露します!」


 * * *


 ゆきちゃんの言葉でさらに盛り上がる聴衆たち。

 わたしは着替えも終わって、そのままより姉たちと合流した。


 ステージ上の熱気もすごかったけど、観客席の熱狂はもはや崇拝の域に達しているんじゃないかというほどに、声をあげる人々の表情には陶酔が見て取れる。サキちゃんがいっぱいいるようなものだ。


「あれだけ文化祭の準備と配信で忙しそうにしてたのに、この日のためだけに新曲を作ってたとか、本当にあいつは化け物かよ」


 より姉の言うとおり、今日までのゆきちゃんは多忙を極めていて、見ているこっちが心配になるほど休む間もなく働いていた。

 それだけの想いを込めて歌い上げる曲はどんな出来になっているんだろう。


 否が応でも期待感が高まる。それはきっと聴衆も同じ心境なんだろう。

 最後の曲が始まるまでのインターバル、熱狂と緊張のさなかでみんなゆきちゃんを見つめていた。


 だけど、ゆきちゃんはそこで誰も予想していなかった行動に出た。


 頭につけていたヘッドセットをむしり取り、後方に投げ捨てた。

 それには見ている皆もビックリ。


「おいおい、あいつこの広いステージを前にアカペラで唄うつもりか!?」


「ゆきちゃんなら声量的には問題ないと思うんだけど……」


 そこだけはさすが男の子ということなんだろうか。

 ゆきちゃんの声量は圧倒的で、他の追随を許さない程。

 太刀打ちできるのはオペラ歌手のような人だけじゃないだろうか。


 たかが学校のグランドに設えられた特設ステージごとき、それこそ難なく圧倒してしまうだろう。だけどやっぱり喉に負担はかかる。

 いくら普段から鍛えているとはいえ、そこまでして自分の声を届けたい曲っていうのはどんなものなんだろう。


 ゆきちゃんの気迫が伝わったのか、さっきまであれほど騒がしかった会場も水を打ったように静まり返っている。緊張感が半端ない。


 そしてとうとうイントロが始まり、ゆきちゃんが第一声を発したとき。

 比喩ではなく、本当に会場の空気が破裂したように震えた。圧倒的という言葉すら生ぬるい、魂を削り取ってしまうような命のきらめき。


 理屈じゃない。言葉でもない。ただその気迫と情熱に、見ているものの魂を震わせる何かがある。

 そう言わざるを得ない程、ゆきちゃんの歌は鬼気迫るものだった。


「なんていうか……言葉が出ねーな。歌詞の意味、分かるか?」


「かなり詩的な表現を使ってるから分かりづらいけど、別れが間近に迫った母親に感謝の言葉を伝えているような感じだね」


 歌詞の中では対象が母親になってるけど、ここにいる全ての人、いや関わった全ての人に感謝の言葉を述べたいんだろうなというのは分かる。

 でも本当にそれだけなんだろうか。


 ただ感謝の言葉を伝えるためだけにこれだけの気迫を見せるんだろうか。

 いいしれない不安が胸をよぎる。


 そしてわたし達姉妹は同時に異変に気が付いた。


「ゆき……」


「ゆきちゃん……」


 ゆきちゃんが涙を流している。


 元々感激屋のゆきちゃんはすぐに涙ぐむことはあったけど、決して人前で涙を流したことはない。

 それは長年一緒にいたわたし達が一番よく分かっている。すぐに目を潤ませるけど、その瞳から水滴が落ちることはなかったのに……。


 それが今、涙を拭うこともせず、大粒の雫が頬を伝うに任せている。

 ゆきちゃんの涙がこんなにも綺麗だなんて知らなかった。


 人魚の涙のように、落ちた滴がそのまま真珠になってしまうんじゃないかと思うほどにその姿は美しい。


 泣きながら唄うゆきちゃんにあてられて、そこかしこで涙を流しながら声援を送る人がいる。かくいうわたしも今にも泣いてしまいそうだ。


 ねぇ、ゆきちゃん。その涙の意味は何?

 どうしてそんなに切なそうに唄ってるの?

 お願い、教えてよ。


『来世では~、ありふれた家族のように~』


 そして最後のサビが終わり、アウトロに入っていく。だけどそこで終わりではなかった。歌詞カードには載っていない言葉を綴っていくゆきちゃん。


「おい、あれ何語だ?」


「英語じゃありませんね」


「……ロシア語?」


 あか姉の言うとおり、響きはどこかロシア語っぽい。わたし達は帰国子女なので英語はわかるけど、さすがにロシア語は誰も分からない。


 どうして今この場面でロシア語を使う必要があるんだろう。その意味はなんなんだろう。


 考えているうちにゆきちゃんの声が止み、続いて伴奏も消えてしまった。

 ゆきちゃんはまだ目を閉じたまま、ステージの真ん中でスポットライトを浴びている。

 そして目を開けたかと思うと、ゆっくりと身体を翻し、ステージの奥に歩いて行ってしまう。


 そのゆっくりとした足取りがライトの外に出ようとした時。


 わたしの目にはゆきちゃんが薄く透け、今にも消えてしまうように映ってしまった。


「ゆきちゃん!」


 思わず叫んでしまっていた。だけどゆきちゃんはその声にも振り返ることはなく、ステージの後方へと行ってしまう。

 それがまるで未来を暗示しているように感じられて、体が震えるのを止められない。


 イヤだよ。

 ゆきちゃん、行かないで。


 ついゆきちゃんの元へ走り出しそうになり、身を乗り出したところをより姉に止められた。


 どうやらそれは幻だったようで、ステージの最奥にたどり着いたゆきちゃんはへたり込んでしまう。


『あ~あ。感極まって投げちゃったけど、壊れてないかなぁ。マイクテステス、聞こえますかぁ』


 どうやら投げ捨てたヘッドセットを取りに行っただけのようなんだけど……。

 さっきの幻はあまりにもリアル過ぎた。あれは何だったんだろう。


『今までの事が頭に浮かんで、みんなに感謝の気持ちでいっぱいになったら涙が出てきちゃったよ。男のくせにみっともなくてごめーん!』


 冗談めかして言ってるけれど、あの涙の意味は他にもあるような気がしてならない。そしてあのロシア語の意味……。


『この文化祭をもって、生徒会長の任期中の大きなイベントは全て終了です。三年間、本当にありがとうございました』


 深々と頭を下げるゆきちゃん。会場からは惜しみない拍手が贈られる。全校生徒だけでなく、来場者からも満場一致での労いの拍手。


 今までお疲れさまでした。ゆきちゃんは間違いなく今後も語り継がれる伝説の生徒会長になったよ。


 感謝の言葉と万雷の拍手、そしていくばくかの謎を残し、ゆきちゃんにとって最後の文化祭は幕を閉じた。

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