第127曲 予定は早めに決めた方がいい
今日からいよいよ新学年。
「ゆきちゃん、最後までよろしくね」
「よろしくー」
結局、文香と穂香は中学から数えて5年間、ずっと同じクラス。
生徒会役員をずっと同じクラスに固めてよかったのかな。先生方は何を考えているんだろう。
「驚いてるね」
「そりゃそうでしょ。なんせクラスを分けたら生徒会解散の危機になるって脅したしね」
なんということを……。
金剛力士様恐るべし。
「最後までゆき会長を支えていかないとだからね」
「祀り上げるぞ」
ご本尊様はわたしだった。
観音様ですか?
でも、気心の知れたこの2人がいるのはありがたい。頼りにしてるよ、阿仁王様、吽仁王様。
「なんだかよからぬことを考えてない?」
「全然」
新年度に入って初の生徒会役員会合。
「ゆき会長! 今年も学園のためにわたし達を導いてくださいね!」
目をキラキラさせて話しかけてくるのは2年生の東堂さん。ひよりの親友。
「今年もよろしくね、東堂さん。わたしが導くんじゃなく、力を合わせて学校を良くしていくんだよ?」
「いやん、ゆき会長。東堂なんて他人行儀な呼び方じゃなく、サキって呼び捨てにしてください!」
両手を合わせて祈るようなポーズ。ここでもご本尊様扱い?
なんだか癖の強そうな子だ。
薫先輩がそのまま若くなったような。
「ちょっとサキちゃん! ゆきちゃんごめんね? ゆきちゃんのこと崇拝しすぎて頭沸いちゃってるんだ」
ひどい言い草だ。親友なんだよね?
「そりゃ偉大なゆき会長を目の前にしたら沸きもするわよ。ゆき会長ファンクラブ、会員番号1番を受け継いだ身として当然のことだよね」
まだあったのかその珍妙なクラブ! しかも受け継いだって……。薫先輩の影がこんなところに。
いざという時、けっこう頼りになったから邪険にもできないんだよねぇ。
わたしが卒業したら解散するだろうし、まぁいいか。
「このクラブは我が校の伝統として、代々語り継いでいきますので! それでこそ伝説の会長に相応しい!」
やめてくれ。
いつからわたしは伝説になったんだ。
「んー、慕ってくれるのは嬉しいんだけど、ほどほどにね?」
「はい! 全力で頑張ります!」
通じないなぁ。
「もう、サキちゃん。ヒートアップするのはいいけど、ゆきちゃんを困らせたらダメだよ」
いや、ちょっと落ち着いてほしいんだけど。
「ゆき会長を困らせるなんてとんでもない! わたしは下僕ですので、なんでも命じてください!」
そういうのが困るんです。
「庶務は別に下僕じゃないからね? とにかく今年の12月、わたしの任期が終わるまでよろしく」
「はい! この下僕におまかせください!」
うーん、不安だ。
でもその不安は杞憂に終わった。
実際に業務をさせると彼女はとても優秀で、生徒会の仕事が大幅に軽減されることになった。
副会長ひよりのこともしっかりと支えてくれて、もし来年ひよりが生徒会長になったらいいコンビニなりそう。ひよりはまだ何にも言ってないけど、なんとなく来年の生徒会長はひよりなんじゃないかなと思うんだよね。
「今年の文化祭、生徒会の出し物で提案があるんですが!」
新役員が業務にも慣れてきた5月。サキちゃんが気の早い提案をしてきた。
「まだ半年もあるけど……。早く決まってるにこしたことはないね。で、どんな提案?」
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました! これこそゆき会長の任期最後を飾るに相応しい出し物! 名付けて『ゆき会長オンステージ』です!」
……。
は?
「オンステージって?」
「その名の通り、ゆき会長がステージで歌って踊ってのファンサービスですよ!」
それ、あなたが見たいだけじゃなくて?
「それいいね!」
「いい案だ」
「ゆきちゃんのステージ見たい!」
仁王様と妹様が賛成してるけども。
「いやいやいやいや。みんなちょっと待って。それだと生徒会の出し物じゃなくて、わたしの出し物になっちゃうでしょ?」
「わたし達はゆき会長の影! 舞台裏で支えることが出来るなら本望!」
うん、ちょっと黙ろうか。
「今年で最後なのはわたしだけじゃなくて、文香や穂香も同じでしょ?」
どうせなら3人でなにかをやり遂げてみたい。
「んー。確かに最後だけど、特にやりたいこともないしねぇ」
「何か特技があるわけでもなし。支えをやってる方がいいんだけど、そうやって言うからには何か他の案があるんだよね?」
う、それを言われると辛いけど。
「また劇をやるとか?」
1年生の時にやった『女吸血鬼カーミラ』はけっこう好評だったし。
「当然主役はゆきちゃんでしょ。何の劇をやるの?」
文香だって主役をやってもいいのに。カーミラをもう1回やるのもいいかもね。
「あ、だったらわたしがカーミラ役やりたいかも」
以前はローラ役で襲われる方だったから、逆の立場でやるのも面白そうだ。
「ゆきが……」
「あの妖艶な……」
「カーミラを……」
みんな何やら考え込んでしまった。え? なんかまずかった?
「ぶふぅ! は、鼻血が……!」
鼻と口を押さえて突っ伏してしまったサキちゃん。大丈夫?
「わたしがローラ役ならいいかも」
いや、そこは文香か穂香に譲ってあげようよ、ひよりさん。
「やめておけ。人死にが出るぞ」
どういうことでしょうか、穂香さん。
「町娘役の子達がバタバタと倒れていくのが目に浮かぶよ」
文香さん、それはどうして?
「もう。わたしがカーミラをやるのがそんなに問題あるの?」
「あー。ゆきちゃんそんなに女の子をたらしこみたいんだ」
人聞きの悪いことを言わないでくれるかな?
「そういう意味じゃなくて! ちょっと大人のイメージがあるカーミラってなんか憧れるでしょ?」
「大人の女に憧れるのか」
「いよいよ心まで女体化が進行してるね」
仁王様たちうるさいよ。
「どちらにしろ、今年は舞台をできないな。演劇部も去年よりさらに人数が増えちゃって、生徒会にまで役を回していられないだろうから」
そういうことは早く言ってくんないかな、穂香。女体化とか言われたじゃん。
うーん、だったらどうしよう……。
「やはりここはオンステージしかありませんね!」
びっくりした。急に生き返ってこないで。
でもここはサキちゃんの言うとおり、歌って踊るしかないのかなぁ。ん? 踊って……踊る……。
「ふっふっふ。いいこと思いついちゃった」
「お、わたしの真似ですか。それは悪いことを思いついた時の笑い方!」
悪いことって白状しちゃった。やっぱり自分が見たかっただけじゃねーか。
「サキちゃんの折檻は置いといて、文香と穂香、2人にはやってもらうことがあるよ!」
「折檻!」
「わたしたちも?」
「何をさせるつもりなの?」
「せっかん~~!」
あーうるさい! なんで喜んでるの!
「もう、ゆきちゃん! サキちゃんが喜ぶようなこと言っちゃダメでしょ!」
なんでわたしが怒られてるんだろう。理不尽だ。
「変態はほっといて、わたしらがやることって何?」
「よく聞いてくれたね、穂香。ズバリ! 二人にはわたしと一緒にステージに立ってもらいます!」
「ステージに? わたし歌えないよ?」
「そうじゃないよ、文香。歌はわたしが唄うから、一緒に踊ってもらうんだよ」
3人でのダンスってやってみたかったんだよね。2人のダンスはひよりとできるから、ちょうどよかった。
「ダンスなんて踊ったことないよ」
「わたしもだ」
「大丈夫! まだ文化祭まで半年もあるし、わたしがみっちりと教えてあげるよ」
基礎から叩き込む必要があるけど2人は運動神経も悪くないし、半年もあればなんとかなるだろう。
「ゆきちゃんわたしは~?」
「ひよりも新曲に付き合ってもらおうかな。新しいダンスを教えてあげる」
「やたー!」
「わたしは裏方でゆき会長をじっくりねっとり眺めたいです」
いちいち発言が変態っぽいんだよなぁ。いい子なんだけどね。
だけどこれで文化祭に向けてやることが決まった。なんだかんだでサキちゃんが持ってきてくれた案になったね。
「それじゃ、3人はこれから毎日わたしとランニングね!」
「「「えぇー」」」




