無属性中級魔法
「それにしても『マインドヒール』を使えるようになったのか。訓練の成果が出ているのかな?」
外はオレンジ色に染まり、訓練は中断してリーネの部屋に行って戻ってきた後、エルドアは机の上にある2つの魔法具を見てリーフに質問した。
「一応、元々『マインドヒール』は使えましたけど訓練でさらに使いやすくなりました。魔法制御力と魔力量が1段階ずつ上がったんですよ。ついにEランクになりました!」
リーフは嬉しそうに、ステータスプレートを俺達に見せてきた。
リーフ・クレイン(16)
魔法使い 得意属性【光属性】
魔法攻撃力 F++
魔法防御力 F+
魔法回復力 F++
魔法制御力 E+
魔力回復速度 F+
魔力量 E-
Eランク
スキル欄(3)
回復魔法使い
詠唱省略(小)
デュアルアクション
EXスキル
光の魔法使い
詠唱省略(光Ⅱ)
■■の加護
「本当だ、Eランクになってる。良かったなリーフ。」
「そういう君はどうなんだい?ステータスに変化はあったかな?」
「いや、俺は伸びてないな。魔法の制御がましになったとはいえステータスに反映される程でもないらしい。これならもっと魔法使いらしく戦っておくべきだったな。そうすれば魔法の制御もまだ出来てただろうし。」
俺の言葉に引っ掛かりを覚えたのかエルドアは、ん?と俺に向く。
「まるで魔法使いらしく戦ってないような言い方だね。」
「魔法も結構使ってたけど俺とリーフじゃ前衛が俺だ。だから『パワーライズ』で肉体強化して肉弾戦をすることも多かったんだ。」
「それはまた……かなり非効率な戦い方をしたもんだね。魔法使いは戦技と違って属性を使うことができる。だから属性魔法を使うものだが、……いや、確か君は全ての属性魔法が無属性になるって言ってたね。なるほど。」
俺の魔法の使い方に、顎に手を当て理解したかのように頷いた。
「『パワーライズ』以外に肉体強化系の魔法は使えるかい?」
「いや、ないけど……。」
「よくそれだけでやってこれたね?」
「デュアルアクションで二重にかけて強化したりしたからな。それに魔法使いだから肉弾戦ばっかりしてたって訳でもないさ。」
僅かに驚いた様子のエルドアに俺はそう言った。確かに肉弾戦も多かったが、魔法使いらしく魔法を使うことも多い。肉弾戦はあくまでも近距離の戦闘ぐらいでしか使わない。
「ふむ、まぁいいか。ユウキ、中級魔法の肉体強化魔法を教えようか?『パワーライズ』は初級魔法だ。肉体の強化幅もデュアルアクションを使ったところでたかが知れている。」
「ぜひ教えて欲しいな。」
「これから教える『マイトライズ』は中級魔法の中でもかなり上位の魔法だ。分かっていると思うけど、それだけ肉体強化値も大きいが、求められる魔法の制御力や消費魔力量も多い。」
そう言って中級無属性魔法『マイトライズ』の詳細をエルドアは話してくれる。
マイトライズ 中級無属性魔法
肉体強化値 C--
魔法制御力 D--
魔法効果時間 C--
消費魔力量 D
詠唱
我が身は欲する▪️さらなる力
説明
魔力を身体の一部分に集めることにより、身体能力を大幅に向上させる。両手両足など対になる部位であれば均等に魔力を込めることができる。繊細な集中力が必要であり、上手く強化部位に魔力を込められないと分散し、肉体強化値が激減する。
「肉体強化値C--……確か『パワーライズ』の肉体強化値はF+だったよな?」
『パワーライズ』との大きな差に驚く。さらに同じ中級無属性魔法である『マジックボム』のステータスを思い出してみるが、比較しても各ステータスが高くエルドアが言った中級魔法の中でも上位の魔法という言葉に嘘はないようだ。
マジックボム 中級無属性魔法
魔法攻撃力 D-
魔法制御力 F+
消費魔力量 E
射程 E++
魔法発動速度 E++
詠唱
更なる魔力纏いて・爆ぜよ魔弾
説明
ふわりと放物線を描きながら、何かに当たると爆発するバランスボール程の大きさの魔力の球体を放つ魔法。
「詳しく説明しよう。『パワーライズ』は初心者でも使える代わりに効果は低い。『マイトライズ』は『パワーライズ』の発展系の強化魔法だね。魔法の使い方も『パワーライズ』とあまり変わらない。強化したい部位に意識を向けて魔力を纏わせるんだ。でも、『マイトライズ』はより多くの魔力と繊細な集中力がいる。強化する部位を明確に意識しないと魔力が分散し、下手したら上手く強化できず、『パワーライズ』よりも効果が少なくなる。あと、長時間の使用も厳禁だ。筋肉痛になりやすいからね。」
「なるほど、今まで使ってた肉体強化魔法だけど、『マイトライズ』は集中力もいるのか。」
ちゃんと強化部位を意識して集中しないと効果が分散する。それを聞いてやはりさっきアストラサークルやマナロックキューブを使って訓練してよかったと振り返る。だが、ほんの少し訓練しただけで上手く使いこなせると確信はできない。
「ふむ、その顔……自信なさそうだね。」
俺の心境を見抜いたのかエルドアは俺を見てそう言った。
「そりゃ前例があるからな。」
恐らく今の俺の顔は引きつっているのだろう。ほんの少し前だが、初回だが出来ると思って大恥をかいた。
「あっ、『フォースパルス』?」
ゴンッ、と大きな音と共に俺の額に僅かに痛みが生じる。俺が机に頭を突っ伏した音だ。
「言わないで欲しかったなぁ!?本当にあれ思い出すだけで恥ずかしいんだが。」
「……〈内なる闇払う光〉」
「リーフさんや、さりげなく『マインドヒール』使ってくれるのはありがたいんだけど、どうやら羞恥心には効果ないようだよ?」
「あっ、そうなんですね……。えーと、元気だしてください。」
机に突っ伏しながらも頭を動かし、半目でリーフに対して言うと、リーフは気まずそうに俺の頭を撫でた。
「微笑ましいねぇ。とにかく明日試してみるといい。……ちなみに『プロテクトパネル』は使えるかい?」
「『プロテクトパネル』?いや、知らないな。魔法か?」
「そうだよ、防御魔法。ユウキは防御魔法でよく使うものはなんだい?」
「基本的には『ウォーターシールド』か『ウォーターフィルム』だな。真▪️無属性の効果で水属性の効果が無くなって防御力が下がっているけど。」
「ふむふむ、ということは無属性の防御魔法は習得していないと?」
エルドアの言葉にそう言えば攻撃魔法なら『マジックショット』や『マジックボム』があったが、無属性の防御魔法は一切習得していないことに気付いた。
「『プロテクトパネル』は無属性の防御魔法だ。それに『マイトライズ』と相性がいい。せっかくだから教えてあげようか?」
「……覚え切れるかな?」
流石に『フォースパルス』と『マイトライズ』、そして『プロテクトパネル』。初級魔法ならまだしも全て中級魔法だ。一度に覚えることができるか不安だ。
「これを見てみるといい。『プロテクトパネル』のステータスだ。『マイトライズ』と同じく中級魔法の中では上位の魔法だが、制御は簡単だ。」
プロテクトパネル 中級無属性魔法
魔法防御力 B--
魔法制御力 E++
消費魔力量 C--
魔法発動速度 D
詠唱
魔の力を糧に・現るは強固な守り
説明
前方に一辺20cmほどで厚さは1cmの透明なパネル障壁を15枚生成し自由に組み合わせ展開する。パネル障壁は自身の意思で操作可能で自由に組み合わせることができる。
術者は任意で起動、配置、解除が可能。
この魔法を発動中は別の魔法が使えず、解除するか、魔法が破られると他の魔法が使用可能となる。
またほかの魔法を使用すると強制的にこの魔法は解除される。
「魔法防御力B--!?」
「しかもこれだけ防御力が高いのに魔法制御力はE++って。」
『プロテクトパネル』のステータスを見てリーフと共に驚く。しかしよく見てみるとなぜこれほどまでに強力な魔法が中級魔法なのかが分かった。
「その表情だと気付いたようだね。確かに防御力が高く、制御もしやすい。消費魔力量は、まぁ少し多いけど最大のデメリットはそこじゃない。」
エルドアは『プロテクトパネル』の説明の文を指先で叩く。
「この魔法を使用している際、ほかの魔法が使えない。つまり防御しながら攻撃することができないんだ。」
「なるほどな……だからこそ、その高防御力か。でも、さっき『マイトライズ』と相性がいいって言ってたけどどういう意味なんだ?」
「『プロテクトパネル』を使っている間はほかの魔法を使えないが……。」
重要なことを言うようにエルドアはそこで一度言葉を区切り、にやっと笑みを浮かべる。
「『プロテクトパネル』を使用する前に使った魔法の効果が続いていたら?『マイトライズ』は『パワーライズ』と同じ、一度使用したらしばらく持続する魔法だ。」
エルドアの言葉にはっと気がつく。
「『マイトライズ』をかけて肉体強化、そして『プロテクトパネル』で防御しながら攻撃できるってことか!」
「流石だね。そう、『プロテクトパネル』のデメリットを上手く躱すことができる。最も近距離戦闘がメインになることは頭に入れておかないといけないけどね。
〈魔の力を糧に▪️現るは強固な守り〉。」
エルドアが『プロテクトパネル』の詠唱をすると、説明通り透明なパネルが15枚出現し、辺りをふわふわと漂っている。
「こういう風に命令を送って操作出来る。上手く使いこなせたら中級魔法以上の力を発揮できるだろうね。またグレイウルフやグレイトウルフ達に襲われてもあの程度の彼らの牙と爪ではこれを突破出来ない……。覚えて損は無いよ。」
15枚全て動かし、エルドアは自身の前に障壁を組み立て、それを解除した次は前後に半分ずつ配置し小さな障壁を組み立てて……と色々な使い方を見せてくれる。確かにこれならグレイウルフ達も余裕を持って相手できるだろう。
「俺もやってもいいか?……でも、室内だから制御しきれなかったらまずいか。外ももう暗くなるから出ない方がいいし。」
窓の外を見て肩を落とす。目の前でお手本を見せてもらえているのに今すぐに使うことはできない。まるで、欲しかったお菓子を買ってもらったのに家に帰るまで開けてはいけないと親に言われたあの頃を思い出す。
「あぁ、別にいいよ。さっきも言ったが『プロテクトパネル』は制御しやすい。ミスしたところで出現するパネルの枚数が少なかったり、形が歪んでるくらいだろうから使ってみるといいよ。……『マイトライズ』は明日にしよう。出力間違えてガッシャーン、は流石に……ね?」
俺ならやりかねない、僅かにでもそう思っているのか苦笑いを浮かべながらエルドアはそう言う。俺も物を壊すのは本意ではないため『プロテクトパネル』のみお試しでやってみることとする。
「えっとなんだっけ……。」
「〈魔の力を糧に▪️現るは強固な守り〉だよ。」
今日だけで色々と魔法の詠唱を頭に入れているため一瞬ごっちゃになってしまうが、エルドアが教えてくれる。
エルドアのお手本のパネルをイメージし、俺は詠唱を口にした。
「〈魔の力を糧に▪️現るは強固な守り〉!」
俺の周りにふわふわとパネルが出現する。
「数が足りないな、しかもなんか小さくて厚さも薄いし。」
「ちっちゃくて可愛いですね。あっ、別に煽ってるんじゃなくて……初回でこれだけ一度に作れるのすごいです!」
大きさまちまち、厚さもまちまち、できたパネルは8枚ほど。リーフが約5cmくらいのパネルを手に取り、褒めてくれる。悪い気はしないがやっぱり初回だと完全には無理か。
「うん、制御はしやすいからコツを掴めば完全な『プロテクトパネル』が使えるだろうね。2枚ほどはいいパネルが出来ているしね。」
そう言ってエルドアは比較的見た目が良いパネルを手に取る。そういえばどんな感触なんだろう?そう思い、もう1つのパネルを俺は手に取る。
「軽い……それに若干弾力がある?」
触ってみると見た目はガラスのようだが、僅かに弾力があり、指先が僅かに沈んで押し返される。まるでタイヤのようだ。
「衝撃を受け止めることに重きを置いているからね。ただ硬いだけでは一定以上のダメージを受けると容易く割れてしまう。守るためには硬いだけだと逆にそれがデメリットにもなりうる。」
「なるほど……。」
エルドアの説明に納得しているとエルドアが両手を叩く。
「さて、今日はもう休むといい。後で食事が出来たら呼ぶよ。」
「ありがとうエルドア。」
「本当にどれだけ感謝したらいいか、ありがとうございます。」
「何気にする事はない。リーネの容態を見るに明日には完全回復しているはずさ。彼女の心情は置いといてね。
とりあえず今日は泊まっていくといい。空き部屋が何ヶ所かあるから自由に選ぶといいよ。これ持っていってもいいよ?」
机にあったマナロックキューブをエルドアが俺に投げ渡す。さらにもう1つマナロックキューブを取り出しリーフにも渡す。
「暇な時にでも動かしておくといい、少しいじるだけでもいい訓練になる。」
「分かった。」
リーフと共にエルドアに礼を言って俺達は空き部屋に向かう。
「本当になんだか至れり尽くせりってやつですね。」
「エルドアには感謝しかないな。もしエルドアがいなかったらどうなっていたか……。」
「あとはリーネちゃん……ですね。」
「あぁ……そうだな。」
仲直りできるだろうか、そう思っていると少し心が軽くなった。
「……いやありがたいんだけど魔力大丈夫か?まともに魔力回復してないだろ。さっきも2回使ってたし。」
リーフが『マインドヒール』をかけてくれた。しかし、『マインドヒール』の消費魔力量はE-、さっき見せてくれたリーフの魔力量もE-だ。
「だ、大丈夫です。ユウキさんのためならこのくらい……。」
「魔力少なくなって足ガタガタ震えてるよリーフさん?ほら、休んでくれ。」
「は、はい。」
リーフを部屋に入れ、俺も別の空き部屋に入る。
「……とりあえず1面揃えれるように頑張ろう。」
揃えたところで意味もないらしいが、動かすことに意味がある。手の中にあるマナロックキューブを俺は黙々と動かし始める。
今日見せてもらった魔法はどいつもこいつも強力なものだ。いつまでもエルドアの世話になる訳にはいかない。こんな機会はないだろうから早く覚えないと……。




