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憧れの世界は牙を剥く  作者: ならくも


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いつもの儀式

「ふぅ……」


 重厚な扉を閉じ、部屋に誰もいないことを確認したあと、笑っていたであろう表情を真顔に戻す。


「……危なかったな。」


 先生――その言葉をこんなところで聞くとは思いもしなかった。ユウキ達が僕を先生のように見ている、それだけで顔が引き攣りそうになる。よくもまぁさっきはこらえることができたものだ。自傷気味に自画自賛しながら、部屋の奥にある机の引き出しを開け、一冊の本を手に取る。


「……。」


 無言で古びたページをめくる。なんてこともない、初級、中級魔法の記載されたただの本だ。ところどころジュースで色が付き、年月もたって黄ばんでおり、破れた箇所はテープで補修されている。そんな本をただただめくる。内容なんて頭に入らない。

 僕が今読んでいるのはかつての光景だけだ。


「……。」


 めくる手を止める。一枚の古びた写真がいつものページに挟まっている。そこには何人もの子ども達とまだ若かりし頃の僕が写っていた。


「皆待っていろ、先生が……必ず。」


 そこまで言ってページの間に写真を戻し、引き出しに本を仕舞う。いつもの儀式だ。あの目的に決意を高めるための、いつもの儀式。

 

 立ち止まってはいられない。

 少しでも早く目的のために今の自分を追い越さないといけない。そして今日の僕は幸運だ。


 森で偶然出会ったその姿を見た時、僕はさらに前に進める。そう思ったんだ。


「クル▪️リーネ……撒いた種の回収といこうか。」


 あぁ……本当に今日の僕は、幸運だ。





「様子がおかしかったな、エルドア。」


「先生、その言葉に反応してましたね。」


 エルドアが戻ってから俺はリーフに礼を言う。


「ありがとう、話題を変えてくれたおかげで空気を変えることができた。」


「いえいえ、一面が揃ったのは本当ですしね。」


 あそこでリーフが話題を変えてくれなかったら微妙な空気になっていたかもしれない。


「エルドアの前では先生は禁句だな、何があったかは知らないけど気を付けないと。それにしてもマナロックキューブよく揃えられたな。」


 俺はリーフが手に持つマナロックキューブを指して地球にいた頃に少しだけ触ったルービックキューブのことを思い出す。揃え方が全く分からずただただ回すだけのキューブとなっていた。そんな俺からすれば揃えても特に恩恵はないとは言え、一面揃っていることに素直にすごいと思った。


「ユウキさんもやってみますか?」


「あぁ、じゃあアストラサークルリーフ使ってみるか?」


「ですね、私も範囲魔法は『サークルリカバリー』しか使ったことがないので、今の自分がどれくらい魔力を広げられるか興味があります。」


「『サークルリカバリー』?」


 聞き覚えのない魔法を聞いてリーフに問いかける。


「あっ!そういえば私が『サークルリカバリー』使えることユウキさんは知らなかったんでしたっけ?

 自分を中心に魔法陣を作ってその中にいる人達に回復効果を与える中級光属性魔法ですよ。知ってます?私達が戦ったヒューデットは回復効果のある魔法が弱点で、ミラン村では『サークルリカバリー』を使ってヒューデットを相手したんですよ。今は使えないですけどね。」


 ほんの少し、その顔に影を残しつつも、明るくなんてこともないような感じでリーフはそう言った。

 

「そうか……辛いことを思い出させたな。すまない。」


 まだあの事件があって少ししか経っていない。まだまだ完全に心が回復した訳でもないだろうし、リーフの表情につっこむつもりはない。

 

 ミラン村でヒューデットを相手した。つまり村人達を『サークルリカバリー』の回復効果で倒したということだろう。そんなことを思い出したリーフの心中は優れているものでは無いと思い、即座に俺は辛い過去を思い出させてしまったことに謝る。


「いえ……むしろ『サークルリカバリー』で浄化できたって考えれば、村の皆も報われているはずです。私もそう思っていますので気にしないでください。」


「あぁ、分かった。……それにしてもこれどうやって動くんだ?」


 ヒューデットの話題はここまで、そう告げるように俺はマナロックキューブを動かそうとするも僅かにギシギシと音を立てるだけでちゃんと動かない。


「ユウキさん、それ力で無理やり動かそうとしてますよ!こ、壊れちゃいます!」


「いや、こいつ魔力込めても動かないんだが……。」


「そういえばさっきエルドアさんが言ってましたね。持ち主の魔力量に比例して高い魔法精度を求められるって。だから私の時より動かしにくくなっているのかも?ユウキさんの魔力量はC++だったはずですよね。なら動かしにくくなっているのも納得です。」


「精度ねぇ、俺は魔法操作とかはあまり自信ないな。どちらかと言うと魔力を多め使って戦うことが多いな。」


 器の使徒である俺は、Dランクの中でも魔力量はかなり高い。神気解放中なら『魔力昇華』の権能で注ぎ込める魔力の上限値すら消える。

 神気解放をしない時でも多少は魔力を魔法に多く入れても暴発しないため、魔法の効果が低いと思った時は魔力のゴリ押しでいつも解決していた。


「でもユウキさんは魔力量が多いですよね。そんなユウキさんが魔力の制御も上手になったら……とても強くなれると思いますよ。」


 目をキラキラとさせながらリーフはそう言った。そんな目をされたら……


「さってと、こんなもん軽々と回してやろう。」


 計算してるのかしてないのか……リーフは人のやる気を出させるのが上手い。


「私もこっちやってみます。」


 アストラサークルを片手に集中するため、リーフは目を閉じる。


 俺もマナロックキューブを再び動かそうと魔力を練り上げキューブに流す。指に力を入れキューブを動かそうとする。さっきよりも集中したからかキューブも動かしやすくなっているが、途中でキューブが押し戻そうと抵抗してくる。


「このキューブ生きてるみたいに抵抗してくるなっ……」

 

「なかなか動かすの難しいですよ、そのキューブ。あっついた、6つ……?」


「えっ、マジか。」


 リーフの思わぬ結果に意識が向き、キューブが元に戻るがそれよりも……


「最初の俺よりついてるじゃん。」


「私も予想外でした。ついたのは前、斜め方向と後ろが2つずつですね。」


「エルドアは俺に単発魔法の癖があるって言ってたけど……魔力を多めに込める癖もあるからか?だから最初は魔石があんなに少ししかつかなかったのか。」


 自分で自分の戦いを振り返ってみる。そう頻繁にやるわけじゃない。だが、これまで何度も魔力量で無理やり押し切ってきた。それができたのは器の欠片のおかげだ。

 

 器の欠片はステータスを上昇させる。それはありがたいことなんだが、もしも重症をおって器の欠片が一気に排出されたら……魔力量はD-ほどになってしまう。


「……。」


 口に手を当て表情が歪むのを感じる。ココ最近強い敵と出会うことが多い。器の欠片が排出されることもあるかもしれない。事の重大さに今更気付く。

 今の俺に必要なことは魔法の制御力だ。それはこのキューブをまともに動かすことができない時点で明らか。もしも魔力を無駄なく扱うことができれば、少ない魔力でもこれまで以上の効果を引き出すことができるだろう。


「訓練の内容は決まったな……。リーフ、悪いが少しマナロックキューブを貸しといてくれないか?」


 再びアストラサークルで魔力の計測をしているリーフに提案する。すごい、今度は魔石が7つついている。


「構いませんよ、私もこっちで魔力の練習しておきますね。」


 リーフに許可を貰い、マナロックキューブに集中する。内部の魔力回路に魔力を通し、動かしたい縦方向に慎重に魔力を込める。


 カチッ――


「っ……!」


 さっきとはうってかわって驚くほどスムーズにキューブが1列回った。よしこのまま集中して色をそろえ――


 ガチッ――


「……この程度で集中力切らすなよ俺。」


 たった1列気持ちがいいほどにスムーズに回っただけで集中力が切れたようだ。自分に嫌気が刺しつつも再度挑戦する。


 カチッ――カチッ――


 10分ほど集中していただろうか。コツを掴んだ俺は一定の魔力を送り、操作しながら次々にキューブをスムーズに動かしその色を変えていくことに成功している。

 

 流石は訓練用魔法具と言ったところだろうか。この短時間でかなり魔法の制御が上達したと、自負できるほどキューブは淀みなくスルスルと動く。


 だが、それと色を揃えられるかは別問題のようだ。

 

 次から次へ面の色は変化し、そして――――


「……色揃わないんだけど」


 一面も色の揃っていないキューブが俺の手の中にはあった。そういえば俺ルービックキューブも揃えること出来なかった。それを思い出しぎこちない笑顔で見ているリーフに魔法具の交代を提案した。


 ……別に色が揃わないから交代した訳では無い。

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