範囲攻撃魔法
エルドアに連れられ建物の裏側へと案内される。そこは不自然なほど開けた空間が広がっており、周囲は木々で覆われているが、その空間だけは焦げ跡や砕けた岩、荒れた地面など明らかに不自然な光景が広がっていた。
錬金術で作ったアイテムの実験として使っているのだろうか?
「ここは僕の錬金術で作ったアイテムのテストに使っているんだ。ここなら多少の魔法くらいなら他に影響ないしね。それでどんな魔法を覚えたいんだい?」
「私は2人を助けたい……力になりたい。そんな魔法はありますか?」
「ふーむ、確かに君は先程の戦闘中、ケイブスパイダーの麻痺もありほとんど何もできてなかったね。ケイブスパイダーの麻痺がなかったとしてもステータス的にグレイウルフ一体を倒すことも難しかっただろう。」
「うっ……」
エルドアの正論に心当たりがありすぎるのか、リーフは黙ってしまう。
「あぁ、別に君を落ち込ませたいという訳では無いんだ。ちなみにランクが下がったと言っていたが、実は君は中級魔法もいくつか使えたんじゃないか?」
「そうですね、ランクが下がる前なら『ライトヒール』、『マインドヒール』に『ライトソード』、『サークルリカバリー』とかも使えていました。光属性以外だと『ファイア』や『ファイアアロー』などの基本的な初級、中級魔法がいくつか使えました。今はランクダウンのせいで使えませんけど。」
「なら、今はステータスを戻すことを優先した方がいい。それだけの魔法を使えたのなら、以前のステータスに少しでも近づける方が新しい魔法を覚えるよりも確実だよ。」
そう言ってエルドアは『マジックポケット』からなにかを取り出す。
「ルービックキューブ?」
「なんだいその名前?」
「いや、なんでもない。」
エルドアの取り出したものを見て思わず口を出してしまう。
六つの面はそれぞれが赤や青など異なる色で彩られている。
「これはマナロックキューブっていう道具だよ。内部に特殊な魔力回路が組み込まれていて、回転させたい箇所に正確に魔力を流さないと動かないんだ。使い続ければ魔力制御や操作精度が鍛えられる。魔力量の増加にも多少の効果はあるよ。」
そう説明しながら、元々ぐちゃぐちゃになっていたキューブを片手で回していく。
カチ、カチ、と小気味よい音が響く。気付けば色ごとに面が揃っていた。
「すごい……」
リーフが思わず呟く。
「慣れれば簡単さ。」
エルドアはそう言うと、今度は面を滅茶苦茶に崩し、リーフへ投げ渡した。
「わっ……と、えーとこれを揃えればいいんですか?」
「うん、ちなみに持っている者の魔力量に応じて難易度は変わる。君くらいの魔力量なら動かすのにそこまでの魔力量は必要ないはず。」
「俺も後でやってみたいな。」
「確か君は魔力量はC++だったっけ?魔力量が多い者ほど繊細な制御技術が要求されるよ。大量の水を細い管に入れるようなものだね。ある意味魔法使いとしての技量を測る道具でもあるんだよ。さて、次は君だよ。君はそれなりにステータスも高い。ある程度の中級魔法くらいなら特訓すれば覚えられると思うよ。」
「俺の覚えたい魔法は範囲攻撃魔法だな。グレイウルフ達に囲まれた時、数が多くて対処しきれなかった。そのせいでリーネにも怪我をさせ、リーフにも負担をかけてしまった。俺がもう少し強ければあんな危険な目には合わなかった。」
「どっちにしろ、グレイウルフには手こずったとは思うけど過去を振り返ることは大切だね。そんな君にピッタリな魔法があるよ。」
『マジックポケット』からペンと紙を取り出し、何かを書いて俺に見せる。そこには魔法の名前とステータス、効果が書かれていた。
「『フォースパルス』?」
フォースパルス 中級無属性魔法
魔法攻撃力 E
魔法制御力 D-
魔法発動速度 C
魔法効果範囲 C-
消費魔力量 D-
詠唱
魔力の陣よ•外敵に衝撃を
効果
自身を中心とした半径1.5mに魔法陣を作り出す。発動と同時に魔法陣の外周から全方位に衝撃波を与える敵を吹き飛ばす。低威力だが、包囲網の突破や牽制に効果的。魔法陣の内部にいる者には衝撃波の影響は受けない。
「今の君ならステータス的にも使えるはずだ。ここに書いている通り攻撃力は低い、でも全方位に衝撃波を与えるからグレイトウルフ達と戦った時に必要なものが揃っていると思わないかい?お手本はいるかな?」
「確かにこれがあれば、またあの時のような状況になったとしても突破出来るかもしれないな。」
全方位に衝撃波を出す攻撃魔法だ。お手本を見せてもらうとなるとリーフが巻き込まれてしまうかもしれない。
「リーフすまない、ちょっと来てくれないか?」
「え……は、はい、あっ……」
マナロックキューブを操作していたリーフが俺の声に反応すると、現在操作していたところがぐるっと回って戻ってしまった。あっ、という悲しいリーフの声が漏れるが、操作を中断して俺達の元に来る。
「な、なんかごめん集中してる時に。」
「いえ、気にしないでください。」
「今割と動かせてたから結構集中してたみたいだね。」
「ふぁ!?いや待ってくださいリーフさん、怒っていませんよね!?」
エルドアの言葉に完全に動揺し、早口でリーフ様の前で土下座を行う。
「お、怒ってないですよ!大丈夫です……もうちょっとだったのになぁ。」
「ごめんなさい」
「ふふっ、冗談ですよ。本当に怒ってないです。ほら立ってください。」
リーフの後半の言葉を聞いた時は終わったと思ったが、すぐにリーフは笑みを浮かべ手を差し出し、俺を立ち上がらせてくれた。やはりリーフは優しい天使だ、そうに違いない。
「『集中していた』私を呼ぶくらいなんです。なにかあるんですよね。」
「や、やっぱ根に持ってるんじゃ……コホン、いや範囲攻撃魔法教えてもらうからリーフが巻き込まれると思って呼んだだけだ。」
やっぱ悪魔かもしれない。まぁ、ガチモンの悪魔を見たことある俺からすれば可愛い悪魔だが……意識がそれたな。
「実践してみようか、二人とも僕の近くに集まって。」
気持ちを切り替え、エルドアの言う通りエルドアの近くで待機する。
「イメージは魔法陣を思い浮かべ、その外周から全方位に衝撃波を出すんだ。この魔法陣は『フォースパルス』の影響を受けない。つまり安置だ、リーフ達と共闘する時にこの魔法を使う際は影響範囲内にいた場合、この魔法陣の中にいないと衝撃を食らうから注意するんだ。〈魔力の陣よ•外敵に衝撃を〉」
エルドアが詠唱を唱えると地面にエルドアを中心とした半径1.5mほどの魔法陣が出来上がり、その外周から目に見えるほどの衝撃波を繰り出した。
「おぉ……」
360°どこを見ても衝撃波が発生し、風で飛んできた葉っぱを吹っ飛ばした。
「これはいいな。俺もやってみていいか?」
「ちょっと待ってくれ、リーフあそこまで下がるんだ。」
「えっ、はい!」
俺が言うとリーフは少し離れた岩の元に行き、エルドアも少し離れてOKのサインを出した。
「なんでそこまで離れて……まぁ、初回だし範囲攻撃魔法だからか。」
少しビターな気持ちになりながらもさっきのエルドアの詠唱を思い出し、詠唱開始する。
「〈魔力の陣よ▪️外敵に衝撃を〉!」
エルドアがさっきお手本で見せてくれた魔法陣を頭の中でイメージし、詠唱をする。俺の足元には少し小さいながらもエルドアと同じような魔法陣が浮かび、俺は一発で成功したことに喜び、少しカッコつけて技名を言いながら手を前に突き出した。
「いけっ、『フォースパルス』!」
…………しかし何も起こらなかった。
「あれ?」
「ふ、ふ……ま、魔法陣を作るのに夢中になりすぎていたみたいだね。ふ……衝撃波を出すイメージもしないとダメだよ。と、というか、くふっ、わ、笑うな。
コホン、なんで必要ない技名を言ってカッコつけてるんだい?」
「イ"ヤ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"!」
「ユ、ユウキさん……大丈夫です。んふっ、失敗は誰にでもあるものなんです。」
恥ずかしさで悶絶していると、リーフが慰めてくれる。だが、リーフよ、今にも笑いが堪えられないという表情で慰められても俺は傷つくだけだよ。
「しょ、衝撃波のイメージね。はいはい分かった分かった。」
自分に言い聞かせるように笑っている二人を意識しないようにして――やっぱ笑ってるの傷つく。……意識しないようにして魔法陣とそこから衝撃波がでるイメージを持って詠唱を紡いだ。
「〈魔力の陣よ▪️外敵に衝撃を〉!」
魔法陣は先程よりもうまく作ることができた。そして衝撃は……ぶんっ、と音を立てて目の前の岩に衝撃波が命中したのが分かった。岩は僅かに傷がついたが、割れたりはしなかった。元々牽制用の魔法だ、そこまで攻撃力に期待する魔法でもないだろう。
「衝撃波出たな。」
「うん、出たね。でも……」
「目の前の岩にだけ衝撃波が飛んだ気がします。それ以外の範囲は……何も変化なし?」
「これは範囲攻撃魔法を最初に使用する人あるあるだね。今までは前方に攻撃する単発の魔法ばかり使っていただろう?」
エルドアの問いに俺は首を縦に振る。『マジックショット』に『マジックボム』、『ファイアアロー』などほとんど使ってきた攻撃魔法は前方に放つ魔法だ。
「無意識に一方向に放つ癖がついている。それを克服しないと、範囲攻撃は難しいだろうね。」
「うーん、〈魔力の陣よ▪️外敵に衝撃を〉」
魔力の広がるイメージを強く持ち、再び『フォースパルス』を放つ。
目の前の岩とその左右の地面が砂煙をあげる。
「前方に少し広がってはいるね。でも、そのほかの方向はまだまだだ。」
「……難しいな。」
「ん、そういえば……」
俺の魔法を見たエルドアは微妙そうな顔で呟き、なにかに気づいたかのようにはっと、表情を変えて『マジックポケット』からなにか取り出した。
「これを使ってみるといい。」
「これは?」
「アストラサークル、マナロックキューブとは違って魔力の広がりを感知する魔道具だね。魔力を広範囲に放つ練習をするときに使われるものだよ。」
エルドアが手のひらにアストラサークルを乗せ、俺に使うように促す。見た目はほぼコンパスのようで円形の形をしている。外周に12個の青くて小さな魔石がはめ込まれている。
「これを水平に持ちながらもう片方の手で魔力を放つんだ。魔法を使うんじゃなくて純粋な魔力を放出するんだ。そうすれば魔力が放たれた方位を魔石が感知して、魔石が光る。
全方位に放つことができれば、12個の魔石全てが一度に光るはずだ。
逆にさっきの感じだと良くても前方向の魔石3つが光るくらいかな。」
「3つ……3つねぇ?」
アストラサークルを片手に持って、体内の魔力をもう片方に集めて放出する。
「……3つですね。」
苦笑いを浮かべアストラサークルの光った魔石を見てリーフは呟いた。
「……。」
「ふむ、やっぱり前方向に多く魔力が放出されているね。……君は今まで敵を目視して、その場所に向かって魔法を使ってきただろう?」
「まぁ、そりゃそうだ。敵を倒すために魔法使ってるからな。」
「だからこそ魔力も敵の方向、前に向かって無意識に放出される。全範囲に魔力を広げるイメージ力が足りていないんだ。」
「うーん、イメージしてるはずなんだけどな。」
「イメージしていたとしても現時点では全範囲に魔力は放出されていない。……そうだね、池に石を投げたことはあるだろう?石が着水した箇所を中心に全範囲に波紋は広がっていく。ここで大事なのは着水した箇所=自分ってことだ。自身を中心に魔力を広げる。逆に今までの君は水鉄砲と言ったところかな?狙った方向に一直線に魔力を放出している。」
「っ!なるほど。」
波紋、それで弱かったイメージが強固になった。
「波紋……波紋……」
一人で呟きながら俺は目を薄く閉じ、魔力を高める。
「波紋……こうかっ!」
高めた魔力を放出する。前、横、後ろ、全ての方向に魔力が広がっていくのを感じる。
「っ、すごい!」
リーフの声に俺は手元のアストラサークルに目を向ける。アストラサークルの青い魔石は先程よりも光る数が増えており、確実にそれがさっきまでの俺よりも理解し、成長したことへの証明になった。
「8つ点灯か。だいぶイメージは掴めたみたいだね。斜め方向に魔力がいかなかったところがあるけど、繰り返しすればコツを掴めるだろうね。」
「ありがとう、エルドア。波紋のお陰で強固なイメージを掴めたよ。」
嬉しさ半分。感謝の気持ち半分でエルドアに礼を伝える。
「構わないさ。上手くいって何よりだよ。」
「エルドアって教え方上手いな。魔法具だって人に教えるようなもの持ってるし、先生とか似合いそうだな。」
「先生……」
上機嫌になった俺はエルドアにそう言うと、エルドアの表情が変化したのが分かった。先生、の言葉に反応した?エルドアは無言で遠くを見るような視線だ。
「……エルドアさん、一面ですけど色が揃いました。」
何かを感じたのかリーフはエルドアにマナロックキューブを見せる。その手には赤の面だけが揃っており、その他の色はまだぐちゃぐちゃだった。
「……ん、おぉ揃ったのか。」
反応が遅れていたがエルドアはリーフに反応した。
「あの、これって色が揃ったら何かあるんですか?」
「いや、色を揃えてもなにもない。元々は魔力操作や魔力制御力を鍛えるための訓練道具だからね。キューブを動かすだけでも訓練になる。それだけだと退屈だから色を揃える要素があるってだけさ。」
「な、なるほど、でも確かに理にかなってますね。」
エルドアの説明に納得したのかマナロックキューブを見て目を丸める。
「全色揃えるのを目標にするといい。その分操作回数も増えていつの間にか魔力制御力は伸びているだろうしね。
さて、僕は少しやることがあるから部屋に戻るよ。好きなだけ練習しているといいよ。」
「あぁ、この調子で『フォースパルス』をものにしてみせる。」
俺の啖呵を聞いてエルドアは微笑むと、片手を振りながら部屋へと戻って行った。
今回使用した魔法
フォースパルス 中級無属性魔法
魔法攻撃力 E
魔法制御力 D-
魔法発動速度 C
魔法効果範囲 C-
消費魔力量 D-
詠唱
魔力の陣よ•外敵に衝撃を
効果
自身を中心とした半径1.5mに魔法陣を作り出す。発動と同時に魔法陣の外周から全方位に衝撃波を与える敵を吹き飛ばす。低威力だが、包囲網の突破や牽制に効果的。魔法陣の内部にいる者には衝撃波の影響は受けない。




