ユウキ達の願い
「おっと、馬はどうするかな。」
「それならそこの柵に繋いでおくといい。そこら辺の草なら食べても害はないだろう。」
「ありがとう、ここでゆっくり体を休めるんだぞ。」
エルドアが指差した柵に馬を繋いで頭を撫でる。馬は気持ちよさそうに鳴き、俺は手を離してリーネを担ぎ、拠点に入った。
ギィ、と重厚感のある木製の扉を開けると嗅いだこともない匂いで内は充満していた。害は無さそうだが、甘いような鉄臭いような匂いが混ざりあっている。
「不思議な匂いだな。」
「錬金術で様々な素材を使うからね。薬草や木の実、鉱石や鉄など色々使っていたらこんな匂いになってしまったよ。」
エルドアは苦笑い交じりにそう説明する。最初に目に入ったのは様々な色の液体が入ったゆっくりと泡立っているたくさんのフラスコだ。中には淡く光り輝く液体もあり、それが泡立っているとなると、まるで神秘的な生き物を見ているような気分になる。その他にも壁に吊るされた恐らく魔物と思わしきものの革や、机の上には角や牙、乾いた薬草などが整理されており錬金術で使う素材なのだと察する。
中でも特に目を引くのは巨大な金属製の釜だ。中には液体が入っており恐らくこれが錬金釜というやつなのだろう。
「君は錬金術に興味があるのかい?さっきから興味が尽きないという目をしているけど。」
「興味はあるけど……とりあえずはリーネだな。」
興味もあるし色々と聞いてみたいこともある。だが、それをグッとこらえてまずは今担いでいるリーネの治療が最優先だ。
「とりあえずリーネは大丈夫……と思いたいな。」
「そうですね……。」
リーネを治療室に運んだ後、椅子に腰掛けてリーフに話しかける。落ち込んでいる表情ではないが、心配や疲労といったものがリーフの表情に現れている。
「せっかくエルドアが休ませてくれるんだ、リーフも少し寝るか?」
ケイブスパイダーにグレイウルフたちの襲来でかなり体力を持っていかれた。疲れがあるのも当然だ。
「いえ、大丈夫です。リーネちゃんが起きたらどんなふうに声をかければいいかなって悩んでいるだけです。」
俺の心配が伝わったのか軽く笑いながらリーフは悩む。
「もう無視されたりするのは流石に私も心に来るんで。」
胸を抑えるリーフに俺も同情してしまう。
「なるほどな、それに心配事も少しあるしな。」
「と言うと?」
「リーネは人間不信だろ?今までは俺とリーフだけだったがそこに新たにエルドアも加わった。エルドアに対してどんな反応をするだろうな。」
「……あぁ。」
リーフも察したのか目を閉じふぅと、一呼吸置く。
「仲良くなるための課題はたくさんありますね。目が覚めたらどういう対応をすればいいのか……。」
「んー、あえて少し距離を置くっていうのはどうだ?」
「距離を……置く?」
それを聞いたリーフははてなマークが頭上にあるかのように可愛らしく首を傾げる。……うん、可愛い。じゃなかった。
「無理に仲良くなろうと会話すると警戒されるのは分かっただろ?最低限だけ話してあとはリーネが話したくなるまで待つんだ。」
「リーネちゃんが話したくなるまで……そんなことあるんでしょうか?」
俺の提案にリーフは少し懐疑的だ。
「その話、僕も混じってもいいかい?」
「あぁ、もちろんだ。」
リーフと話していると薄い緑色の飲み物を3つ机に置いたエルドアが椅子に腰掛ける。
「ハーブティーだよ、疲労回復にうってつけだ。」
「ありがとうございます。」
ハーブティー、日本にいた頃は全く飲んでいなかった。どんなものなのか不自然に思われないように軽く匂いを嗅いで、俺でも飲めそうだと判断しカップを傾ける。
「おぉなんか身体が軽くなった気がする。」
ハーブティーを飲むと体が少し軽くなったような気がする。味も悪いものではなく砂糖が入っているのかジュースのような味だ。
「それであの子は人間不信だって?まぁ獣人だし納得だね。特に奴隷である彼女は酷いことも沢山されたんだろうね。今回の件以外の小さな古傷も沢山あった。人間相手に心を閉ざすのも納得だよ。」
「リーネはどんな状態だ?」
「まだ寝てるよ。でも安心して。高い効果を持つポーションを使った。激しい運動をしないことを条件に内側から徐々に傷を癒すポーションだよ。1日あれば彼女の負った大半の傷が治るはずさ。」
それを聞いたリーフが視界の端でほっと息を吐くのを見た。俺も同じだ、まだ出会ったばかりとはいえ共に死線をくぐり抜けた仲だ。リーネが俺のことをどう思おうと俺はリーネのことを仲間だと思っている。
「そうか、良かった。な、リーフ。」
「はい、それを聞けただけでも少し心が軽くなります。」
「君達も疲れているだろうししばらくここで休むといいさ。ところで君達はこれからどこに向かうつもりなんだい?」
「王都に向かうつもりだ。リーネも王都に向かうつもりらしい。」
「へぇ王都に?僕は王都からこっちに戻ってきたんだ。今だと王都にある魔法学院や、戦技学院が新入生を集っていたな。」
戦技学院?もしかして王都には魔法使いの育成機関の他に戦士を育成する機関もあるのだろうか。
「私達はその魔法学院に入学するために王都に行くんですよ。」
「ふむ、試験までまだ少し時間はある。早くリーネが目を覚ますといいね。」
「だな、でもまた魔物達に襲われるかもしれない。エルドアは魔法に詳しかったりするか?」
「ん?まぁ魔法使いとしてそこそこの腕はあると自負している。錬金術で作ったアイテムで戦うことが多いが、魔法も使うよ。」
その言葉を聞いて俺はエルドアにとあるお願いをすることを決めた。
「ならエルドア、俺に魔法を教えてくれないか?」
「魔法かい?別に構わないよ。」
「さっき俺はグレイウルフ達に勝つことができなかった。エルドアが来てくれなかったらどうなっていたことか。しかも、その前のケイブスパイダーにすら手こずる有様だ。」
「あれは私が弱かったからです。魔法を覚えるなら私が!」
首竦めて自虐気味に言う俺にリーフは俺の言葉を否定する。
「ふむ、それなら2人に魔法を教えてあげよう。とりあえず2人のステータスを見せてもらおうか。どのレベルの魔法を覚えられるか確認しないといけない。」
ユウキ•ツキモト(17)
魔法使い 得意属性【無属性】
魔法攻撃力 D++
魔法防御力 D
魔法回復力 D
魔法制御力 C--
魔力回復速度 D
魔力量 C++
Dランク
スキル欄(4)
詠唱省略(小)
デュアルアクション
マルチターゲット
冷静沈着
EXスキル
無の加護(真・無属性)
リーフ・クレイン(16)
魔法使い 得意属性【光属性】
魔法攻撃力 F++
魔法防御力 F+
魔法回復力 F++
魔法制御力 E-
魔力回復速度 F+
魔力量 E--
Fランク
スキル欄(2)
回復魔法使い
詠唱省略(小)
デュアルアクション
EXスキル
光の魔法使い
詠唱省略(光Ⅱ)
■■の加護
ビギシティを出てからステータスを見ていなかったが、俺は魔法回復力、魔法制御力、魔力回復速度が一段階ずつ上昇した。
「あれ、なんかスキル増えてる?冷静沈着?」
「ふむ、冷静沈着を持っているのか。それは理性を失わずに幾度か死線を乗り越えた者が手にするスキルだね。効果は理性を保っている限り、魔法制御力が2段階的上がる。」
「まじか、結構強いな。」
「いいですね、ユウキさん。」
俺の新スキルに羨ましそうな目でリーフは見るが、リーフで元々Fランクに落ちていたが、ブラックボアやケイブスパイダー、グレイウルフ達と戦ったことにより、魔法制御力、魔力回復速度、魔力量が二段階、魔法攻撃力、魔法回復力が三段階と全体的にバランスよく一気にランクが上がっていた。俺は元のランクがそこそこ上であまり伸びなかったから俺からしてみればリーフの方こそ羨ましい。
「私こんなに上がっていたんですね。しかももう少しでEランク。」
「ほぉ……二人とも僕が魔法を教える代わりに少し教えてもらいたいことがあるんだ、君達のステータスを見て気になったことがあってね。」
リーフと目を合わせ別にいいかと思い、エルドアの提案に乗ることにする。
「まずはユウキ。君は無属性が得意属性なのかい?」
あぁ、これは前もあったな。
「そうだ、無属性が得意属性で真•無属性という属性が使える。」
「やっぱりか……その真•無属性の効果を聞いてみたいんだ。」
俺は真•無属性の効果を説明する。
「全属性を無属性に……か。なるほど。」
俺の真•無属性の効果を聞いたエルドアは一瞬だけ考えるような素振りを見るがそれもほんの一瞬で、俺から視線を逸らしてその視線はリーフへと向かった。俺の真•無属性が弱いと思われているのか、やけにあっさりとした反応で少し動揺してしまう。
「次はリーフ、君だ。君はFランクだが、得意属性が光属性となっている。基本的にはEランクにならないと自分の得意属性は決まらない。光属性を持っているということは君は光の加護を持っているということかい?」
エルドアの話で俺は神界でステータスについて教えてもらったことを思い出す。確かべシールが産まれた時から属性が決まって産まれてくる場合があると、その者は火なら火の加護、水なら水の加護を持ち、俺と同様に魔法創造でオリジナルの魔法をひとつ作ることができるのだと。
リーフの場合は■■の加護の使用により、Eランクになった後にランクが下がったから光の加護持ちではない。エルドアは勘違いしているようだ。
「いえ、私は元々もっとランクが上だったのですが、このEXスキルを使ったらランクが下がってしまったんです。だから一度Eランクになった際にこの光属性は私の得意属性になりました。」
「これはまたイレギュラーなことが起きたね。この不可解なEXスキルはなんだい?」
興味をそそられたのか顎の下に触れながらエルドアはリーフにさらに質問する。
「私もよく分かっていないんです。分かっているのは使ったらほんの一時だけ強くなれること、でもその後に死にそうになるほどの思いをして、助かってもステータスがものすごく下がることくらいです。」
「大きな代償付きの強化加護って感じかな。なるほど、よく理解したよ。二人共ありがとう、次は僕が君達の願いに答える番だ。ここじゃ十分に魔法も練習できないから外に出よう。」
その言葉に俺はハーブティーを飲み干し、リーフと一緒にエルドアについて行く。新たな魔法を覚えることができる。これで俺はリーフやリーネを守ることができるんだろうか?
「はっ……」
「ユウキさん?」
「いやなんでもない。」
守れるのか?そう思った数秒前の俺に思わず笑ってしまった。俺は世界を救うためにべシールから器を授かったんだ。どうせ最後には魔王を倒さないといけない。リーフやリーネすら守れない俺が魔王を倒せるわけがない。魔王よりも格段に弱いやつらを相手にこんな弱気ではいられない。




